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本陣戦(終編)

 

「まさか、この状態で狙っていたのは。」


 俺は右を見ていた。右翼は浮足立っていないがヴァルガの姿は見えない。5000名の兵士が彼らに向かった。今回の戦いでは敵軍は35000人もの軍を起こしていたのだ。しかし、ここまで相手が攻め込む理由はいったい何なんだ。


「カツナリ殿、ヴァルガ王が。」

「見ている。本陣の方陣を解いて、犬馬族をすべて向かわせろ。熊族はこちらに残っていてくれ。ハビエルはまだか。この作戦の肝だぞ。」


 正直、俺は焦っていた。戦線が広がりすぎている。こちらの戦力が分散しているため、援軍も対策もできない。奇襲部隊の安否も気になるが、それよりもヴァルガの助けもしなくてはならない。

 ハビエルの姿が上空に見えていたが、救援は間に合わなかったうえに落石を落とすこともできない。今は彼自身を信じるしかない。犬馬族の救援も少しの時間しか持たないだろう。俺は相手の右翼を見た。ここしか活路がないのは分かっていたがどうするか。

 その瞬間に蛇のカーリンが見えた。彼女らはうまくやったようだ。これでならまだ活路はある。そして、ハビエルの援護さえあれば大丈夫だな。

 

「さて、すべての駒が揃った。」

「挟撃を開始しますか。」

「いや、ハビエルはすぐに落石を開始させろ。狙うは相手の左翼。ここをまずは撃破する。その後、奇襲部隊を合流させ、オーブリーと共にヴァルガを救出する。その前にヴァルガに少しずつ後退させろ。それはできるだけ中央に向かってだ。あまりに遠くに行けば救出はできなくなる。」


 あとは時間との勝負だな。蛇のカーリンはこちらの状況を見ているようだ。相手は完全に引いたのだろうな。そうでなければカーリンもこちらに来ることはできないだろう。しかし、クライドとシェイラの姿が見えないのは気になるのだが。

 いや、考えないようにしよう。先にオーブリーを…。あれはシェイラとクライドか。…、包帯でまかれているな。あれでは戦場に参戦するのは難しい。でも、よい働きをしてくれた。兵站が焼かれていなければ敵軍を引かせることすらできなかった。

 敵軍の将軍はどのように考えているのだろう。兵站がない状態で戦うとでもいうのか。それとも別のところに…。そういえばこの戦いは敵軍左翼に戦力が集中している…。ようやくわかった。奇襲部隊が成功したのも相手軍が引いたのもそれが原因か。まだ、兵站を隠しているとは思いもよらなかった。

 本当にこちらの意図を見抜いて戦っているのが分かる。しかし、情報規制をかなり敷いているせいで敵軍を引かせることができるだろう。

考えている間にもハビエルの落石が始まる。この攻撃によって落馬する兵士が後を絶たない。今までに落石をした影響で馬が大きな石を見ると驚くようになっている。そういうふうになるために刷り込ませることに成功していた。それはハビエルの報告からわかっていた。


「カーリンに指示を出せ。こちらの合図に合わせてオーブリーと共に3部隊で一部隊を落とす。これが最短だ。ヴァルガには後退をしてもらっているが、それでもうまくいかない場合はハビエルの落石を行う。」



ヴァルガの姿は見えないが、敵軍が集まっているところを見るとまだ戦っているのだろう。周りから犬馬族が兵士を振り落としたり、落馬させたりしているが数が多すぎてうまくいっていない。

俺は内心焦りながらも1万3000人を超えている軍と戦うには戦力がかなり足りない。カーリンとオーブリーが突撃を開始した。それに合わせて本陣も向かう。敵兵は慌てて、本陣へ行こうとするが、本陣が危険を感じて相手の将軍のところに向かっているため、追いつくことはない。ハビエルの攻撃によって、馬がない彼らは機動力が遅く、簡単に蹂躙されていく。


「オーブリー、カーリン、無事か。」

「大丈夫だ。」

「大丈夫よ。」


 オーブリー、カーリン共に多少の傷は負っていたが、戦いに支障が出るほどの傷は負っていないようだ。敵軍はすでに敗走に移っていた。我々はこのまま相手の本陣に行くのは危険であったため、戦える兵を集めていた。


「それで、奇襲は成功したのか。」

「オーブリー、煙を見ていたの。もちろん、成功はしたわ。でも、相手はそこまで狼狽しなかったところを見ると。」

「本命は別にあるということだな。ここの兵站は囮であったということだ。でも、敵を全滅できなかったところを見れば、相手も作戦を失敗していると思われる。」

「もちろん。だからこそ、敵総大将を討ちに行きましょうかというところね。」

「陣形を整えるのとハビエルの空撃をあそこでも行う。もちろん、先行して味方がいないところでな。相手の機動力と対等な間合いがなくなれば、大半の兵士を倒すことができる。しかし、まずはヴァルガの救出だ。彼はあの軍の真ん中にいる。」

