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追撃と戦後指示

 

「何がもう少しとは。」

「こちらが勝てたのにということだよ。」


 そこには自信がある表情であった。こちらにとってはもう策は出尽くしたのだが。今後、伏兵もありそうにない。ハビエルの落石も開始して、こちらの戦力も集まっていた。簡単にこちらもやられることはないと思っているが。


「少し意外そうな顔をしているな。簡単なことだ。流れがこちらに来るように精鋭部隊が頑張るだけだからな。さて、この戦いは負けたが、貴様の命はもらうぞ。もし、今後ここに攻め込むことがあれば、貴様が居なければ勝てると思うからな。あの熊の怪物よりも貴様が危険だ。」


 俺は思わず体が下がるのを感じた。馬と共に相手の威圧にあてられたらしい。しかし、ものすごい威圧を感じるのは体だけではなく感覚的にもわかる。槍を構えただけでこの威圧と殺気だ。普通の人間ではない。それこそ、十分にヴァルガや族長たちと渡り合えるぐらいの実力を持っている。なにせ、カテーナの時よりも濃厚な殺気があてられているのだから。

 ヴァルガが何かを叫んでいるが聞こえない。それよりも前に集中しなくては殺されるだろう。それぐらいは凡人の俺でもわかる。


「ふむ、さすがに横やりが入りそうだな。」


 彼は槍を構えた。俺は逃げようとしていたが体が言うことを聞かない。仕方なく腰に護衛用に持っていた剣を抜いた。震える足に力を籠め、馬の手綱をしっかりと握った。馬も俺の覚悟を知ったのだろう。震えが止まった。


「逃げられないなら戦うことを選ぶか。うちの文官にも学ばせたいな。だが、それは悪手だぞ。俺に勝つとも思えない奴が武器を取るなど愚の骨頂だ。」

「そこまでは考えていないさ。あくまでも自分が思った最善をたどっているだけだ。」

「…それが言えるだけでも大したものだ。名前は。俺はマイルズだ。」

「カツナリだ。」

「覚えておくぞ。文官でありながら俺に立ち向かってくる勇の者よ。」


 彼は予備の動作もなく、俺の額を狙ってきた。俺は思わず剣で受けたが、重みに耐えることができず剣を落としてしまう。追撃の槍が迫ってきたところで態勢を崩していた俺は右肩に槍を受けてしまう。槍に鮮血が噴き出す。そして、痛みが頭から降ってきた。カメレオン族のカテーナの時よりも鋭く意識する痛みである。俺は呻き声をあげてしまう。


「よく受けたな。並みの兵士ではすぐに死んだが。だが、2回目はないだろう。」


 俺は咄嗟に左手で肩を触り、血をマイルズに振りかけた。周囲の異変を感じ取った。俺の行動は王に届いた。


「そんなことをしても、」


 彼の隣にはヴァルガが立っている。彼は態勢を整えようと槍と馬に力を入れようとするがその一方がうまくいかなかった。俺が槍をもっていたからだ。少しの間だが、強者にはその一瞬が命取りになる。

 マイルズはヴァルガの一撃を間一髪防いだが、馬鹿力に押され馬から落とされてしまう。その時に頭を打ったのか起き上がることはなかった。死んでいることはないだろう。彼は危険だが、俺には別の思いがあった。


「カツナリ。大丈夫か。」


 ヴァルガは心配そうにそれでいて周囲に気を払っていた。俺が怪我したことと敵軍の総大将が討たれたことを知れば、こちらに突撃をかけてくる兵士もいるかもしれない。


「それよりも相手に追撃をする方が先だ。総大将が討たれたことを相手に公言するのだ。」

「マイルズ様…、嘘だろう。」


相手の兵士は驚きのあまり動きが止まってしまう。ヴァルガはその間にどんどん敵を討ち取っていく。それはまさに狩人のようだ。その姿に周辺の動物たちは鼓舞され、まさに快進撃というばかりに相手を押し返していく。

これでようやくこちらの勝ちは動かない。あとはどのように追撃を行うかだけだ。俺は意識を手放しそうになるが耐えた。俺は散らばっている犬馬族をすべて集めるように指示を出し、ハビエルには街道沿いで部分的に落石を行うように伝えた。あえて殺さなくても負傷者が多数いたほうが相手にも被害を与えられる。人1人を養うのもかなりお金がかかるものだ。


「これで終わったのか。」

「ああ、完全なる勝利だな。」

「そういえばシェイラとクライドはどうした。」

「ここにいる。」


 そこにはミイラ姿になったシェイラとクライドが立っている。相当な修羅場をくぐったのだろう。表情は見えないが、雰囲気からそう感じた。別の兵站を焼いた経緯なども聞かなくてはいかない。お互い満身創痍ではあるが、会議は開く必要がある。それと被害状況も今後のために聞いておく。


「さて、では次に移るか。」

「何かあるのか。」

「当たり前だろ。まずは食べることができる兵站の回収と馬の回収をする。肉が食えない今は重要な食料になる。そして、兵士たちの遺品を回収する。剣に関しては使うことができるはずだから訓練用に使用する。兵士たちはまとめて焼いてしまおう。この辺に変な動物が居ては困るからな。」

「それは俺たちのことを指してはいないだろうな。」

「いないさ。そして、あの将軍をとらえているな。」

「ああ、しかるべきところに幽閉するが。」

「そうだな。あとで話をさせてくれ。あの首と一緒にな。」

「カツナリは思っている以上に悪趣味だな。」


 俺は何と言われようとも構わなかった。しかし、あの男をここで殺すのは惜しい。彼にはぜひとも人間部隊を将来、指揮してほしいのだ。すぐに指揮をする兵士は育たない。それに彼の武力はおそらく動物たちにも引けを取らないはずだ。それを考えればヴァルガの代理もできるかもしれない。前線で戦うことができ、経験がある兵士はいくらいてもいい。


「彼をこちらに引き込みたいからな。」

「…、そう簡単にいくのか。」

「わからないさ。でも、揺さぶることはできるだろう。」


 その確信はある。あの首は彼を動かすだろう。その予感は前からしていた。それに合わせて彼がこの動物たちのことも知っていたらなおいい。こちらは望み薄だが。


「まあ、いいさ。それよりもハビエルが帰ってきたようだ。」


 ハビエルがすぐに帰ってきたということは敵兵が寄り道などはせずに帰国したということだろう。兵站がなくなった敵兵がどの程度生き残るかはわからないが、悲惨なことが待っているだろう。

 結局、この戦いは1日で決着がついた。お互いに守ることなく戦ったからこのような結果になったのだろう。夥しい数の死体を見て、俺は暗くなりつつある空を見上げた。



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