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森の中での出来事

「さて、カツナリは何をしているのかな。」

「ヴァルガ王、心配でしょう。しかし、考えて仕方ないと思いませんか。」

「そうだが、心配にはなるだろう。」


 ヴァルガ王は腕組みをして考えている。また、ろくでもないことを言わなければいいがと考えていた。ヴァルガ王は今まで以上に王であるために自分を律しないといけない。それは国の主として当然であるとシュウコは思っている。もちろん、他の部族長がそのように考えているかわからないが。

 しかし、今の状況にヴァルガ王が焦っているのをシュウコは感じていた。わかっていたことだが、相手の情報が手に入るとわかるとそれを早く知りたいのがよくわかる。だが、カツナリが言うまでは情報のことなど考えてはいなかった。

 扉の向こうから叩いている音がわずかに聞こえた。ここの扉は重厚であるため、音が響きにくいのだ。


「入りなさい。」

「はっ。」


 入ってきたのはハビエルを伴ったシェイラとクライドであった。ハビエルは少し安心した顔をしているが、対照的にシェイラとクライドの顔はこわばっている。


「ハビエルは任務の報告だな。シェイラとクライドは何だ。」

「はっ。カツナリより彼と共に森の周辺探索をすることを要請されています。もちろん、これはカツナリの発案です。内容についてはハビエルに一任されています。」

「ハビエル、よくわからんが、なぜ森の周辺を探索する必要があるのだ。」

「はい、順を追って説明します。まずは任務の話からにしましょう。」


 ハビエルから聞いた話は以上の4点である。


軍の全容は2万ほど。

中心人物は男であり、腕が立ちそうだが、統率力があること。

軍の中心は歩兵であること。

兵站を持っていないこと。


 兵站を持っていないというのがやはり気にはなる。ここに攻めてくる以上はよほど近くでもない限り、兵站は必要だろう。それをなくすもしくは持ってこないということは、何かを隠しているということか。


「そういうことか。それではカツナリはこの周辺にすでに兵站がある可能性を探りたいということか。」

「そのようです。この周辺だけの警戒ならば夜以外は我々でできましょう。」


 ハビエルはそういった。それはシェイラが居なくても斥候や警邏活動には問題ということだ。夜は彼らも目が効かないので夜の活動はできない。それは代役が必要だろうが、当面は何とでもなる。


「そうか。わかった。人数や編成は。」

「シェイラの部隊が5名、クライドの部隊が5名の10名の構成でとの話です。」

「足りるのか。相手もそれなりの者がいるだろうに。」

「むしろ、多い場合は問題があるとのことです。」

「ふむ。わかった。では、シェイラとクライドはすぐに出発するように。ハビエルはまだ話がある。帰るなよ。」


 帰ろうとしていたハビエルは嫌な顔をしているように見える。


「はっ。」


 シェイラとクライドが出ていくのを見てから、ヴァルガ王はハビエルに話しかける。


「ハビエル、そこまでかしこまる必要はない。任務中のカツナリはどのようであった。」

「よくも悪くも新兵と同じであるように見えました。」

「そうか。少し荷が重いか。」


 シュウコは少しカツナリのことを考えた。口調はよくないが、彼は人のことを思って動く性格に見えていた。その予想が間違っていないのであれば軍師という役職自体が重荷になっている。隣からヴァルガ王の声が聞こえた。


「そんなことはどうでもいい。そうではなく、常に冷静でいたのかどうかだ。他の情報はいらん。」

「…、経験が少ない部分はありましたが、思っている以上に冷静に見えました。ただ、これは私の主観が入っています。私のような性格のものを見たのは初めてですので。」


 ヴァルガ王はなぜ、冷静の部分だけを取り上げているのだろう。確かに冷静になっているのは重要だが、今のカツナリの状態を知っておくことも大事に見えるが。


「わかった。2人は勘違いをしているが、作戦の実行はある程度できるだろうが、失敗も多くあるだろうからあんまり考えてはいなかった。」

「それはあまりにも。」

「何を言っている。練習していないことできるわけがない。だが、カツナリが冷静で軍を進めることができれば普通の人間には負けやしない。よくわからんが、仕込みも終わったのだろう。」

「カツナリはそういっていましたが。」

「それならばもう信じるしかあるまい。兵站は運の要素が強い。あまり期待せずに待って居よう。軍の編成を進めるぞ、シュウコ。ハビエルはもう帰ってもよい。」


 やはり、王であるように見える。ヴァルガはこの国に必要な動物であるのだ。彼がいなくなればこの国はバラバラになってしまう。


「わかりました。では準備をしましょう。」


シュウコは来る戦いに備える王を見て、そんなことを思っていた。




 茂みの中に隠れていた俺は探索を開始していた。本当ならば援軍を待つべきだと思ってはいたが、彼らの索敵能力は高く俺が先に行ったとしても問題と思われたためである。実はその他に利用もあった。もしかしたら、相手側の兵は動物を狩っているのではないか。それが分かったのは周辺の森には気配や匂いが全くしないことであった。あの森にいる時には動物の気配や独特の匂いがした。彼らがいかにうまく匂いを消そうとも消すことができない。

 しかし、小動物さえもいないとなれば、違った怖さがあった。しかも、今は真夜中である。怖いものは怖い。できればここで何かを見つけることができれば、それが良いと思っているが、さすがにここには何も隠していないだろう。

