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ラスト・ボス ~囚われの探索者は今日も脱走する~  作者: 浮谷柳太
第三章 地上を結ぶ道は狭く
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第12話 その心は深く暗く

前半だけ地上の話です。

メインはあくまでノストたちなので、別に名前を覚える必要はありません。

 その日、いつか恐れたことが現実となった。


 迷宮<黄金墳墓>を踏破したパーティ『墓荒らし』が次の狩場に<地底闇>を選んでからわずか8日にして最高到達階層を一つ押し上げたのだ。


 長くその地で探索者たちを引っ張って来たパーティ『潜行者』にとっては堪ったものではなく、そのプライドはずたずたに引き裂かれていた。


「なんでだよ! 俺たちが今までやって来たことは何だったんだ!」


 たった半年前には28層を攻略したことで祝勝会を開き、次の29層に向けて活力を漲らせていたのに、今では誰も皆暗い顔をしている。


 怒りを顕わにしているのは彼らが誇るエースのドランド。

 周囲が怯えるほどの怒気を隠すことなく撒き散らしている。


 しかしそれを咎めるべきリーダーのツヴァイは何も口にはしなかった。


「仕方のないことだ。『墓荒らし』は迷宮の完全な攻略を第一に置いている。各階層を詳しく調べて回ることも、金になる物を見つけて売りに戻ることもしないのだから、進みが早いのは当然と言える」

「それができるのは潤沢な資金があるからだけどね」


 クリストファーとフラウは先輩らしく、ライバルの快進撃の理由を分析する。

 それで分かったのはどうしようもない差が初めから存在したということだけだが。


 何といっても『墓荒らし』は迷宮を踏破したことで莫大な報奨を与えられている。

 今さらせこせこと迷宮を駆け回って資金繰りに励む必要はないのだ。


「それに、あの厭らしいまでに全身をぎらぎらと飾っているアクセサリーの数々はすべて迷宮産の物ですね。自分たちで探し出したのではなく、<黄金墳墓>で従えた管理者に作らせたものでしょう。あれほど過剰に武装を固められてはどうしようもないと言いますか、もはやすがすがしいと言いますか」

「趣味は悪いけどね」


 後輩組のライラ、オルオ姉弟は悔しさよりも諦めが先立っていた。

 まだまだ経験が浅い分、トップの探索者たちとの差が大きく感じられるのだろう。


「それなら俺たちも攻略重視でやろうぜ! あとから来たくせに抜かされるなんて許せねぇ! なあ、リーダー」

「待ってくださいドランド先輩。そんな簡単になんていきません。そんなことをしてもし誰かが大怪我でもすれば、攻略どころではなくなるんですよ?」

「じゃあ黙って見てろっていうのかよ!」


 積極的に競おうというドランドに対し、ライラは慎重な構えを見せる。

 どちらも譲る様子はなく、激しく口論し合っている。


 そこに口を挟んだのは弟のオルオだった。


「姉ちゃん。僕のことは気にしないで」

「オルオ!? 何を……」

「パーティが攻略重視になったらポーターで実力のない僕はお荷物だ。そうなったら大人しく地上で待ってるから」

「何言ってるの! そんなこと、そんなことって……!」

「属性を持たない僕が28層初攻略パーティの一人になれたんだ。十分なものをもらったよ。だからツヴァイさん、僕のことは気にせず決めてください」


 姉の言葉を押し切り、弟はリーダーにそう頼んだ。


「僕は……」


 ツヴァイは逡巡した様子を見せる。

 これは難しい問題だった。危険を承知で栄誉を求めるのか、栄誉は諦めてこれまで通りにやるのか。

 諦めるということは彼らがこれまで積み重ねてきたものを全て明け渡してしまうということ。それでドランドがモチベーションをなくして離脱でもすれば、パーティは半ば終わりだ。


