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シュウコの思い

 ここでできることは多くないといえ、小屋での作業ではここに住んでいた研究者の研究の内容を調べないといけないだろう。研究の内容が分かれば、動物たちがどうしてこのようになったのかがわかるかもしれない。人間が敵対や忌避する理由の解明にもつながるだろう。


「そうだな。少しは役に立ってもらわないとな。外界へ行くのも大事な仕事だ。まずは外界よりも部族のことを覚えろ。動物は縄張りが主体となって動いている。本来は動物が動いて縄張りを決めるのだが、森林は場所が狭い。狭いのであれば、縄張りが決められてしまう。不用意に縄張りを荒らせば王の俺でさえ、動物たちの反感を買い、ここにはいられなくなる。だからこそ、お前が先程のようなことになってしまったのだ。俺やシュウコにも非がある。しかし、すべての道は公共の道であったため、本来はこんなことにはならなかったはずなのだがな。少し早いが、俺は迷い人の件に関して各部長に対して会議をしなくてはいけないからここで抜ける。カツナリよ。お前はここでどんなに強くなろうとさすがに武官にはなれないぞ。早く自分の役割を見つけることだ。」


 武官になれないといわれると辛い。異世界では無双するような作品が多いだけにそのような強さに憧れてしまう。だが、現実を見れば怪我をして、動物たちの世話を受けていることを考えれば武官になるなんて夢はなくなってしまう。ここで生きるためには武官では無理なのは感じていた。どのように考えても人間と動物では身体能力に差がありすぎる。これでは人間の中で強くなったとしても“並”の強さを超えることはできない。その上、奇襲など特赦部隊はおそらく組織すれば勘に優れた動物を連れて行く方がはるかに作戦の成功率は上がる。


「…。なるほど。さすがは迷い人ということか。」

「何?」

「不思議に思わないのか。カツナリは戦場に身を置いたわけではあるまい。その上、今は怪我を負っており、本来なら精神的に不安定のはずだ。では、なぜそのように普通の思考をすることができる。普通ならばもっと乱していておかしくないぞ。それならばカツナリは今までの迷い人と同じように何か能力を授かったのだ。身体的な筋力ではなく、思考や考えなどか。これからわかればいい。時間は少ないかもしれないが、まだ時間はある。さて、シェイラ、ここは任せるぞ。さすがにシェイラといえこれ以上の失態は見逃せぬぞ。シュウコは後で来い。いきなりシェイラと2人になるのは難しいだろうからな。」


シェイラは青い顔をして頷いていた。彼女が何かしたわけでないだろう。

 シュウコもなぜか青い青をしている。何かあったのか。


「承知しております。これ以上は何もさせませんので。」


 頷いてウァルガ王が外に出ていく。シュウコとシェイラがため息を吐く。今のヴァルガの重圧は重たく、周りの空気まで重たくなったような気がした。その感情を察したのか、彼はすぐに話始める。


「彼は偉大な王です。以前の戦争のときに、人間達に向かって勇は本物。私は遠くから見ているだけでしたが、彼は何人もの将軍と言われる人たちを討ち取りました。王の強さは人間の何倍もあるのは事実です。しかし、それだけでは勝てないことがよくわかりました。人間達は将軍たちが倒れてもすぐに立ち直り戦ってきました。我らにはない力があることが分かっておりました。それをあなたが分かっていたら教えていただきたい。」


 わかっている。彼らが必要なのは軍師、または総司令と呼ばれる、大局的な見方のできる人物を求めている。そして、この動物たちをまとめて指揮できる人物。人間が総司令を務めるのもこの国では難しいだろう。そもそも、俺にはそのような知識や経験もない。どんな人物でさえも経験や知識を積んで、もしくは誰かに師事してから戦場に出ていく。本当の天才はその場で戦術や戦略を考えていたらしいが、それはごく一部だろう。


「あなたたちになければならない地位や役職は軍師と呼ばれるものです。しかし、軍師とはすぐになれるものではありません。昔から知識人がなる役職である上に、経験が必要な役職です。私たちの国では戦争もなかった。そんな私が軍師になれるとはとても思えません。」


 シュウコは口を塞ぎ俺の方を見る。まるで敵を見るような目で。気持ちはわかる。迷い人として迷い込んだ俺がこの場に現れたということは彼らからすると不足している部分を補ってくれると思うだろうから。しかし、できないことはできないと言わなければ彼らにはもっと失礼に当たる。それに利点も全くない。本当に俺はなぜこの国に呼ばれたのだろうか。それこそ、動物の転生者として呼ばれればこんなことにはなっていない。


「もちろん、わかっています。私たちがあなたに求めすぎなのは。しかし、それほどまでに私たちは武勇にばかり頼りきっている。知識が圧倒的に足りず、人間のようになった期間も短く経験も少ない。次世代からはそこから抜け出せるかもしれません。しかし、そのような時間はありません。もし、直近でここを攻められれば私たちは壊滅するでしょう。そこまでの状態まで来ています。」


 シェイラは外に出ていく。彼女は席を外してくれたのだろう。俺も何も足りていない。彼らがなぜここまで苦境に追い込まれているのかわからないが、外部の力が必要なほど追い込まれている。食料の問題か、縄張りの問題か、はたまた感染病か。どちらにせよ、問題は早急にわかっておかないといけない。俺が人間の国で実験台となる可能性が強いのであれば、この国に骨を埋める覚悟で人間を叩きつぶす。それぐらいのことをしなければこの国には認められない。


「まずは私にも情報をください。このままでは私も不安です。どのように私が動けばよいのかもわかりません。」

「もちろんです。私はあなたに何か力があるものと思っています。」


 シュウコの眼は真剣である。俺の力が本当にあるかなんて不明であるが、軍師の力はこの国にとっては必要な力である。シュウコやシェイラは俺に力があればよいと思っているのだろう。


「我々は人間に恨みを持っています。それはあなたも知っていることでしょう。しかし、あなたは人間でありながら、ここで生活をし、この国に住むつもりでいます。あなたになにか不思議な力があるように思えてならないのです。このシェイラも本来なら人間嫌いなためあなたと話すことも嫌なはずですが、彼女にはその様子がない。私はあなたに我々の希望を実現していただけると思っております。」


 その話を聞いて、俺はこの国にどのように貢献できるかを考えていた。


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