 何か音が聞こえる。これは足音か。


「さすがにここ最近の部活使いが荒いとは思わないか。」

「仕方ないだろう。あの方も忙しいのだ。それにこの作戦は失敗が許されないのだ。先の戦いでは一部の者の妨害と我々の失敗でこの作戦を組むことになったのだ。」


 …、先の戦争で彼らは何をしようとしていたのだろうか。彼らはそのためにこの戦いを起こますまでになっているのはなぜだろう。それほどに重要なことか。それに彼らは単純に敗北したわけではないということか。それに敵軍も失敗しているとなれば、彼らが思っている作戦というのは何だろうか。


「わかっていますよ。でも、ここまでのやる必要がありますかね。確かに彼らの身体能力は脅威ですが、連携や鍛錬もできていないでしょうから、我々の敵ではありませんよ。」

「驕りは禁物だ。お前だってそのせいでこの前の戦いでは叱責を受けただろう。致命的なものではなかったがな。」

「わかっていますよ。だから、ここにいるのでしょう。しかし、作戦はうまくいくのですか。特定の誰かが分からないから、全滅させよっていうのは悪魔の所業ですよ。隊長はやり切れないでしょうね。特にあの動物の特攻に隊長は感嘆していましたから。あれは兵士の鏡だと言っていましたよ。」

「ああ、あの動物は武人足るものであった。ただ、あの動物を切るのに千人の犠牲を出したからな。私も見ていたが、鬼神かと思わせる進軍であった。もう少しで本陣が落ちるところであった。」


 特攻ということはシェイラの婚約者か。しかし、相手にここまで思われるとはすごい武人であったのだろうな。


「そうですね。でも、ここまでです。」

「何がだ。」

「隊長もここまでということです。」

「何を言っているのだ。貴様は。」


 何かが落ちる音が聞こえた。その後に水が滴る音が聞こえる。


「隊長、隊長うるさいんだよ。確かに優秀だが、優秀すぎると王家の邪魔になるんだ。覚えておけって言っても聞こえてもいないか。しかし、王様もここまでするかね。何かが失敗して変な動物ができていても関係ないだろうに。死体は…、放置するしかないか。動物に殺されたことにするか。」


 俺は鼓動が波打つのを感じた。いかに敵軍とはいえ、この事態はどのような結果を生むのかわかってしまったからだ。それと同時にある策が浮かんだ。この作戦がうまくいけば俺の立場を押し上げることができる。それ以上にもっと重要なことがある。

 彼はどこかに去ったようだ。俺がここに潜んでいるのがばれなかったのはよかった。ここに人間がいるとは思ってもいなかったのだろう。俺が立ち上がった時、人間が目の前にいた。


「ばれないと思っていたのか。お前は変わった服装をしているな。その服はうちの研究者の服か。方向から考えて森の方から来たのか。しかし、この雰囲気はあのいけ好かない男とよく似て。ああ、そういうことか。別の国で死んだと言っていたな。迷い人が。」


 …。とっさのことで頭が回らない。俺は後ろに下がろうとしたが。前の男は俺の肩をつかんでいた。俺の肩は燃えるように熱くなった。俺はそれが痛みだということをようやく理解した。


「…、知能派の迷い人か。しかも動物のほうに属しているのか。…。少し変わっているな、お前。でも、逃がすことはないけどな。さすがにこれを見ていてあいつがお前を信じたときにややこしいことになるからな。」


 彼が剣を俺に振り下ろそうとしていた。俺は目を瞑った。

 俺は地面に叩きつけられて背中を強打した。


「なんだ、お前ら。」

「カツナリは殺させない。」

「なぜ、動物が人間なんかを守る。貴様らは人間を憎んでいるはず。」

「それはカツナリが恭順したからだ。そんなことも知らないのか。馬鹿だな、お前。」


 敵国の兵士はわずかに眉を顰める。


「なんだと。迷い人でありながら、動物に仕えるのか。」

「何を言っているの。あなたは殺そうとしたでしょう。そんな人に言われる筋合いはないと思うけど。」

「さて、よくないが、撤退させてもらうよ。さすがにお前どもと戦えるほど人間を辞めていないのでね。」

「逃がすと思っているのか。」

「…。」

「クライド、ここでの大暴れはできない。」

「わかっている。」


 2人は人間と距離を詰めていく。


「怖いな。しかし、このようなものを知っているか。」


 彼は2人に向けて何かを投げた。


「くそ、こざかしい。」

「待って、クライド、足元を見て。」


 あれはマキビシか。それを持っているということは日本人がこの地に来た可能性がある。


「逃がしたか。」

「そうみたい。」


 ここには1人の人間の死体とまきびしが置かれているだけとなった。



「カツナリ、怪我はないか。」

「ええ。なんとか。」


 俺は地面に座った。腰が抜けてしまったようだ。


「これでは偵察は難しいな。どうする。」

「とりあえず、安全な所へ。それよりもこの死体をどうするかだけど。」

「持って帰る。」


 クライドはこちらを見た。まるで何を見ているのかわからないように。


「なぜ持って帰る。カツナリ、状況をわかっているのか。」

「分かっている。しかし、この死体ができる前の会話で状況が変わった。この死体がもしかしたら決定的なものになるかもしれない。」


 この死体が今後の軍編成に大きく関わるとは思わなかった。


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