表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/66

内示

満身創痍の護衛が2名。1名は腕をなくしており、もう1人は片目を失っている。ヴァルガは返り血を浴びているだけのようだ。


「無事のようだな。」

「はい。」

「ヴァルガ王がなぜこんなところに来たのです。」


 オーブリーは不快な思いを隠すことなく話しかける。仲が良くないというのは俺が思っている以上に対立しているのか。しかし、それでも彼の国に従っているということはそれほどまでにこの国が変わっているということか。


「オーブリーの意見はわかっている。俺が思っている以上に部族の対立が大きくて、それが森全体に広がる勢いだったから、これから説明して回るのだ。」


 人間という種族は差別されるほど嫌われているな。このままでは他の国を落としたとしても統治することが難しくなる。上官を派遣したとしてもその上官は好き勝手に何も課も行い国が混乱するのは目に見えている。この意識改革までするのは時間がかかってしまう。


「しかし、ヴァルガ王、この調子でいけば反乱がおきるぞ。人間との戦争が近いと思われる中、内部まで混乱を抱えては勝てる物も勝てないぞ。」


 オーブリーの言う通りである。内部に亀裂がある状態で戦えば負けるのは必須である。しかも人間がどのような軍勢で来るのかわからない。対する人間の国にはこの場所のある程度の情報があるはずだ。さすがにいかに憎い相手でも事前に何も情報のないところには軍を進めることはない。


「しかし、どうしてそれほどまでも反発が起きているの。単純に人間が嫌いという感情だけの話ではないような気がするけれど。」

「確かに間違っている。シェイラの言うとおりである。しかしな、仕方ないところもあるのだ。あの戦いで我が国の動物が死にすぎた。人間という動物に敏感に反応するようになったのだ。今回の会議もその話から紛糾することになった。」


 やはりその戦いの影響が多いということか。そうなると人間との戦いをしっかりと聞いて、どの種族がどのように被害を受けたか聞かないといけないな。これからの戦いに役に立つだろうが、それ以上に相手がどの種族を中心に攻撃していたかわかることだ。その種族を知れば人間の戦い方もわかるだろう。

 それにしても、毎回部族の話が出ているということは俺が思っている以上に対立関係にあるということだろうか。しかし、以前聞いた話では2つの部族が従っていないだけでy他の部族はまとまっているという印象を受けていたのだが。


「カツナリにはこれからの話をしなければならない。一旦、あの小屋に戻るぞ。オーブリー、お前が何を考えているのか知らないが、今はやめておけ。俺でもこの状況で動くことはないぞ。」

「心配せずとも動きませんよ。それにあなたにわかるように動くつもりもないですけど。」

「それならよいのだがな。別の物から蜘蛛族を見張れとも言われている。」

「シェイラもいるし問題ない。」


 オーブリーは俺に手を振りながら森林の中に入っていった。もちろん、縄張りに戻るのだろう。彼らは武闘派ではないようだからな。オーブリーが行ったことでヴァルガは小屋の方に向けて歩き出す。合わせて護衛とシェイラも動き出す。

 しかし、ヴァルガの護衛の傷の手当は大丈夫なのだろうか。


 小屋に着いた際に護衛は帰っていった。いや、帰れるのだろうか。ヴァルガが返しているので帰ることはできるだろうが、一抹の不安がある。どこかで野垂れ死にしていなければよいが。俺はシェイラの隣に座った。



「カツナリには話をしておかないといけないと思って、今日はここまで来た。話をしたら帰るから安心してほしい。」

「ヴァルガ王のことを怖いと思ったことはないですが。」

「その話口調を変えてくれ。無理しているわけではないだろうが、お前はその口調が本当ではないだろう。」

「そういうのならやめよう。ヴァルガとシェイラ、シュウコぐらいのときにこの口調がいいのかな。」

「そうだな。皆の前では臣下に見られないだろうな。」

「じゃあ、さっそく。何があった。俺はこの小屋に帰って来てよかったと思っている。足の傷も癒えていないし、この小屋でやることはまだまだある。思っていた以上にここの研究者の資料は重要なものが多いように思っている。」