「ツヴァイ。今決めずとも、一度持ち帰って考えてもいいだろう。そう簡単に決められることではない」

「私たちも相談に乗るわ」


 後輩たちに寄せられる様々の視線に口ごもるリーダーを心配して先輩二人がそう提案する。


 それでもツヴァイは苦悩に歪んだ表情で口を開く。


「……僕は」






 ♢ ♢ ♢






「は、はぁ? どういうことだよ。なんで29層が……」


<地底闇>最終第50層の迷宮核の部屋で、ノストはアンからその事実を聞いていた。


「お前、前に突破されるまでに1年半かかるって言ってただろ。まだそんな経ってないだろうが」

「それは、ノストの知り合いの6人だったらという話。今回突破したのは、まったく別のパーティ。ノストの言っていた、大鎌の人がいる……」

「あいつらか!」


 その姿は脳裏にありありと再生することができた。


 アクセサリーだらけの不気味な5人。

 特に大鎌を持った男は突出して目立っていた。見た目的にも、戦い方的にも。


「あの成金っぽいやつらが来たのはついこの前だろ。なんでもうそんなことができるんだよ?」

「単純な強さ。経験。そして装備。あの人たちの身に着けている物はすべて迷宮で作られた特殊なものだった」

「迷宮でって、あの量をどうやって集めて……いや」


 あれらにすべて魔法的な機能が込められているのであれば、死神集団に対する評価は一変する。


 ただ強いだけではない。力のある探索者がさらに全身を過剰なまでに武装しているのだ。

 結果を出さないわけがない。


 そして光源を生む、防御壁を張るなど特別な効果をもつ希少な道具を多く産する迷宮をノストは知っていた。


「攻略されたのは<黄金墳墓>。あいつらはそれをやったパーティなのか?」


 希少な道具とて生産者を捕らえてしまえばたくさん作らせることができる。そして未踏破迷宮の一つである<黄金墳墓>は、特に戦闘や日常生活に役立つ魔法のアイテムを多く産出することで有名だった。


 最近異様に新規探索者が増加していることに加え、突然あれほどの量を持った集団が現れれば、それしか考えられる答えは思いつかない。


「そうなんだ」

「なに呑気なこと言ってんだよ! あいつら本気でここを攻略しに来てんだぞ!」


 事ここに至ってまだそんな反応しか示さないアンを見てノストはひどく苛立つ。


 何か対応策を考えなければ。そう悩む彼を余所に、少女はすっと脇を通り抜けて行った。


「すぐご飯にする」

「あ、おい!」


 置いて行かれたノストはただ悄然と立ち尽くすのみ。


「なんなんだよ……」









 その後も死神たちの進撃は続いた。


 第30層をたった3日で攻略。

 反則的なことに、なんと彼らはどうやら下に続く階段を探す道具を持っているらしい。


 さらに遅れてツヴァイらも第30層に到達。

 彼らは徹底的に死神たちと競う構えのようだ。


 さすがに深層に近づいていくほどに上がっていく難易度には手を焼き始め、最初ほどの爆発力は薄れていった。


 それでもアンやノストの予想を大きく上回るほどの速さで31層、32層と突破されていった。


 それと同時に、第50層の二人の関係にも変化が現れ始める。


「あいつ、今日もまた来ないのかよ」


 ノストが脱走をしても、アンは転移して追いかけては来なくなったのだ。


 いつも上の空で、あの趣味の悪い死神集団を見ている。

 管理者としては彼らの監視は大切なことだろう。迷宮が生まれて以来の未曽有の危機に立たされているわけであり、無視していい存在ではない。


 しかしそれに反比例するように、アンはノストのことに興味を示さなくなっていった。


 今日だってもう夕食の時間なのに、彼女はノストに脱走を許したままだった。


 第45層に行く機会も増え、少しずつ攻略に光明を見出し始めているのだ。

 それなのにこのことを話してもアンは上の空。考えているのはいつも死神集団のことばかり。


「ふざけやがって。もう俺のことは用なしってわけかよ」


 そう憤るのも無理がない。

 今まで散々彼のことを縛って捕らえておいたのに、他に面白いものが見つかっらあっさりと捨てるのだ。ノストとしては納得のいくことではない。


 その怒りは迷宮の攻略に向けられた。

 せいぜいかつての知己と合流でもして、深層の情報を流してやる。そうして彼らとともに探索者として迷宮を踏破するのだ。


 自分を侮って放置したことを後で後悔すればいい。

 彼女が夢中の死神集団を抜き去って、お前の心臓を奪い取ってやる。


 そのことだけがノストを突き動かしていた。

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