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戦前報告

 クライドの2名に死体を持ち帰らせた。彼らにはできるだけ温度一定であり、比較的温度が低いところに置くように指示をした。


「さてと、これで朝まで待つのか。」

「ああ。この暗闇で動くのは危険だ。それに彼のこともある。あの男も軍に所属している上、階級はそこまで高くないだろう。それを考えれば、昼間に動くのは難しい。」

「あえて動かないということか。」

「ああ、それに兵站の存在を確認するのは昼間がいい。いかに彼らの軍が見張りを少なくしているとはいえ、多くの見張りがいるだろう。」


 とはいえ、この広い森の中で探すのは困難である。大人数で探せば早いが、敵兵の人数が把握でいない上、大人数はよくないだろう。そのためには場所を把握できなくてはいけないだろう。


「あの2人を待つのか。」

「いや、待たない。そもそも必要ないのと思う。この人数で十分だ。あの男も逃げたぐらいだ。ここにいるのは精鋭隊だろ。」

「そうだな。では、行くか。」

「方向をわかる方は。」

「シェイラが分かる。」


 俺はシェイラに方向を示していたが、地面に少し地図を描いてもらった。


「では、地図で言うとここは森から4キロぐらいだね。」

「4キロって何。」

「距離だ。とりあえず今回は円を描く。」

「円を描く理由はあるのか。」

「ない。ただ、探す範囲を決めなくてはいけないだろう。」

「まあ、そうだな。とりあえず、この範囲を探す。ただ、2~3日探してわからなければ撤退する。」

「理由は。」

「そろそろ相手の軍が来る可能性がある。」

「…確かにそうだな。」


 時間との勝負もあるが、そもそもあるかどうかわからない物を永遠に探すのは間違っている。俺は地図を見ていた。見ているのは敵軍が通るであろう道筋を追っている。もし、彼らがどこかで補給すると考えたら、どの辺りで補給するのだろうか。


「しかし、この近くに兵站を置くかな。」

「わからない。でも、兵站があってもおかしくないだろう。」

「多くは探せないぞ。」

「それはハビエルに頼んでいる。地上は蜘蛛族に頼んでいる。実は前の任務の際に蜘蛛を落としていた。彼らも探しているのだから、俺たちはこの範囲を探していても大丈夫だ。」


 とはいえ、この範囲を探すのは昨日の件があるからだ。昨日の件がなければ、道なりに探す予定ではあった。しかし、ここに人間がいた以上捜索範囲を広げるべきではないと思っている。


「それなら範囲が広いから何か見つかるかもしれない。」


 シェイラも納得した。無暗に探すことはしたくなかったのだろう。


「では、さっそく見て回るぞ。」


 こうして俺たちは探索を開始したが、見つかったのは2日後だった。



「見つからないな。」

「見つからないほうがいいってことを忘れないように。」


 俺たちはあの男を見かけた範囲4キロをまんべんなく探した。ただ、単純に歩いて探すだけなら簡単に探すことができたが、敵兵に見つからないようにまた、俺を庇うように探すため時間がかかってしまう。


「では、2か前のことが説明できない。カツナリの話を聞く限り、ここで何かをしているから監視や警邏をしていたはず。それなのに見つからないというのは不気味。」


 シェイラの言うことは正しい。俺も簡単に見つかると思っていたが見つからない。あの男が何か言っているとしても2万もの軍勢を動かすほどの兵站を簡単にどこかに移すことはできないだろう。とすれば、彼らはかなり遠くの方から警邏に来ていたということになるが、それも考えにくい。なぜなら、動物たちに存在が知られる可能性があるのに無理に動く必要はないからだ。

 俺の目の前に蜘蛛が下りてくる。


「どうした。」

「この蜘蛛はオーブリーの部下だ。少し止まろう。で、どうした。シェイラ、地図を描いてくれ。」

 

 シェイラは簡単に地図を記入する。そこに蜘蛛は何かのしるしをつける。だが、文字や言葉をしゃべることができない以上、そのしるしが何を指名しているのかはわからなかった。でも、その場所をしらべる必要はある。


「ここに何かあるということか。」

「しかし、ここに何があるかが問題だな。兵站ではなく、軍勢であったら我々の出番はないだろう。」

「意味がないわけではないが、そこでできることはないだろうな。どちらにせよ…。気のせいか、森が騒めいていないか。」

「そうだな。何かあったのか。」


 あの鳥はハビエルか。旋回をしているが何かあるのか。


「やばいぞ、カツナリ。人間の匂いがする。こっちに近づいてくる。」


 …。進軍を森にしたのか。いや、そうと決まったわけではない。俺は周りを見渡していたが、人間が潜んでいるようには感じなかった。シェイラは地面に耳を当てていた。蜘蛛は木の上に隠れてしまう。


