第三十五話「シエルside:パーティ」
「シエル様、そろそろ準備を始めませんと。」
私の名はシエル・ルーベンス。
現在王城にて再開される王家主催の毎年恒例行事に参加するためアルファス王都にきています。
そして、こちらの方は王城のメイドをしている方になります。
「ええ、わかったわ。
行きましょう。」
パーティは本日の夕刻より開会なのでそろそろ準備をしないといけません...
正直めんどうです。
なぜか?それは、貴族の宿命...跡継ぎ問題があるのです。
「シエル様こちらにお願いします。」
あら、メイドさんが呼んでいますね。
めんどうでも、行かなければなりません。
「こちらが今回のお召し物になります。」
「では、先に着替えます。」
王家の主催と言うこともありドレスなどの着衣は豊富で毎回高価な物を用意してくれる。
...まあ、私が辺境伯の娘だからなのだけど、そのお陰で多生のめんどうはどうとでもなりますが。
実は辺境伯とは特殊な貴族で国の境界に領土を構える。
普通の辺境であれば、貴族に領土を任せれば良いが、これが魔境の森が近くに有り、更に中の悪い国の境界にもなっているのだ。
そんな場所の領地を任せられる辺境伯と言う貴族は独自の軍を持つことが許されている。
そして、攻撃を受けた際は反撃の権限も持っているのが辺境伯と言う地位なのだ。
その為、私を口説くにはそれ相応の覚悟と実力が無いといけない。
まあ、様々な理由から助かっているのは事実なのよね。
「シエル様、出来ましたよ?」
「ええ、少し考え事をしてしまっていたわ。」
「大丈夫ですか?立場上仕方のないとは思いますが...」
今日会ったばかりのメイドに心配されるなんて...そんなに疲れた顔をしてるのかな。
「大丈夫よ。ありがとう...
パーティの開始までどのくらい時間があるのかしら?」
「そうですね。開始はあと1時間程後になりますが、挨拶や立場などを含めると30分後の入場でよろしいかと思います。」
「そう?なら、少しゆっくりとしてから会場に入ることにしますわ。」
「畏まりました。
では、時間になりましたらお迎えに上がりますので、失礼します。」
メイドはシエルの部屋を後にした。
...薄い笑みを浮かべて。
「はぁ~。
やっと1人になれた~...。
なんだか最近は嫌な予感がずっとするのよね。」
そんな最近の事を思い返してみても思い当たる節は無く、思い過ごしだと思う他なかった。
...何かあっても私に勝てるような奴はどうせ居ないし...
シエルは短い休息を紅茶と共に過ごし、いつの間にか寝てしまった。
シエルは夢を見た。
ある日、暗い場所で1人...何もないところに入れられて過ごす夢。
何日も食事を与えられているだけ...
出ようにも魔法も使えない。
そんな状態が続いた。
ある日、変化が起きた...通路の奥から悲鳴が聞こえた。
沢山の悲鳴だ。
そして、悲鳴の後には再び静かになる。
何が起きているのかわからない...
確かめようにも何も出来なかった。
次第に精神がおかしくなっていった。
暗闇に支配されていくような...
そこで、目が覚めた。
「...っ。なんだったの?今の...。」
酷い悪夢に魘されていたシエルは部屋をノックする音に思考を引き戻された。
「シエル様。
失礼します。そろそろお時間になります。」
シエルは迎えに来たメイドの言葉を聞いて視線を部屋に備え付けてある時計へと向けた。
「そう。
もうそんな時間なのね...。
行きましょうか。」
「はい。
では、案内をさせて頂きます。
こちらへ。」
メイドの案内に従い、パーティ会場へと足を運んだ。
パーティ会場には既に貴族同士の挨拶と言う名の売り込みが始まっていた。
貴族は上下関係が出やすいもので上級貴族に気に入られるほど貴族社会では有利に働く場合がある。
勿論、何かしらの功績の結果で上に上がるものもいるが、それは極一部のものたちだけだ。
それが、上級貴族なら尚更少ない。
その為、下級貴族たちは誰よりも早く会場に入りより良い場所を取る。
上級貴族に挨拶等の売り込みや自分の娘や息子の結婚相手を探すために交流を取り合う。
そして、シエルもまた挨拶の対象なのだった。
「シエル!元気そうだな。」
シエルに気がついた男性が話しかけてきた。
「こんばんは!
シュリット公、お元気そうで何よりです。」
この男性、リドル・シュリット。
この国の大公を任せられている人物である。
「ああ、バルトはやっぱり来てないか。」
「はい。
4年前より魔境の森の魔物の活動も活発なので...今回も私が1人で来ています。」
普通であれば辺境伯でも、パーティには参加する必要があるが、辺境伯のみの特権で危険があると判断した場合、欠席を許可されている。
「そうか、まあ余り楽しむ余裕は無いかも知れないがせっかく来たんだから、ゆっくりしていきなさい。」
「はい。
ありがとうございます。シュリット公。」
そのまま、背を向けて歩いて行ってしまった。
...大公が居てくれれば誰も話しかけて来れないのに。
シエルの思いも通じず、大公が離れた事をきっかけに話しかけてきた。
そして、下級貴族をのらりくらりと交わして行くと待ち受けているのは上級貴族だった。
「...あぁ~...もう疲れた。」
「ごきげんよう。」
上級貴族の挨拶が終わったのはあれから約1時間程度たった頃だった。
...上級の皆様を交わすのは失礼だし...
シエルは端に移動して一息就いていた時、正面より近衛兵が数人入ってきた。
王家の入場だ...周りの者たちは膝をつき頭を下げた。
「王家の入場!」
先頭に現王のドラン・アルファス。
続いて王妃のミリア・アルファス。
そして、王子や王女が入ってきた。
ご子息の紹介は、機械があれば話すことにする。
王家はそのまま壇上へと上がり挨拶を行った。
「本日は良く集まってくれた。
皆、存分に楽しんでくれ!」
王の挨拶が終わると上級貴族から王の前に並び始め挨拶を始めた。
...私も行かないといけないわね。
一応シエルも上級貴族、辺境伯のご息女なので最初の方に並ばなければいけない。
そして、皆が挨拶をしていく中裏で動くものが居たのだった...
どうも、皆様、柊☆黐です。
今回もお読み頂きありがとうございます。
今回から少しだけシエルsideのお話になりますが、お付き合い頂ければと思います。
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それでは、次回第三十六話「暗躍」でお会いしましょう♪




