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偵察任務

 俺は小屋の前に立っていた。時間は間に合っているはずだ。オーブリーの連れてきた蜘蛛達も整列している。何か物々しい感じだが仕方ない。彼らにもそんなつもりはないだろう。俺の世界では失神する人が多数出るだろう。それほどに見ていると気持ちがいいものではない。蜘蛛が好きなわけではないからな。ただ、今の俺にとっては頼もしい護衛である。それ以外にももちろんしてもらう予定ではあるが。

 それにしてもハビエルは遅い。彼が来ない限り、この斥候は出発すらできない。そんなに時間がないと聞いていたが、そんなことはないのか。


「オーブリー、ハビエルは時間通りに来ない動物なのか。」

「いや、どちらかと言えば来る方だ。鳥は活動時間が決まっている分、時間を無駄にすることはない。何か不都合でもあったか。でも、ハビエルぐらいはこちらに来そうだがな。」


 俺の頭上に大きな影が出現した。あの大きな影はハビエルの影だろう。


「すまん。遅くなった。思ったよりも集団飛行に手間取った。ここまでの鳥が集まって飛ぶことは初めてじゃった。」

「そうかもしれませんが、慣れてもらいます。このままでは斥候もままなりません。そこまで難しいことではありませんので、大丈夫かとは思いますが。」


 これでいったんどうにかするしかない。相手がどの程度でこの森まで到着するかにもかかっているが、それよりも相手の編成を知りたい。それを知れば、行軍の速度も自ずとわかってくる。


「では、行くかの。カツナリは儂に乗れ。オーブリーの従者は適当に乗るがよい。オーブリーは残念じゃが連れてはいけぬ。オーブリーを運べるものはいないからの。」

「わかっている。シェイラはどうするのだ。」

「連れて行かぬ。シェイラも小型とは言え、筋肉質だ。儂が飛んでようやくかの。でも今回はカツナリを伴うから、やはり無理ということになる。」


 オーブリーは何を気にしているのだろうか。俺は大丈夫だと思うのだが。作戦はこの人員で十分に足りている。あまり多く連れて行ったら、斥候とは言えないだろう。


「ハビエル、貴様は信頼しているが、人間を連れて行って亡き者にしようとすることがないわけでもない。可能性として残っている以上、心配するのは当たり前のことだ。」

「オーブリー、気にしても仕方ないだろう。懸念は分かるが今は意味がないことだ。彼自身がこの役割を買って出たことで作戦が進んでいる。今更、疑うこと自体がおかしい。もっと早くやるべきことだし、今言うことでもない。」


 俺はオーブリーに対して強い言葉をかけた。今の俺たちには不要な問答である。すべての部族が一枚岩ではない以上、俺たちは信じあわなくては勝つことができない。


「わかった。ハビエルを信じることにしよう。気を付けていけ。」

「ああ。では、行ってくる。」


 ハビエルの背中に乗り、俺は空高く飛び立った。




「こんなに高いのか。随分と高くまで飛べるのですね。」

「いや、本当はもう少し高く飛べるのだが、カツナリのことを考えるとこれ以上高くは飛べないだろう。今も肌寒いのだろう。」

「ええ。」

「だったら、これ以上高く飛ぶのはよくないの。ではこの高度を維持しながら飛ぶことにしよう。」


 俺は下を見た。森が少し小さいように感じるが、思っていた以上に大きい。反対に人間の国に行く道というのは狭く、長いように思う。これであれば罠を仕掛けることができそうだが、本当にこんなところから軍隊が来るのだろうか。普通の人間であればここから攻めることはないだろう。


「本当にここから人間が来るのですか。」

「そのはずじゃがな。道はここしかないのでな。しかし、本当に無謀なことを考える物じゃ。ここまで来るのにも時間がかかるじゃろうに。」


 彼が言うように無謀でしかない。彼らにはここに何か求める物があるのだろうか。


「それよりも相手の国の軍隊が見えないです。」

「そうじゃな。もう少し先に急ぐことにしよう。」


 彼は速度を上げた。前髪が揺れている。体感速度は60キロぐらいか。随分と早い。風を使っているからか。風が強くて目を開くことができない。


「あれは軍隊か。」

「うん、申し訳ないが目を開けることができなくて。少し遅くしてくれませんか。」

「すまん。気が付かなかった。しかし、高度を下げるぞ。」

「なぜ。」

「あまり上に上がっていたら影が大きくなっていくからの。こちらの存在に気が付いてしまう。無駄に図体がでかいからの。」

「そうですか。しかし、簡単にいくのですか。」

「行かないか困っておる。そこはお主が考えるところじゃの。」

「そうは言いましても。」


 空中で俺は考えていた。

 下に人がいるとはとても思えない。当の人間は蟻みたいな大きさである。考えていたのを落石。想像以上に高いこの空からなら効果が見込める。ただ、それ以上に問題なのは。


「ふむ、すぐに話せないところを見ると迷っておるかな。」

「そんなことは。」

「それぐらいは分かるのじゃ。儂ももう長く生きているのじゃから。でも、その気持ちを忘れて生きているよりはましじゃ。そういった同族を儂は何人も殺す羽目になった。以前は簡単に殺せたのじゃろうが、今ではこの体たらくじゃ。儂もお主のように迷うことはある。しかしながら、今は迷うべきところではなくやるべきときじゃ。何をやるのじゃ。」