「10人ぐらい、大勢ではない。でも、遠くにもっと多くの人間がいる。」


 ではあの時の男はここに斥候に来ていたということか。兵站はもともとこちらにあったわけではなく、進軍に合わせてこちらに持ってくる手はずだったということか。あくまでの知恵の回らない動物相手だからできることだろう。しかし、どうやってこの森を突破してきているのだ。


「おそらく、あちらでも動物がいる。その動物が森の木をなぎ倒している。」


 環境破壊を推進する動物がいるのだな。この異世界には。思っている以上に相手は本腰を入れてきているな。


「とりあえず、進行方向は分かるか。ここにいては見つかるだろう。ここで物を確認した後、同時にクライドは撤退をしてくれ。そして、応援を呼んでくれ。人数は200人。武力が高いものを中心に。俺もクライド共に撤退する。シェイラはここで待機だ。」

「どうして私はここに残るの。」

「兵站を奇襲する役目が残っている。最後の仕上げではあるが、重要な役目だ。よく見はっておくように。」


俺たちは進行方向の近くの茂みに隠れている。シェイラは地面に耳を付けており、部下は木の上から人間を見ている。クライドは俺を中心におき、5名で守っていた。


「匂いで何かわかるか。」

「ああ、肉の香ばしいにおいがする。これは当たりだな。」


 俺は茂みから人間を覗く。彼らはこちらには気が付いていない。しかし、このままばれないとは思わない。それと同時に油のにおいがする。


「さすがに簡単な方法を選ぶか。これで相手の狙いがはっきりした。クライド、引くぞ。森の近くまで行けば俺はハビエルに運んでもらう。」

「そうだな。それが速そうだ。」

「思っていた以上に行軍が早い。編成も行っているだろうが、今の状況を知る必要がある。シェイラはこのまま待機していてくれ。攻撃の時期は伝令に伝えておく。」


 シェイラが頷いたのを見て俺たちは撤退した。


 俺はヴァルガ王に面会を求めていた。この忙しい中で面会をするなどバカにしていると俺は思う。でも、この動物の集まりが国である以上、所定の手続きを踏まえないといけない。それよりもここには気配がないな。さすがにこの状況で詰めているのは王の側近ぐらいか。


「カツナリ、割と時間が押している。早く話をしてくれ。」


 俺はすべてを報告した。ヴァルガの表情は見えない。隣にいるシュウコは渋いかをしている。そもそもシェイラを奇襲隊に含めることに反対をしているのだろう。彼女以外に適任がいないのもしょうがない。しかし、そんなことを考えでもシュウコは冷静でいられると思っていたのだが。シュウコもやはり親である。


「ヴァルガ王、冷静に。この作戦は急すぎます。時期も難しいですし。」

「シュウコ。シェイラが大事になのはよくわかるが、この作戦が有効なのはわかっているだろう。彼女自身もわかっているから残ったのだろう。この国は危機に瀕している。それをわかっている。」


 シュウコは下を向いた。


「シュウコがその状態であれば、今回の戦いからは手を引いてもらわなくてはならない。他の兵士にも良い状態をもたらさない。」

「しかし。」

「同感です。シュウコさん、さすがに今の発言は宰相としては失格だろう。どうかな。」


 シュウコはまた下を向いた。


「分かっています。少し席を外します。」


 シュウコは会議室を出て行った。それを見たヴァルガはため息をついた。


「すまないな。カツナリ、シュウコは以前の戦いをまだ引きずっている。あの様子では今回の戦いには参加させないほうがいいだろう。それにカツナリの話を総合すれば、相手の軍には別動隊がある可能性が高い。万一のため、シュウコには留守を任せた方が良いだろうな。」


 俺はヴァルガの提案に頷いた。この戦いでは森が燃やされる場合を想定して、別動隊を見ておく必要がある。ほぼ必要ないとは思われるがおかないわけにはいかない。


「だが、これで殲滅は難しくなったな。」

「はい。森に入って人間狩りなど持ってのほかです。人数を割くこともできません。今回は精々撃退がいいところです。これ以上の戦果は期待できません。」

「そうだな。だが、あの死体は利用できるのか。」

「ええ、おそらくは。でも、使わないかもしれません。」

「そうか。戦略に関してはこれから練るのか。」

「はい、一部は稼働していますが。ハビエルにはすでに任務を伝えています。彼の働きは重要ですが、あくまでもシェイラとの連動があって、初めて効果を発揮します。相手に密偵を送れない以上、これで引かせるしかありません。あとは相手次第です。」

「ふむ。とれる選択肢は限られているのだな。」


 俺はもう一度考えていた。何か見落としはないか。


「俺には何を考えているのかわからないが、気を付けて事を進めろ。こちらにも損害ができるだけ少ないとよいが、勝てないともっと問題となる。全力でことに当たれ。」


 俺は一礼をして会議室を後にした。


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