「会議になる前に俺は現在集まっている部族を集めて会議を行った。御前会議と言われる奴だ。彼らは俺に長い間忠誠を誓っていたからな。カツナリの役職の話をするべきだと思っていたのだ。カツナリを臣下として招き入れるのは誰も反対しなかったが、役職には全員が反対をした。」

「俺の役職は何にしようとしたのだ。」

「お前が教えてくれた軍師という役職だ。」


 いきなりそれを言ってしまうと反感を買うにきまっている。どの国でも軍事を司る軍隊には機密や規律があり、俺のように先日来たものに軍師の役職に就けるはずがない。もう少し下にできなかったのだろうか。


「言い方が悪かったのか。」

「そうではない。そもそもこの国には軍隊なんてものはない。」

「…今までどのように戦っていたのだ。」

「その部族が勝手に決めて兵隊を出していた。」


 さすがにそれでは勝つことができないだろう。兵数を把握することができなければ兵站を定めることもできない。その上、軍略を立てるのが兵数によって左右されてしまう。しかも戦場でも部族が仕切るのであれば、部族長が作戦を把握していなければ失敗に終わってしまう。


「よく最初だけでも勝てていたな。」

「身体能力だけは優れていた上、兵糧も敵から奪っていたからな。」

「そうか。外敵にそこまで頼っていてはもはや攻める意味もないな。ここの食料事情が知らない俺が言うのもおかしいが、攻めたのは間違いだな。」


 外に何もかも頼るのは間違っている。ヨーロッパでも焦土作戦によりナポレオンは破れている。相手を的確に把握してから奪う算段などを立てるのだ。間違ってもすぐに考え方を改めるべきだ。


「そのようなことをお前はわかっているのだろう。だからこそ、カツナリには軍師の役割を早く担ってほしかったのだ。今、人間に攻められた場合、そういった知識を持っているのはカツナリしかいない。」


 だからと言って、俺に何もかも押し付けるのはおかしいように思う。しかし、動物にはそういった才能を持つものはいないのか。さすがにすべてを把握するのは難しい。


「話はよく分かった。護衛は後にするとしても補助員が必要である。特にいくつかの部族から選抜する必要がある。部族はすべてをそろえる必要はないが、諜報部員としての才能を見いだせる部族が良い。ともかく、軍師というのは情報をすべて把握する必要があるからな。お前たちが思っている以上に微細な情報を抽出する。そのためにはシェイラの部隊を頼るかもしれないが、大丈夫か。」

「大丈夫。でも、軍師というのは情報収集が目的なの。今も情報収集はしているけど。」

「そういう意味ではないさ。情報収集は基本的なところ。その情報から何を得て、何を目的とし、相手の弱点を見極めるかというところだ。もっと要素はあるが、最終的には相手を倒すことになるからな。」


 軍師はそういったものではないことも知っている。作戦を司るのだから情報収集だけではなく最善と思われる道、もしくは相手に勝てるだけの材料を集めて勝てる道を探り、皆を導くものである。これは自分の考え方である。


「話は済んだな。とにかく、カツナリは体を休めることだ。足はまだ完治していないのだろう。会議中は誰も助けてくれないだろうから、その覚悟はしておくべきだ。俺は宮に帰る。さすがにこの非常時に王が不在なのはよくないだろうからな。」


 そういって彼はすぐに出ていった。


「シェイラは族の選抜を行ってくれ。このままでは後手に回りそうだ。」

「わかった。でも、」

「俺は大丈夫だ。ゆっくりしているよ。」

「無理はしないこと。」

「わかっている。」


 シェイラも外へ出かけて行った。


 この世界に来て、ほとんど時間は経っていないが、自分に何かが流れているのが分かる。これが力というのであれば何が変わったか、確認をする必要がある。ただ、この足の状態では確認することもままならない。


「どちらにしても、今はゆっくりしろということだろうな。」


俺は固いベッドへ横になり、目を瞑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