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世界だけでなく、私も大切にしてくださいね?

ゲーム発売日。

それは多くのゲームプレイヤーの心をときめかせる魔法の言葉。

日付が変わる前に、販売店で並んだり、事前ダウンロードを行い、日付が変わると同時にゲームスタートのボタンを押す。

ただ、それだけのことをしただけなのに。

高校生桜庭光一が目を覚ますとそこはどう見てもクライマックスステージ。

そしていきなり聞こえる声はRPGのラスボスのセリフで有名なあの台詞!

夢から早く覚めたいがあまり、過去のゲームプレイの経験から今までにない選択肢を選んだらとんでもないことに。

世界の半分をお前にやろう」


意識を取り戻してすぐ耳に届いた言葉がそれだった。

随分とおどろおどろしい、まるで熟練の声優さんが演じる極道キャラのような声だ。

今日発売の新作ゲームがプレイできるということを楽しむために、

日付の変わった途端事前ダウンロードをしていたゲームの開始ボタンを押しただけなのだが。

ボタンを押してすぐ、ゲーム機がショートしたような音がしたことだけは覚えている。

このタイミングで壊れたのかと思った矢先に意識を失い、そして取り戻した先に広がる

光景は全く見慣れない景色だった。


その景色は空のポテトチップスやカップ麺の容器、着崩れた衣類が散らばる見慣れた自身の部屋とは

全く異なっていた。


一言で言うならば、西洋のお城、それも中世に建造されたお城でよくRPGでは

ボスの居城に使われるような意匠だ。

窓もあるようだが、その窓の向こうは厚い雲に覆われているようで、時折光る稲光

が部屋を明るく照らすだけここがどこかわからない。

「悪い夢でも見てるのか? 覚めてくれないと、ゲームができないじゃないか。

シリーズもの30周年で次世代描画エンジンでできたRPGだから早く覚めないと…」

そう思い、立ち上がったときだった。

「貴様! この我の問に応えぬとは何事だ!」

先程の声が空間に響き渡る。

だが、振り向くことはしようとは思わなかった。

RPGゲームを8ビットゲームから、最新機器まで網羅してきた彼、桜庭光一にはこの選択

がどういうことを意味するかわかっているからだ。

(それにしたって、いくら夢でももっとボスポジションのやつにはまともなセリフを言わせようと

思わなかったのかね。自分の夢ながらセンスのなさにため息が出そうだ)

声の主の善悪は分からない。

だが、最初からどのような世界かもわからないのに「半分」をやろうという言葉を使う時点で引っかかる人間はほぼいまい。

いるとすればまだゲームに触れたことがない赤ん坊や子供くらいだろう。

少なくとも高校生の光一にはそれがどういう事を意味しているのかはわかりきっていた。

時間が経てば夢から覚めるだろうとは思い、あたりを見渡し続けるが、一切覚める気配はない。

その間もずっと遠くから俺に世界の半分を渡そうとする声が聞こえづつけるが、無視を決め込んだ。

「せっかく睡眠時間調整したのに無駄になるじゃないか。もし、この夢がゲームならば、

さっきからうるさいこれに答えないと進まない、か?」

質問に答えないことが答えになる、というゲームのプレイ経験からその可能性も

想定したが、それはどうやら見当はずれであることは夢から覚めることができないことが証明していた。

「となると、返事してみるしかないか… おい! さっきの質問に答えてやるよ!」

どこにいるともわからない声の主に彼は怒鳴りかける。

「え、あ、よかった、私の声聞こえていたんだぁ…」

先程のおどろおどろしい声とは正反対の、現実世界ならその声だけでそのクールの人気アニメ

ヒロインになれそうな声が聞こえたような気がするが、気のせいだろう。

こんなボスがいるような城のマップにそんな声は合わない。

そういう声が合うのは大体始まりの村や街で偶然主人公と幼馴染で、重大な秘密を持っているヒロインの役目だ。


間違っても、物語の終盤に来るような、この場所ではない。

(あるとすれば、プレイヤーを誘惑、騙すためか?)

以前やったゲームで助けたお姫様に誘惑され、乗り気になった途端ボスバトルが始まったものが

あることを思い出した。

その時は、ゲーム経験も浅かったせいでろくに回復もせずにボスバトルに突入、全滅してしまいお姫様

を救出するところまで巻き戻された苦い思い出だ。

だが、あれから得た経験で相手からの誘いをむしろ利用することで有用な情報を得ようと俺は思いついた。

「質問に答えれないから惑すつもりか?」

挑発するように声の主に先程以上に強く光一は怒鳴かける。

威圧目的、ではないがここで少しでも相手に弱みを握られてしまうと、主導権を握られてしまうからだ。

「ようやく我が問いかけに答える気になったか。さぁ、聞かせてもらおうか、貴様の答えを!」

意趣返のつもりだろうか?

