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本陣戦(前編)

 開戦と同時に人間達に襲い掛かったオーブリーは敵軍の力を過小評価していた。以前の戦いの時にはこちらの優勢であったが、それは敵が動物との戦いを経験していないだけあった。彼らはしっかりと対策を立てたうえで我々と戦っている。50人で1人にあたる計算である。目の良い我々なら簡単に見える。

 過剰な戦力であっても、我々の1人を殺すことができれば、人数が多い彼らが有利になっていく。

 オーブリーたちはものの20分で窮地になっていた。


「オーブリー様、相手の対応が的確です。我々の弱点もすべて把握されています。これではさすがに。」

「分かった。一旦、退却する。殿は私が行こう。だが、逃げる方向を間違えるなよ。」


 この数で勝てるとカツナリも思っていたわけではない。しかし、ここまでも相手がこちらの研究をしているのは予想外であったのではないか。オーブリーはそう思っていた。確かに俺たちが対策を考えないのがおかしいのかもしれないが、それでもすべての周りを見渡せると思っていた俺も愚かだった。

 前線の50名の部下が移動を開始する。それに合わせて、後ろの50名が相手の周りに糸を吹きかける。糸も体内で精製するため無限ではない。一部は罠に使っているため節約をしなければならない。しかし、50名の部下は焦ってこちらに来ていたが、そこまで焦る飛鳥はなかったようだ。実際に相手の敵兵はこちらを追って来てはいない。相手の見ているのはあくまでも森であり、我々ではない。

 撤退している間に相手の敵軍の4000名が本陣へと向かう。オーブリーはそれを見て大いに狼狽した。カツナリの作戦では本陣の数は2000名であったはずだ。現在の軍勢まで本陣に言った場合、本陣が抜かれる可能性がある。俺の肩を誰かが叩いた。


「どうして、お前がここに。それでは今はカツナリが本陣に1人なのか。」

「そうです。彼は自分を危機に陥れてまでもこの作戦を成功させようと思っています。」


 その後ろには小さな蜘蛛や芋虫などの虫が多くいた。だが、その選別には動きを阻害するものが多い。


「上を見てください。これで相手を封じます。今後の話は聞いていませんが、カツナリならうまくやるでしょう。」


オーブリーはそのシュウコの言葉に少し危険なものを感じた。単純な勝利で終わることはないだろうと思っていたからだ。これでカツナリは軍師の初歩なのだから、本当の軍師になればどこまでやるのか。

 オーブリーは未来のことを考えて、少し恐怖を覚えた。




俺はオーブリーの軍勢を見ていた。オーブリーたち蜘蛛に対する対処が的確だったのか、オーブリーたちは思ったよりも早く敗走しそうである。しかしながら、相手はオーブリーを追わず、半分を守備に残し、本陣の援護に回す予定だ。それはこちらもわかっていたこと。さすがに両翼に8000は過剰な反応だった。

その時、森から一羽の小さな鳥が飛んできているのが見えた。


「さて、みんな、分かっているな。この形を死守せよ。合図は俺が出す。」


 あの罠だけでは弱い部分が多かったからな。切ることはできなくとも避けることはできたから相手の行軍を遅くするぐらいのことしかできなかった。

 相手の騎馬隊はこちらに向けて一斉に来ている。もちろん、あとで歩兵隊もこちらに合流するだろう。それまで、俺たちがどこまで耐えきることができるかである。そしてさ、幸いにしてあの男は予定通り、ヴァルガの迎撃に向かっている。ここから、3キロは離れているため、すぐに応援を出すことはできない。

 これでようやく準備が整った。


「来るぞ。総員、撃退準備。」

「はっ。」


 命令を出しているのは俺であるが、この上には各族長がいる。俺は各族長から兵士を借りている状態をとっている。これでなら、命令が可能になる。あくまでも意思決定権は各族長にゆだねられる。族長と俺が命令をしたならば、族長の命令が優先される。


「しかし、相手の突撃をまともに受けるのは…。」

「熊族を信用しろ。彼らならしっかりと受け止めるだろう。」

「少し不安ですかね。でも我らができることを示せればあなたがたも安心するでしょう。」


 ようやく会話が見られたか。連携を鍛える上で重要なのは同じ目標なのが言われている。同じ目標で同じ目線で土俵にたつことで相手のことを考えられるようになるのだ。運動会とかでも全員が同じ動きをするのはそれが目的であるとも聞いたことがある。本当にやる必要があるかどうかは置いておくとしても。今回のこの戦場は特にそれが成り立つ。同様の人間を排除する撃退することと、森を守ることの2点が目標になる。両方ともに彼らにとっては負けられない戦いであり、追いつめられている境地では嫌でも連携や仲間を意識する。この状況で味方を排除することを考えていては国は亡びるだろう。


「相手の騎馬は3500。残りは先程の罠の場所で立ち止まっています。」


 おそらくは挟撃を防ぐために置いてきた部隊だろう。しかし、500はそれなりに大きな戦力だ。そこまで後ろを警戒しているのだろうか。それとも別のことを気にしているのか。もしくは何か仕掛けようとしているのか。熊族の男が口を開いた。


「分かった。では、予定通り迎え撃つことになる。我々の強さを人間どもにわからせてやれ。」


 反対に小動物部隊は縮こまっていた。そもそも彼らは本来、このような戦いに出るようなことはないだろう。しかし、この状況ですべての大型動物を前に出してしまった場合には森の守りが手薄になる。彼らに頑張ってもらうしかなかった。