 そうか。とりあえずやることから始めるのか。ハビエルの言う通りである。…。やはり俺の覚悟が足りていなかったか。すぐには頭でわかっても行動することはできない。


「わかりました。作戦は簡単です。少し大きな石を下に落としてください。それを何回も繰り返します。できれば敵軍の損害状況を見たいところですが。」

「ふむ、それではまず、部下には落石を命じよう。相手の弓矢が通らない高さからで問題ないのじゃな。」

「もちろん。私たちの犠牲はなしでお願いします。」


 ここでの犠牲があれば、今後の作戦に影響が出る。それならば、落石の数を減らせばいい。あくまでもここの作戦は相手の犠牲を大きくするものではない。ハビエルが急に高度を落とした。近くの森に降りるようだが。


「カツナリはここから敵軍を観察するのじゃ。儂らと一緒にいてもやることはない。儂らもこの近くの森から石を持っていく。ある程度、落石を行ったらここに来る。その時に指示を出してくれ。」


 そういってハビエルはまた空へと旅立った。俺が考えていた作戦とは少し違うが、大枠を捕らえているので大丈夫だろう。ハビエルがあんなに早く旅立ったのは統率をとるのが難しいからかもしれない。あくまで混成である今回は言うことを聞かない奴もいるのだろう。

 少し時間がたつと人間の声が聞こえてきた。いや、今までも声は聴いていたのだが、人間の声は久しぶりだった。叫び声が多い中に太い声が聞こえる。俺はこの声の主を探してみたかった。おそらく、この男が次の戦いでは中心となって戦うのだろう。ハビエルが下りてきているのが見えた。


「カツナリ、このまま継続か。」

「いや、いったんやめましょう。しかし、ハビエルさんは少し話をいいですか。」

「もちろんじゃ。まずは部下に話をしてきた後にしよう。」


 ハビエルは再び空へ飛んでいく。しかし、これで何とかなるかもしれない。あとはある程度運に任せるしかない。さてと、あとは相手の持ち物を確認して撤退をしなければ。


「さて、何かの。」

「ハビエルさん、一際大きな男の声がしていましたが、その人間が分かりますか。」

「分かるが、どうかしたかの。」

「その人間を周知徹底してください。あの男の声を聴いて周りの人間の喧騒がやみました。おそらくではありますが、彼が精神的支柱の可能性があります。」

「その支柱とやらが何になるのか。」

「それは今説明してもわからないでしょう。しかし、あの男が死んだときにわかると思います。あとは相手の敵軍の後方を見たいのです。」

「ふむ。わかったと言いたいところじゃが、後方を見るのは難しい。」

「それは警備が厳しいということですか。」

「いや、人がいるだけじゃからな。」


 …どういうことだ。兵站の準備をしていないのか。信じられない。本当に俺たちの森に攻めてくるのか。普通の沙汰ではない。死に来るようなものだ。

 ここの先に城もない。援軍もない中、彼らはどうやって兵站をつなぐ。現地調達…、それも難しい。俺たちの森にはそのような貯えもない。その日暮らしとは言わないが、それなりの兵站しかないはず。でも、その兵站を調達するには俺たちを全滅させなくてはならないだろう。しかも、俺が生きていれば、確実に兵站を燃やす。そうすれば彼らも生きては帰れないだろう。

 しかし、そんなことをやって彼らに何の利点があるのか。


「とりあえず、動いてみんか。」

「動く…というのは。あまりここで目立ちすぎるのは…。」

「相手を知らないのはよくないことだということは儂でもわかる。しかし、カツナリはその情報を元に戦争に勝つ方法を考えるのじゃろ。では、ここで無理をしたところで大したことはないの。」

「…。そうですね。ハビエルさんの言う通りです。少し難しく考えていたようです。ハビエルさん、お願いいたします。」


 俺はハビエルと共に空を飛んだ。

 やはり、下はうまく見えない。見えないのは俺の視力が悪いわけではないだろう。明らかに高度が高いのが原因だ。


「…、やはり見えぬか。」

「ええ、さすがにこの高さでは。」

「どうするかの。見えるようにするため下に下がるしかないが、見つかるのは怖いの。しかも儂だけなのも難しいところだの。」

「やり方はあります。けれど、難しい。」


 ハビエルにとっては関係ないことだが、俺が無理をすればいいだけである。


「何か不穏なことを考えていないかの。」

「なんです。」

「人間に紛れると思っているのかと聞いている。」

「…。」

「安直すぎる。貴様は人間であるだけ。我々でもそれだけではさすがに見抜く。」

「しかし、取れる方法は限られています。」

「簡単じゃないか。特攻するのだよ。」

「おいおい、待って、」

「ようやく本来の口調になったの。行くぞ。しっかりと捕まって、顎を引いておくのじゃ。最悪の場合、下を噛むことになるからの。」


 ハビエルは落下するように高度を下げていった。


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