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転生

人間はたとえ望んでいることが起きたとしても状況を理解するまでに時間がかかるものである。それはライトノベルを読んでいるときにいやというほど主人公が体験するものである。それが自分の身に起こったとしても同じようになってしまうらしい。

頬に水の滴が落ちて目が覚めて周りを見てみると風景が違う。確か自分の部屋でライトノベルを読みながら、うとうとしていたように記憶している。自分の頬についた水滴をふきながら、周りを見てみると薄暗く樹齢何千年といわれているような太い木がたくさんあるように見える。どうやら、奥深くの森林のようだ。自分の家は田舎にはあったが、決して森林の中にはなかった。少し大きな木があったぐらいで普通の住宅地であったはず。また、家の中にまで森林があるような開放的な作りではない。木だけということは自分の身だけがどこかに行ってしまったということであり、家はおそらくどこかにあるのだろう。これが異世界かもしれないと思っても、心がおどらないのはなぜなのか。

ふいに首にも触ってみるとわずかだが濡れていた。雨でも降ったのだろうか。少し頬をつねってみると普通に痛い。夢での痛みよりもはっきりとした痛みを感じた。今まで生きてきた自分の感覚から考えてみるとやはり現実であるというのが自分の中にある。ふと、自分の服装を見るとTシャツに下はジャージ。もちろん、靴は履いていない。家では極力部屋着でいるので、寝ている間に移動したということだろう。傍迷惑な話である。

周りを見れば見るほど、先程からちらちらと頭を過る異世界という言葉が現実味を帯びてくる。ただ、本当に異世界かどうかは分からない。もしかしたら、死んだということも考えられる。そうなれば、転生者ということになるのだろうか。普通は幼子にでも転生するのだが。どう考えても幼子ではないだろう。手も変わりはない。異世界に行くには転生と転移があるが自分の中では全く異なる分野であると思っている。転生が自分の中ではしっくり来ていないため、転移であったらうれしいと思う。それはひとえに気分の問題である。

状況もわからないなりに収集はできたので少し落ち着いた。深呼吸をして、ゆっくりと周りを見渡してみる。やはり周りには木しかない。ただ、自分が見てきた木とは違い幹がかなり太く、丈夫に見える。日本で言えば屋久杉の木が近い。ただ、樹木の表面に苔が付いていないのが気になる。これほど大きな木になると気象条件が左右するため、ある程度湿地帯のような雨の多い場所に比較的多いと言われる。しかし、この木々にはそのような形跡が全く見当たらず、そもそもここまで大きくなる木であることが分かる。ちなみに大きな木が多くあるせいで、上を見上げても太陽が隠れておりこの森は少し薄暗い。それにしても自分自身こんなに頭の回転が速かっただろうか。

上からの太陽の光は完全に遮断されているため木の間から太陽の光が漏れているが、どうにも角度がおかしい。太陽は一方向からしか光を発することができないはずだ。完全に暗闇になることは稀だとしても自分の手の色がわかるほど明るくないと思う。照らされているのは右と左。太陽が2つあるのだろうか。ますますわけが分からず、やはり異世界にいるのだと感じてしまう。


「ここはどこなのだろう?」


 思わず自分自身に問いかけてしまう。答えはもちろん返ってこない。異世界転生物であれば、最初に人やエルフなどの亜人というのか、そういった形の出会いがあるか何か危険があった後に出会うのか、それともかなり後に出会うのか。自分が読んでいたものは途中から出会うものが多かったため、少し後であると思った。これは根拠のない勘である。いや、そもそも死んでいるのかもしれないから普通に恐ろしい。とりあえず、なんとなく湿気の多いほうに向かって歩くことにした。これも勘でしかない。湿気の多いか少ないかはよほどの変化がない限りわからないのだから。自分にはこういったサバイバルや山林体験などはしていないため、自分の直感を信じるしかなかった。ただ、自信は全くないけれども。異世界に行くにしろ、黄泉の国に行くにしろ、いきなり自分が別の環境に強制的に移動させられるのは恐怖でしかない。もちろん、読むのは非常に楽しい。


 ゆっくりと大きな木の根元に注意しながら歩く。少し明るいとはいえ下をよく見なければ躓いてしまう。しかも靴も履いていないので石などには気を付けなくていけない。根も土から隆起するほど成長しており歩くのも難しい。また、根には苔が生えている部分があり人通りが少ないことがよくわかる。運がいいのは土の粒がかなり細かいことである。素足で歩けばすぐに怪我をするはずだが、この土ならばそう怪我はしないだろう。

幹に苔が全く生えていないのに根に苔が生える理由がわからなかった。しかし、この木の感触は異質なものだ。普通、木は表面が固い。ここら辺の木は表面が加工したゴムのような感触である。自分が手を置き、軽く力を入れると少し凹み、時間が立つと元通りになる。よく見ると色は青のようだ。あくまで、うっすらと見える範囲ではある。明るい場所で見たら幻想的で綺麗かもしれないが、今は気色が悪すぎる。幻想的な風景は行き過ぎるとホラーになってしまう。極めつけには木の中から心臓の音が聞こえてくる。昔、テレビで見た番組では木の鼓動が聞こえることがあると言っていたが、これはそれを軽く超えているような気がする。まさに木の息吹ということができるだろうが、今にも気が動きだしそうで違う恐怖に駆られてしまう。本来なら耳を澄ませば聞こえる程度だろう。まさか、手を置いたら鼓動が聞こえることはないはずだ。考え出すとますます気味が悪いが、少しずつ前へと進んでいく。


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