表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/66

ヴァルガとシュウコ

月は雲に隠れ、若干薄暗かったが彼の眼は夜の間も昼と同じように見えている。夜目が聞いているからだろうか。しかし、人間と戦争をした時にはこの眼が役に立ち奇襲を成功させ無事に部隊を撤退させることができた。動物は人間と異なり危機察知能力に優れている。それを利用し、ウァルガ達は肉体的な限界を超えていても動くことができたのだ。彼らは身体能力のみで生き残ることに成功したのだ。


「ウァルガ王、ここにいては少し寒いと思いますが。」


 シュウコはヴァルガ王が風にあたりたいという時の心情をよく知っている。特に緊張感が強いられるときにはヴァルガは外に出たいということが多い。彼は戦いの予兆を感じ取っているのだろう。戦いが近いことは蜘蛛族のオーブリーより話を聞いているのでシュウコも知っている。攻めてくるのは時間の問題だ。しかし、内偵がいないため正確な情報が伝わりにくい。その上、言葉をしゃべることができない動物が多いため、そこでも情報伝達がうまくいかない場合もある。


「シュウコか。気遣いは無用だ。私は兎族ではあるが、他の物とは少し違う。」

「もちろん、分かってはいます。ただ、知らぬ物が心配するのです。」

「無視しろ。それよりも報告が欲しい。」


 シュウコは一瞬、躊躇したように見えた。おそらく、姪であるシェイラがこの場にいないことを気にかけているのだろう。しかし、シェイラはカツナリに心を開いている可能性がある。できるだけシェイラには聞かれないほうがいいだろう。


「心配するな。あと、俺が直接、カツナリには話に行く。」

「わかりました。報告いたします。」


 ウァルガはシェイラの報告をすべて聞いた。この情報が正しいのであれば、カツナリは他の迷い人とは違い、知性の能力を身に着けている可能性が高い。落ちてきた先が動物の森であったのが原因なのだろうか。


「彼は身体的な能力も多少は向上していると思われます。軍隊の人間ではないはずなのにカメレオン族の一撃を受けても死には至らなかったみたいですから。しかし、怪我を負った後の様子を見れば知性のほうが圧倒的に優れています。以前の記録ではカメレオン族の程度の攻撃では怪我を負わせることが難しいことが分かっています。」

「そうか。ただ、それは今まで最強の迷い人だろう。彼にそれを当てはめるのは酷だろう。ただ、なんとなくだが、彼は身体的な能力ではないだろうな。知性型を育てるとすれば、俺たちではどうすることもできないな。」


 基本的に迷い人が先天的な能力を授かるのは有名な話である。だからこそ、人間は迷い人を取り込もうとする。それだけの能力を秘めている可能性が高いからだ。以前、戦った中にもそういった能力を持っている人間がいたのだろう。そうでなければ、動物たちが一方的に蹂躙されるということはあり得ない。今回はカツナリがこちらに入れば欠点を補うことができるだろう。しかし、それはあくまでも成長させることができる師匠が居て成立する話である。いかに頭が良くても、ここにいる限り今以上に知性が高まることはないであろう。


「そうですか。さすがに人間に伝手はありません。他のものに伝手があるものが居ればいいですが、どのように考えてもいないでしょう。その前に知識として各部族の特徴と得手不得手を教えておく必要があります。彼にそこまで教えるのは少し早くありませんか。もう少し性格や野心などを見ておく必要があると思いますが。」


 ウァルガは少し笑ってしまった。以前の戦争で一番、成長したのはシュウコとシェイラである。部族のことを知ることは重要であるが、それよりもカツナリは知識を付けるべきだ。動物の中で学習するのは本当に限界がある。


「シュウコの意見は動物によっている。確かに動物のことや縄張り、部族のことを覚えるのは重要だ。しかし、今のままではカツナリは成長することができない。動物の世界に染まる前に人間の世界で学ばせる必要がある。」

「確かにヴァルガ王の言っていることは正しいでしょう。しかし、彼は人間の世界で生きることを優先しませんか。正直に言いますが、現状人間が安心して生活できるような状態ではありません。むしろ、危険が多いです。彼が外に出てしまえばこの国は滅びます。」

「そんなことはないと信じたい。彼は人間世界に憧れていない。むしろ、この国に慣れようとしている。そんな彼が人間の世界に染まるとは思えない。ただ、懸念は残るがな。ふむ、何かが俺を見ているようだ。これは同族ではないな。人間でもない。」


 シュウコは森のほうに顔を向けるが、首を振る。


「怪しい人物はいないようですが、念のため斥候を出しましょうか。シェイラはここにいませんが、別のものでも対応できるかと思いますが。」

「そういう意味ではない。単なる勘だ。この状況で斥候を出せば、それこそ会議での話し合いに支障が出る。そういう意味ではなく、何かが俺を狙っているという漠然とした勘だ。オーブリーの部族から人間が出兵するかもしれないとの情報を受けているから、その人間の軍かもしれないな。どちらにせよ、そのことに関してもカツナリには話しておかなくてはいけないだろう。俺たちだけでは作戦を立てることが難しいからな。しかし、今のこの国の状況では各部族の連携もままならない。すぐに戦争になれば我々は全滅する可能性が出てくる。今の部族長は皆が戦争を経験している。人間を殺して恨みを晴らしたところで仲間は帰ってこない。それが分かれば自制をすることもできるのだろうが、今は感情のまま行動するだろう。シュウコ、報告は以上だな。ここを静かに立ち去れ。カメレオン族がそろそろ到着する。王と側近があまり長く話をしていると何か腹に持っていると言われそうだ。」



 シュウコは静かに立ち去る。

 ウァルガは雲に隠れた月を見ながら、手すりを握る。手すりが不穏な音を立てる。彼の握った取手は放射状のひびが入っていた。


「次は負けぬ。」


 そう言って、ウァルガは城の中に入っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