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不測の事態

シェイラは何か森林から気配を感じた。以前話を聞いたことがある部隊の1人なのはわかっている。この男は以前、自分の部隊の一員だったのだ。


「少しここで待っていて。何かが近づいてきている。以前の私の部隊のものだ。」


シェイラがカツナリと離れると同時に動物が近づく。


「シェイラ、残念ながら会議は明日になった。原因は追って伝えるが、動物間での抗争があったと思ってくれれば大丈夫だ。」

「それは大丈夫というのかな。」

「今は落ち着いている。動物たちは殺気立っているが、戦いには発展しないだろう。彼らにも意地や独特の世界観があるからな。それはどうやっても取り除けるものではない。だが、これ以上続けばヴァルガ王が出てくることになる。」


 シェイラはカツナリのことを考えていた。彼は何を気にし、何が気に食わないのか。彼は国にとって重要人物になるように思っている。彼の気分を把握するのは当然ではあるけど、それ以上に彼がどこに重きを置くのか判断をしなければ何か危ないことになると思っていた。もちろん、軍事をつかさどるというのは当たり前であるけれども、それ以上に彼がどういう意味で何をするのか。


「彼は元気か。」

「うん。思ったよりも大丈夫みたい。体が強そうには見えなかったけど。」

「そうか。それともう一つ、彼に関して話すことがある。」

「何。」

「彼を人間のところの軍師というものに任命するのが事前会議にて決まっている。」

「…。それは本当に大丈夫。」

「大丈夫ではないので、抗争が起きてしまったということ。ただな、現状では我々に打つ手はないのはわかっているだろ。だから、ヴァルガ王は決断したんだ。その決断が良い方向に向かうか、悪い方向に向かうかわからないけどな。」


 彼の懸念よりもカツナリの意思が問題であるように思った。彼はこのことをおそらく知らない。彼自身が思っている軍師という役割と動物が思っている役割が異なる場合には何かしら、問題が発生する。


「その軍師になることを彼は認めている。」

「本当に。彼と話をしているところを見たことはないけど。」

「ヴァルガ王が事前に話をしているようだ。俺も詳しいことはわからない。しかし、ヴァルガ王は了承の上であると言っていたぞ。」

「そんな話は聞いていないけど。」

「だが、このまま、彼を遊ばす訳にもいかないだろう。いきなり、人間の国へ密偵に行ってもここをもう少し知ることができなければ、何を調べるかもわからないままだ。軍師というものを俺はよく知らないが、戦争の作戦を立てる役割だろう。なら、彼自身がその役割をしることによって、この国を知る良いきっかけになるはずだ。」

「確かにその通りだけど、そんなにうまくいく。」

「うまく運ぶのは王の仕事だ。我々の仕事ではない。」


 シェイラは月を見ていた。あの時も満月だった。この満月の中を皆と共に逃げていったのだ。隣の彼も同じように月を見ている。彼は本当に苦労したと思う。調整役として、そして闇の番人として。


「シェイラ、心配するな。あの時と我々は違う。」


 シェイラは彼の元から動く。会議の件は問題ない。しかし、カツナリは今回の延期をどのように感じるのだろうか。



「どうした、シェイラ。」


 オーブリーは少し離れてシェイラを訝しく見ている。そこまで警戒することもないだろうと思うが。何かを感じたのだろうか。


「カツナリ、会議が延期になった。」

「そうか。」

「いや、会議の延期なんて何年前だ。ヴァルガ王は会議の延期を何より嫌うのに、何があったというのだ。」

「そこまでたいしたことではないと思ったのですが、ここの王様はそういったことを嫌うのですが。そのような印象は受けませんでしたが。」


 延期したということであれば仕方のないことである。しかし、理由が全く分からない。ヴァルガの印象では簡単に説得できるような言い方だったが。思ったよりも反発が大きかったのか。今の段階では判断ができないな。


「オーブリーの言う通り、王は無駄なことを嫌う人で間違っていない。今回の件は私にも知らされていない。」

「それは少しおかしいな。シェイラ、君は事の顛末を知っているのではないか。彼の監視役でも案内役でもある君が全く知らないということはないだろう。僕はいいとして、当事者の彼には教えなくてはいけないだろう。」


 オーブリーが周りを見ている。周りには大きな森林があるだけで何があるわけではない。しかし、他の蜘蛛も周囲を見ている。黒い物体やカラフルな首が一斉に動き出すのは異様な光景だが、不思議と気持ち悪くはない。これもオーブリーと話しているからだろうか。

 俺も何かを感じた。腕を見ると鳥肌が立っている。圧力ではない。何かの存在に体が緊張しているのだ。しかし、晴れているのに暗い森林というのは人間にとっては不利にしかならない。


「何も見えないのですが、何が来ているのですか。」

「すまない。わからないが、何かが迫っている。敵でないといいのだが。」

「配下が結構いる。大丈夫だと思うけど。」

「あのな、虫にはお前たちみたいに特攻の虫はいないのだ。勝てない敵には逃げるのが虫だから。」


 そうか。そういった行動は今も自然にするのか。だから、護衛が少ないのか。周りを見てみると親衛隊だと思われる4体の蜘蛛以外は姿が見えない。


「相変わらずね。虫は。」

「そういうなよ。虫は弱いから防衛反応が強いだよ。仕方ないだろ。これでも兵隊としては多くなった方だ。巣のほうも守らないといけないからな。この4体が限界だ。」

「ここは誰の縄張りなのですか。その縄張りを張っている人が今来ているものなのでは。」

「カツナリ、縄張りがすべての土地に張られているわけではない。通り道がなくなるだろう。ここは公道だ。誰が通ってもよい道だ。」


 そういった道も出来ているのか。土地で完全に区切られているものだと思った。ということはどんなものが通っても構わないということか。俺も通っても構わないということだろう。


「カツナリ、甘いぞ。通ってもいいということは縄張りが決まっていないという風に捉えられる。そうなれば、縄張りを出た動物を襲うことは罪にはならないのだ。」


 なんて怖い公道だろうか。これでは犯罪の温床としか言いようがない。犯罪道路と言ってもいいだろう。動物とは縄張りでどのように生活をしているのだろうか。縄張りの中にはない水や食料はどのようにしているのか。地球の生物は縄張りから出ていたようにも思うが、詳しくは知らない、いや、覚えていないのか。


「動物の罪がどのようなものか調べるのが必要なのはよくわかりました。ただ、私を襲うことは相手にとって不利益になりそうですが、そこのところは考えないのですか。」

「理性があれば襲うことはないだろうが、人間を見て大丈夫だと言える動物は少ないだろうな。」


 どうして、こうなるのだろうか。それであれば、俺を小屋に入れておいて、縄張りを通る道を模索すべきだったのではないだろうか。確かに早く会議に行くことは大事であろうが、主賓が死んでは意味がないだろうに。


「来る。」


 地面に着地をしたのは多数の傷を負った護衛を伴ったヴァルガであった。



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