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兵站攻防戦


 兵士の叫び声が聞こえる。シェイラの目は兵站に向いていた。反対に敵国の兵士は兵站を守るように立ちまわっている。この状況になったのはカツナリの第2軍の援軍があったからだ。しかも、彼らの兵力は軒並み減っている。相手の援軍はいつまでも来ることがない。


「くそ、どうしてうちの援軍は来ないんだ。来る予定ではなかったのか。」


ここでようやくカツナリが何かしていることが分かった。本陣の作戦がうまくいっている。カツナリが言っていた援軍も来させないというのは本当であった。

危機的状況であった少し前に変化は起きた。





「いくら俺たちが来たからと言っても状況は変わらないぞ。」


 クライドはそう叫んだ。シェイラはそれを聞いて彼を見た。今は怪我をしていないが、彼の周りを30人の兵士を囲っていた。いずれは倒されてしまう。彼は腕を振りかぶり、相手の装備ごと敵を切り裂いていく。相手の装備はそれなりに丈夫なはずだが、それをものともしないほどの力だ。その彼も肩で息をしている。限界はまだ先だろうが、すぐに体力は尽きてしまうだろう。


「分かっている。カツナリからは援護があるはず。少しの時間待つの。」

「限界があるぞ。相手の兵数は4000いる。これ以上、増えたら我々は族座に壊滅する。」


 確かにその通りだった。あの死地から脱出してここに出てきたが、相手の伏兵がさらにいた。それと戦っているが、先は見えていない。しかも、先程まいた兵士も後ろについてきている。さすがに戦いながら進んでいる以上、後ろからの敵兵はまくことができない。むしろ、兵站から少しずつ離されつつある。

 敵が湧き出てくるのでさがっている。武力ではどうすることもできない状態まで来ていた。それでもシェイラは後ろを振り返ることはなかった。


「今は兵站が先。早く燃やすか奪うかしないと。」

「そう簡単にはいかんぞ。相手も逃げる準備を進めている。このままでは逃げられてしまうぞ。何とかしたいが、この包囲では。敵兵が多すぎる。いかに俺たちでも。」


 さすがにシェイラも諦めかけていたが。カツナリの表情とシュウコの表情、そして死んでいった仲間が彼女の背中を押していた。

 前に行けと。その場に連れて行けと。みんながシェイラに叫んでいた。


「でも、死んだ仲間のために前に進む。それが私たちのできる最善のはず。」

「そうは言っても。この数ではどうしようもないぞ。部下ともはぐれてしまった。彼らならそう簡単には死なないだろうが。しかし、合流するにも。」


 クライドも必死に周りを見ていたが、出てくるのは敵兵ばかりで味方の姿を見ることもできなかった。クライドは少しずつ後退をしながら、シェイラへと近づいていく。

 さすがにクライドと言えども疲れが見えていた。


「その手伝いをさせてもらうわね。」


蛇族族長のカーリンが木の上にいた。彼女は蛇の下半身を木に巻き付けて、人間の上半身をこちらに向けていた。彼女は人間の容姿を持つ珍しい動物である。もともといた一族であり、あの事件以降は言葉も問題なくしゃべることができるようになっていた。彼女はこの動物界の中ではあまり変化のなかった一族かもしれない。彼女も今までも言葉を発していたということだから言語が人間の言葉になっただけなのだろう。

 彼女はその容姿に似合わないほど力が強く耐久力がある。彼女の下半身の皮はすべて鱗でできており、並みの攻撃では傷つけることができない。あのヴァルガ王でさえ、彼女を屈服させるのは時間がかかった。しかも、3日間も戦った記録が残っている。


「ふん。まあ、仕方ない。今は人間が邪魔だからな。」


 カメレオン族のカテーナもこちらに来ている。後ろの数を見ていれば蛇一族もしくは傘下の族も含めて全員で来ている。本陣は一部の兵士しかいないのでないか。カーリンはこちらを見て微笑んだ。


「そこらへんはシュウコと変わらないわね。でも、今は自分の心配が必要なのでは。」


 シェイラは周りを見た。クライドの精鋭部隊が敵軍を押し返していた。敵軍の後ろの半分は蛇一族の対応に追われているため、シェイラたちで後ろが対応可能となっていた。その上、カメレオン一族精鋭10名とカーリンの蛇一族精鋭10名が援護に来れば森の中では何とかなる。


「よし、俺たちは前へ進むぞ。このまま兵站部隊を強襲する。臭いにおいがする液体は敵軍から盗んでいる。」


 当然のことながら、動物でも火を使わない彼らは火薬など持ち合わせていなかった。蛇一族は特に火を怖がる一族である。それは急な体温の変化に対応できないことがあるからである。匂いに敏感な動物たちは簡単に人間が持っているその液体を見つけることができた。なぜかその見分けが匂いでできたのである。