光一の問いかけに対して、咳払いが聞こえた後、最初に聞いた声以上に威圧的な声が俺の耳に届く。

やはり、先程の少女の声は作り物だったらしい。

危ないところだった、と光一は胸を撫で下ろす。

声で好きになる、ということは過去に経験はあるが今この状況でなかったらころっと負けていたかもしれない。

だが、ここで過去の勇者達のような言葉を返すつもりはない。

はいを選べば相手の思うがままに操られ、やりたくないことをやらされ続けたところで起きることになるだろう。

かといって、いいえを選べば相手の怒りを買い、戦うことになるだろう。

もしそこで勝つことができれば、すっきりした目覚めになるだろうが、負けでもしたら、特にこれからやル予定のRPGゲームをやる前に負けるという最悪なゲームスタートになってしまう。

しかし、それはゲームで用意されていた選択肢を選んでしまったからだ。

今自分にはその選択肢は表示されていない。


 だからこそ、光一は過去の勇者達が選ばなかった言葉を選ぶことにした。

「俺は…」

「そうだ、世界の半分がほしいといえ。そうするだけでよいのだ。そうすれば私は…」

また可愛らしい声質に戻ったが、それに惑わされずに光一は、言葉を紡ぐ。


「お前が欲しい」


「そうか、ほしいか、世界の半分が… ってなんですって?」

声が威圧的な声と少女の声の切り替わりが激しい。

まるで使い慣れていないボイスチェンジャーで遊ぶ子供のようだ。

「だから、ほしいのはお前だって言ったんだよ。どうせはいと答えれば俺はお前の玩具に、いいえって答えれば戦うことになって負けた俺がお前の玩具になるんだろ?

だったら、世界よりもお前をもらえば少なくとも、お前の好き勝手にされない。だからお前がほしい」

夢でよかったと心底思う。

これが現実、まして相手が異性だったりしたらその日の夜は悶絶してベッドの枕にひたすら会心の一撃を与え続けていただろう。

目的もここまでストレートに伝えれるのも夢だから、だろうと光一は納得する。

だが、声の主は光一の想像とは全く異なる反応だった。

「そ、そんなこと言われても、だって、私魔王よ? 魔族よ? 皆から嫌われ者なのよ? そんな私がほしいなんて、嘘、嘘、嘘に決まってる!」

どうやらまだ演技で想像していた答えを出すように誘導しようとしているらしいと光一は感じた。

魔王だとか魔族だとか言っているが、

早くこの夢を切り上げて、電源がつかない状態でいるゲーム機をなんとかして立ち上げ新作をやるのだ。

こんなところでまごまごしていられない。

声の主から主導権を握るために光一は、

「嘘じゃないさ。世界なんてもらっても目の届かないところがある。でもお前は世界ほど大きくない。だからこそ、俺の目の届くところにいさせることができる。世界よりもお前が欲しいに、決まってるだろ」

17年生きてきて、一度も言ったことのない歯の浮くような言葉。

気恥ずかしさで光一はおかしくなってしまいそうだった。

だが、恥ずかしい気持ちを我慢すれば開放されると信じた。

気恥ずかしさは光一だけでなく、声の主も同様だった、

しばらく呻くような、だがその声は男性の声ではなく、少女の声、それも悶絶するような声でこう、告げた。

「わかりました、ううん、わかった。でも私はすぐに貴方のそばに行くことはできない。だから、いつかきっと、貴方のその腕で私を抱きしめてね」

どうやら最悪の展開を免れることができそうな言葉が帰ってきて光一は安堵する。

夢の中で殺されたりなんてしたら夢見が悪いなんていうものではない。

せめていい夢でも見たんだな、と思いながら起きるのがいい気に決まっている。

「じゃ、じゃあこれで…」

夢から覚めることができるのかと聞こうとした時、その声の主から聞いた言葉で光一の顔は曇ることとなる。

「わたし、ミーヤ・アマティ・ナル七世は、私の持つ世界の半分と、私に残された力を異界から来たりしこのものに一生を尽くして捧げることを誓います」

異界から来たりし、という言葉に光一は今自分が置かれている状況が、これが夢ではなく。

覚醒している自分に起きていることだと把握する頃には、全てが動き出してしまっていた。


なにかライトノベル的なもの書いてみたら?

とTwitterとかで言われてきたので、野菜炒めを作っている最中に思いついたネタを書いてみました。

某RPGで前作の子孫はいるのに、仲間になることもなく終わっていたのが勿体無いなぁと小学2年の頃

思っていたことを思い出したので、そこが元ネタです。

 忌憚なきご意見やご感想お待ちしております。

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