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芋虫と怪我

目が覚めると知らない天井が見えた。一体、ここはどこなのだろうか。


「目が覚めたようだ。」


 シェイラとシュウコ、あとは小さな鼠たちと芋虫がいた。んっ、芋虫…。鼠はわかるが

芋虫は言葉をしゃべることができるのか。


「大丈夫ですか。」


 シェイラが話しかけてくる。初めて会ったときに比べて、人間味が出てきたように思う。俺が体を起こそうとすると足に力が入らないことが分かった。その上、足には包帯が巻いてある。カメレオンに飛ばされたときに足を怪我していたことを思い出した。血を流しすぎたのだろうか。


「何とか大丈夫みたいです。ただ、足の感覚がないようです。」


 シェイラはため息をつく。心配してくれていたのだろうか。


「熱も出たりして大変でしたが、命の危険はなさそうですね。いったんは起き上がってください。水だけでも飲まないと脱水症状になります。足の傷については癒えてはいませんが、縫合しているため大丈夫かと思います。」


 俺が足を見ると足の傷はしっかりと縫われていた。だが、足の感覚がないのは不安である。シュウコは俺の様子を見てはいないようだ。常に鼠と話をしているようだ。何かあったのか。シェイラはシュウコを見ることなく話を続ける。


「小さな彼らに感謝してください。ネズミたちが縫合し、糸は芋虫たちが出してくれました。人間が使っている布の糸に比べ、耐久性はよくありませんが、芋虫たちの糸はそのまま体内に吸収される特殊な糸です。完治も早いでしょう。」


 右足を見てみると糸は透明である。体内に吸収するとは思えないが、ここは信じるしかないだろう。彼らには感謝をしなければならないな。ネズミの隣の芋虫が俺に手を振っている。あの小さな手足で器用に振ることができるのだ。どのように考えても異常だとは思うが、やはりここは異世界なんだと感じてしまう。

信じるとは言え、彼らの糸は本当に体にいいのだろうか。芋虫が口から糸を出してアピールをするのは悪くないと思うが、無害かどうかは別の話だ。気持ち悪いと思っていたが、この様子を見ると


「不安なのはわかりますけど、彼らの糸は体にいいです。もちろん、信じていただくしかありません。彼らは私たちが言っていることもわかりますので、虫の中でも上位に位置する虫たちです。」


 シェイラは言っているが、俺には関係のないことのように思える。彼は人間ではないだから。その反応に反対しているのか芋虫が俺に糸を吐き出す。反応はかわいいのだが、やはり安心できるかどうかは別だよな。


「すみません。博士と言わせていただきますが、彼もよく怪我した時には彼らの助けを借りていました。彼は自分の体を使って研究もしておりましたから。今回はそこまで心配することはないでしょう。彼には後遺症など残っていないようでした。」

「そうですか。その博士が実験しているようであれば問題かもしれないですね。ただ、彼の実験は何をしていたのでしょうか。この部屋には何もないような気がしますが。」


 シェイラが首を振る。しかし、憂いを感じられる表情をしている。あの表情を見ていると実験しているようにも見えない。もしかして、彼女たちは彼が研究をしているのを見たことがないということか。もしそうなら、ここに家を建てる理由もないはずだ。彼は何を研究していたのだろうか。


「動物と言っても私たちのように知性を持ったものばかりがいるわけではありません。彼は外界から知性のない動物を連れてきては研究をしておりました。例えば、爪を切ったり、血を抜いて何かを調べていたようです。私たちは字が読めないため、何が書いてあるかわかりませんでしたが、彼が言うには私たちのような知性型動物、無知性型動物、長寿型動物の3種類の違いを調べていたようです。長寿型動物は知性型動物と無知性型動物を備えています。知性型動物は無知性型動物を含んでいます。長寿型動物はリーダーになるべくして生まれたものが多いという結論までは聞いております。」


 彼は何を調べていたのだろうか。シェイラが言っていることは長年観察していればわかるものであり、わざわざ爪や血などの体の一部を採取して調べるようなことではない。彼が調べていたことはもっと別にある。彼が住み始めた経緯を見ると突然変異などの特殊個体を調べていたともとれるが、ここにいるものはほとんど知性型動物以上に分類されるだろう。それを考えれば突然変異などではなく、あくまで人為的なものであった可能性もある。彼は3種類の違いを調べて何を突き止めようとしていたのだろうか。


「彼の残した研究論文などはありますか。」

「すみません。私たちは文字が読めないのでそれを見分けることができません。」


 ならば、俺が見るしかないということか。俺はそこまでの知識を持っているわけではない。全くないわけではないが、中学校の保健体育ぐらいの知識ぐらいしかないだろう。しかし、ここではそんなにもあるというレベルか。


「わかった。俺が幸いにして文章も読むことができる。ここにいる間は俺ができるだけ読んでみよう。外界へ行くのは迷惑をかけてしまうが、ここでは役に立とう。」


 ヴァルガは俺の様子を見て頷いた。

 少なくとも俺にできる仕事があってよかった。さて、読む前に俺は何をすればいいのだろうか。


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