蛇一族のこともあり、最後に火をつける役はクライドとシェイラの部隊が行わなくてはいけない。しかし、彼らの消耗は激しかった。クライドの救援部隊も20名を切っており、元々いた180名も人間の濁流に飲まれどれほどいるかわからない。


「私たち一族はそこに近づくことができないわ。今、各場所で戦闘しているあなたの部隊を救出しているところよ。少しだけ時間をもらえるかしら。さすがに今この人数であなた方を守るには不安が残る。」


 カテーナがカーリンのほうを見て、森の方へ向かった。その間も戦闘は続いていくが、蛇一族の体を切れるほどの人間は少ないらしい。彼らにも個体差があるから全員が着られないわけではないものの、今の状態では人間を圧倒している。

 カテーナがこちらに戻ってくる。いくらかの人数を引き連れているようだ。


「20名か、今すぐ来ることができるのはこれくらいね。では行きましょうか。」


 蛇一族の40名もこちらに向かってきた。


「私たちが後ろをすべて固める。その上で私を含めた5名が先陣を切る。あなた方はその後ろからついてきなさい。鱗の私たちなら突破できる。」


 不安になったシェイラだが、彼女の言葉を信じるかないほど人間がこちらに向いている。一筋の線が見えている。いや、道があるわけではないけどそこに進めば兵站にたどり着ける気がする。


「シェイラ!」


 後ろからクライドが叫んでいる声が聞こえたが、それは気にせずに人間を切っていた。この隊を抜ければ、兵站にたどり着く。なぜかそういう印象が頭を過った。


「その通りだ。そこを抜ければたどり着く。それはこちらもわかっているぞ。ただの動物ではないようだな。戦の流れまでも読めるようになってきているとは。恐ろしい学習能力だ。」


 人間の中で一際鋭い目をしている人間がこちらに向かってくる。シェイラはすぐにボロボロであった剣を投げた。彼も同じように簡単にはじいた。そして、返しに剣を投げてきた。


「貴様の投擲はうまいな。しかし、剣は投げる物ではない。あ奴がこの動物に負けるとは思えないが、運が悪かったのか。いや、運を味方につけていた貴様が強かったのか。」


 人間は馬を使い簡単にシェイラの間合いに入った。その瞬間、クライドの爪が伸びる。クライドの爪が彼の剣をはじく。しかし、この人間は馬を器用に動かしながら体制を整えた。そして、クライドのほうに向きなおり、クライドに剣を向けた。


「ぬ。貴様はでかいな。」

「シェイラ、先に行け。これは俺の獲物だ。」

「頭が高いぞ。動物風情が。」

「ふん。矮小な人間に用はない。」


 剣と爪が交差する音が聞こえた。シェイラは彼らを見ることなく走り出す。

 シェイラはすぐに横にカーリンが来ていたのを見た。彼女は尻尾や上半身をうまく使い、人間を弾き飛ばしている。その彼女も前をしっかり見据えている。何を考えているのかわからない。

 後ろからクライドの部下が追い付いてきた。屈強であるはずの彼らもかなりの傷がある。いかに人間の力が弱いとは言え数が多い。中には強い人間もいる。


「シェイラ、クライドは任せなさい。それよりも相手の援軍が来る気配がなくなったわ。カツナリの策でしょうけど、これは絶好の好機よ。ここで逃した場合、人間達が守りを固めてしまう。その前に火をつけて。でも、カツナリの聴いた火の規模では私たちはここまでが限界。だからこの先はあなたが行く必要がある。私たちは円を兵站の周りに作って外部の敵の侵入させないようにする。」


 シェイラはクライドの部下を見て、手を挙げた。彼らとも長い付き合いだから、意思の疎通ぐらいはとれる。シェイラの手の動きに合わせて、各自敵を倒していく。シェイラも人間の剣を持ちながら、首を飛ばしまくっていた。

 それでも、まだ、届かない。


「シェイラさんは先に行けますか。私はこの先には行けません。ここで足止めします。」


 その兵士は足を怪我していた。剣が足に刺さっておりふくらはぎを貫通している。これでは足を使うことはできないだろう。しかし、この場を止めることも。


「シェイラ、立ち止まらないで。あなたが立ち止まっていたら、被害がさらに大きくなる。早く前に進んで。」


 シェイラは一瞬目を瞑り、目を開いた。そこには大きな袋があった。それが何かはすぐにわかった。それを必死に守る兵士たち。その道を開く部下たち。その開いた道を守るカーリンたち。その道を塞ごうとする人間たち。

 そのみんながこの袋を守る、もしくは燃やそうとしている。


 シェイラは最後の人間の頭を剣で飛ばし、返り血を浴びた。


「これで、ようやく…部下のために任務を遂行できた。」


 シェイラはその場に倒れた。


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