 小動物と言っても肉食動物には変わりない。アライグマ、ミーアキャット、リス、レッサーパンダの小さな動物から犬や猫、ジャッカルなども含まれている混合軍になっている。彼らは基本的に体が小さい

自分の隊長よりも大きな種族を襲うことはないそうだ。しかし、今回は憎き人間を討伐するため、彼らも戦場に参戦することになった。ただ、彼らの主戦場はもう少し先になる。それまで大型動物が彼らを死守する手はずになっている。


 相手の軍は罠を気にすることなく、こちらに進んでいる。中には罠に引っかかる兵士もいたが、それはその場に捨て置いて前進を続けている。それなりに強い部隊だろう。騎馬は我々の陣容を知ったのか、隊列を魚鱗の隊形をとっている。相手は一点突破を狙い、その先の森を焼くつもりだろう。それはさすがに看過できない。


「熊族、相手は一点突破を狙っている。最初の一撃を止めれば相手は戦力が損なわれる。」

「分かった。死ぬ気で防ぐぞ。」


 熊族から雄叫びが上がった。それに刺激された敵軍はさらに速度を上げたように思う。まるで止める者なら止めて見ろと言わんばかりに。熊族は前傾姿勢をとり、その上で肩を組んでいた。俺たちのスポーツで言うとラグビーのスクラムのようである。ただ、体格は3メートル近くある大熊のスクラムであるが。

 敵兵と激突する最中に少し下に体を当てるのが見えた。馬の首より下のところに体当たりをしている。それにより馬の上に乗る兵士は前に飛び、落馬した衝撃でほとんどの兵士が死んでいた。一部の者も起き上がれず、熊族の格好の的になっている。

 完全に相手の突撃は失敗していた。突破するのが目的だったのだろうから、完全に勢いが止まれば敵兵は混乱するしかない。

 俺は犬馬族に左右100名ずつに突撃を命じた。熊族は兵士を狙わずに馬を狙っている。彼らからすると食料の確保もあるだろうが、それ以上に馬の動揺が大きいため、馬を狙っていった方が敵兵を倒しやすい構図になっていた。

 反対に犬馬族は熊族ほど体が大きくないため、同じく馬を狙って敵兵を落とし、その敵兵を仕留める形になっている。敵兵は再度隊列を組もうとするが馬の動揺が大きすぎ、隊列を組むのに時間がかかっていた。


「…。全員、下馬しろ。」


 その指示に従い、副官と思われる彼の周りの兵士から下馬していく。


「20人一組になり、犬を蹴散らせ。馬に乗れている物は熊退治だ。行くぞ。」


 1000名ほどが熊族に立ち向かってきた。それに対し、熊族も応戦し、混戦となった。犬馬族はあえて攻撃に転じず、逃げ回りながら隙を見て攻撃をしている様子が見えた。彼らは集団で狩りをするので、基本的にはこのような攻撃方法なのであろうと俺は思っていた。


 しかし、この攻撃での相手の戦力を削る力はそこまで大きくはない。


「では、蛇、蜘蛛、蠍にて全滅と行くか。」


 俺が手をすると犬馬族は一斉に本陣へと引き返す。その間に残った犬馬族は彼らを積んでいた。


「頼んだぞ。気を付けていけ。」


 俺の言葉に合わせて、毒組隊が全員手を振る。彼らも人間の言葉は理解できているのだ。犬馬族はすぐに走り出し、人間の隊を走り回る。それに合わせて戦場には似合わない悲鳴が起こっていた。


「軍師殿はかなり怖いですな。あれらの毒は我々でも死ぬことがある猛毒ですぞ。人間なんぞひとたまりもない。」

「だからだ、無駄に苦しむようなことをすれば相手に違った能力が目覚める。危機的な状況で覚醒した相手は厄介だ。」


 それはゲームや小説で嫌というほど読んでいたお決まりの展開である。だが、反対に俺がその立場になれば恐怖以外何物でもない。基礎能力が急上昇すればどんなに策を弄したところで突破される可能性がある。それを防ぐために一撃必殺となるものを多用するのは俺としては当たり前のことであった。

 前方では次々と兵士が倒れているのが見えた。中には耐えている者もいるだろうが、病院でもない以上死ぬ以外の運命はないだろう。

 わずか前方から砂煙が見えた。距離はあるがどこからの援軍だろう。こちらから見て、右からの援軍であれば最大の注意をする必要があった。なぜならばわが軍の右翼はヴァルガが指揮している精鋭部隊だ。その部隊が相手に拮抗することなく撤退したとなれば、本陣が弱い今は勝ち目がなくなる。


 俺の肩に赤い鳥が着地した。これはオーブリーについていた鳥だ。では、前方の援軍は相手軍の右翼の者になる。これで、俺は計画通りに事が進んでいることが分かり、一息つきたくなるのだった。


「カツナリ殿、敵兵が引いていきます。追いますか。」

「追わなくていい。毒部隊を回収して、今一度開戦前の陣形に戻す。犬馬族は作戦通り、足の速い20名を右左翼から出して散らばらせろ。あの人数が森に行けばどこかに火が付く可能性がある。森に行く方向を把握して森番部隊に知らせろ。」


 その指示に合わせて、40名の犬馬族が走り出す。


 よし、これで一旦、小休止だ。


「相手が来るまで時間がある。各々、休みに着くように。」


俺は赤い鳥にある紙を巻き付けて、飛んでもらった。


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