「大丈夫か。いかにヴァルガと言えどもあの数相手では。」

「もう少しは持つでしょ。彼の周りには精鋭部隊が多くいる。全員が死ぬとは思えないわ。」


 俺はハビエルに合図を送った。今回は今までとは違う規模の空撃を行ってもらう。


「陣形を整える。今回は斜めにまっすぐ構えろ。」

「この陣形で何をする気だ。意味があるのか。」


 相手の分布を見てみれば、ヴァルガを逃がさないようにヴァルガを中心に円を描くように配置している。今回はヴァルガの救出のみを最優先とするため、時間差で局所的に防御を壊し続け、空いたところからヴァルガを救う作戦だ。この国の武力がある動物たちだからできる力技である。


「あれを見て分かった。とりあえず、救出に向かおう。しかし、今回、毒部隊は休憩だな。」

「どうして。」

「毒の生成にも時間がかかる。彼らは自分の命を削ってまで毒を生成する者もいる。これ以上、無理させてはいけないわ。」


 実際にカーリンの手には怪我をしていないのに今にも死にそうな蠍がいた。彼らも知らず知らずのうちに無理をしていたのだろう。彼らは十分に頑張ってくれていた。彼らにとっては命がけの毒なのであろう。


「分かった。すまなかったな。助かった。」


蜘蛛や蠍たちは手を挙げた。


「でも、どうするの。このまま攻め込むこともできるけど、少し戦力が足りないような気がする。」

「いや、これで十分だ。それよりも相手の兵数が多いから、相手の行動が見えないな。さきほど散開させている犬馬族にはそのまま待機してもらってくれ。もし、敵が森に迫ってきた場合に備える必要がある。あと、カーリン、森の中の兵站部隊の護衛はもういないと思っていいな。」

「うん。大丈夫。」


 少しの敵軍であればそこまで気にする必要もなかったが、少しのずれも感じたくはなかったのであえて聞いておいた。さて、とりあえずは大丈夫。あとはハビエルの落石によってどのような結果になるかだが。


「落石始まりました。敵兵が下敷きになっています。」


 それは当然だが、俺は一点を見ていた。おおよそ予想通りである。


「陣形は整ったか。」

「本当にこの陣形で行くの。ただ斜めに構えただけよ。」

「これに意味がある。少し間隔をあけて出撃をするように1秒くらいだ。」


 一番右端の軍が出発する。もちろん、すべての構成が均等になっているため、速度にばらつきはほとんどない。分けたのは4部隊に分けた。オーブリーの蜘蛛部隊が300名ずつ、カーリンの蛇部隊200名ずつ、犬馬族は20名ずつ。熊族は30名ずつ配置。それに加えて、毒部隊が100名ずつ。相手の兵数から考えると5分の1以下だが、個人の武力ではこちらに分があるはず。

 俺は敵兵が落馬しているのを見て、自身にも出撃を命じた。


「カツナリ殿、相手は馬をうまく扱えないのですか。」

「違う。馬が混乱しているだけだ。馬はもともと臆病な動物だ。それなのにハビエルの落石をここまでくる間に嫌というほど攻撃を受けていれば混乱することもあるだろう。もちろん、混乱しない馬も多くいるはずだ。だが、これで少しは戦いやすくなるはずだ。そして、時間差で突撃する意味が分かる。」


 敵軍は4つの突撃に対してすべての防衛を固めることができず、3つ目4つ目は敵深くに侵入を許していた。我々は簡単に侵入できたものの人数比で劣っているため、個人が武力をふるっていた。1つ目のオーブリーとカーリンは先程、敵の防衛線を突破できたようだ。それに合わせて、前方にいるヴァルガの軍勢が息を吹き返していた。ただ、数は500名ぐらいにまで減っていた。


「さすがだな。ここまでの人数を圧倒していたとは。」

「でも、体力にも限界がありますからね。早く救出に向かいましょう。」


カーリンとオーブリーも別々で救出経路を模索しているようだ。しかし、肝心なところに強い兵士を配置している敵軍もなかなかにしぶとかった。


「カツナリ、そこにいるのか。」

「はい。早くこちらに。」

「早く逃げろ。そっちに強い兵士が行くぞ。」


 俺は背中に冷たい視線を感じた。これが殺気であることはよくわかっている。カメレオン族のカテーナの戦いのときもそうであった。殺気を向けられるのは当たり前のことである。この戦いで死んだ人間はすでに1万人を超えているだろう。こちらの損害も大きいが相手の損害もまた大きい。軍を起こすのが難しくなるほどの損害である。


「貴様があの時の人間か。まさか、動物側の味方をするとは。それも迷い人でありながら。」

「それは俺の意思で決める。お前には関係ないことだ。」

「ふん、護衛も今は別の対応で追われているようだな。」


 俺が周りを見るとすべての兵士が人間の対応に追われていた。しかも、相手が強いのでなかなか勝つことができないようだ。


「ふん、貴様の体つきを見れば文官であることは分かっている。覚悟しろ。」


 俺が身構えたときに近くの森から煙が見えた。


「総大将。兵站が焼かれました。」

「見たらわかる。どれほどだ。」

「すべてです。」


 少しずつ兵士が逃げていく。そして敗走へと変わっていくだろう。


「もう少しだったのだがな。」


 目の前にいる男はため息をついた。




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