1-4 時間は短し走れよ執事
黙々、かつ着実に仕事を進めていく雷。
「へぇー・・・よくできるもんだなァ・・・」
その姿を見て感心したような顔をする敏
「ええまぁ・・・、清掃のバイトやってましたしねえ・・・」
モップがけを行いながら敏に答える。
「バイト?業者さんに許されたのか?」
敏は疑問を投げる。
「まぁこのガタイですし。大人に見られたようっすよーハハハハ」
雷はさも当然のようにその疑問に答え、笑う。
そんな雷を見て敏は思う、
(た、大変な生活だったんだろうな・・・)
「ほら先輩、仕事を始めてくださいよ」
「ああ、うん・・・」
指摘された敏は自分の仕事に戻る。
「いっやー・・・にしてもただっ広い廊下だな・・・」
そう思うのもそのはず、屋敷(?)の大きさに比例して廊下も大きくなり、軽く6Mは超えている。
「それがこんなに長いんだぜェ?もう考えただけで疲れるわ・・・」
モップに顎を乗せて少し休憩する。
しかし、そんなところで一つ声が聞こえた。
「ほらほらそこのサボり。サボってないで早く仕事しようか!」
その声が聞こえた方向に雷は目を向ける。
「え、あー・・・スイマセン。でぇっとー・・・どちらさんですか?」
見るとメイド服を着込んだ少し小柄な、それでも雷よりかは年上と見られる女性が立っていた。
「私?私は礼沢魅衣奈。格好見れば分かるけどメイドだよっ」
魅衣奈と名乗った女性は元気よく答えた。
「ほらほら分かったらしっかり仕事に戻ろう。戻らないとお姉さんが痛い目に会わせるよー?」
「へ?でも・・・」
「ん?」
「俺のこの服、見ても何か疑問に思わないんですか?」
現在雷はまだ執事服を貰っていず、学生服を着ている。
この屋敷(?)内で学生服を着ている少年が黙々と掃除をしているなどというシチュエーションはありえないだろう。
「あ、確かにおかしい!するとー・・・不審者?」
魅衣菜はとんでもない単語を発する。
「いやっ違っ・・・」
「不審者だ!ここに不審者がぁ!」
「誤解されるようなこと言わないでくださいィ!」
雷に叫ばれ不審者だと騒ぐのをやめる。
「じゃぁ・・・」
魅衣奈はこめかみを押さえて考え込む。
「ええっとじゃあ・・・あ、今日入ったっていう新入りの近衛執事かな?」
「そうです」
「あーなるほどねえー、道理で執事服をもらってないわけかー」
「はい」
「あはは、ごっめんねー。不審者扱いしちゃって」
「い、いえいえ・・・」
雷はこう答えるも額には汗を垂らしている。
「それじゃっ仕事に戻ろうかっ。またサボってたらお姉さんが痛い目に会わせてあげるよー?」
「き、気をつけてきます」
この人の痛い目は底が知れないだろうなと勘付いた雷はセオリー通りの行動に移る。
「うし、次は備品の整理か」
第一ミッション廊下掃除を終えた雷は次のミッション備品整理へと移る。
しかしこの岩崎家、廊下もそうだったように備品の量も半端ではない。
肖像画から手の込んだち机、古めかしい銀食器やなにやらよく分からない分厚い書物などなど様々な備品が置かれている。
「ん〜・・・これはまた大変な作業になりそうだ」
備品の整理といっても別にその物をどこが正しいに移動させるだけではなく、何か欠落している部分があるのか見回ることも含まれている。
そのため、量が多い上大変な作業になるというわけである。故にこの備品整理ですら複数多数の執事や業者で行うようにしている。
「おー雷、ちょっとこっちへ来てくれー」
敏が雷を呼ぶ。なにやら重たい机を運ぶようだ。
「これは見るからに重たそうっすね・・・」
「ああ、とりあえずそっちを持ち上げてくれ」
「はい、分かりました・・・んっ!」
雷は敏が指差したところを持ち上げ、運んでゆく。
敏が道先案内をしながら運んでいき、雷がそれにしたがって運んでいく。
「よぅし。ここまでだ、ゆっくり降ろしてくれー」
「はーい」
降ろしたところで雷は敏に問いかける。
「そういや俺の執事服はどうなるんですか?いつ届きますか?」
「んーそうさなぁ・・・、オレが考えるとー・・・明日には届くんじゃないのか?」
「早いっすね」
「まーな、岩崎家が持っている工場の一部を使わせて頂いて、そこで執事服を作っているからな。他にも通常の衣類とか生活用品とかはその工場で作っている」
「へー・・・」
「工場員の中にはバイトや雇われの方もいるが、正規の工場員もいらっしゃる。執事服とかを使う時は感謝しながら使うんだぞ」
「心に決めときます」
「ちなみに正規の工場員の方には岩崎家と仲の良い・・・正式には白夢お嬢様と仲の良い方もいらっしゃる。時々この屋敷にも出入りする」
「なんかあいつって顔が広いんですか?」
「んまーそうだな。白夢お嬢様はお心が広い方であるから」
「そんなもんっすかね」
「そんなもんだよ。さ、仕事に戻るぞー」
「へーい」
「ふー、ようやく片付いたかなぁ」
第二ミッションクリア。そして次の仕事に取り掛かろうとする。
「ようし。では休憩に入りまーす」
だがそこで敏が休憩の合図を出す。
「ん、休憩か。・・・あれ?俺何すればいいんだろ?」
休憩時に何をすればいいのか、それを考える雷。
と、そこで肩にぽんっと手が置かれる。
振り向くと、雷の肩に手を置いている敏と、その横に立っている魅衣奈がいた。
「今日はオレの同僚の魅衣奈とオレがお前の世話をすることになっている。 でもまあ今日に限ったことじゃない、というか毎日だな」
「はろーん♪また会ったねー」
「なんだ知り合いなのか」
「いえ、掃除の時に会っただけです」
「そーそー、じゃあ二人とも行こっか」
「「うぃーっす」」
二人が声を合わせる。
「・・・ってどこにですか?」
雷が問いかける。
「そうだな、まずはこの屋敷の外に出てみるか?」
「外ですか、分かりました」
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屋敷の廊下を歩きながら外へ出る三人。
一歩外へ踏み出すと意外な光景が見えた。
「えっとー・・・これはどういうドッキリで?」
「何がドッキリだ、これが屋敷の外だぞ」
「そーだよー♪」
「いやいやいやいや・・・なんであの屋敷の外が・・・」
雷は少し息を吸い込み、
「なんで屋敷の外に神社があるんですかァァァァァ!?」
雷は一番の疑問を声に出す。
それもそのはず、屋敷を外に出てすぐに所に普通の神社とは比べ物にならないくらいの神社が建っているのだ。
「そりゃここが神社だからだろ」
「そーそー」
「ちょっと待ってくださいっ?あのシャンデリアやらベッドがある屋敷の外に何で神社なんですか!?」
「いや普通だろ」
「普通だよっ」
「違うでしょう!?ここは日本でしょう?イッツアジャパン!その日本の神社をもつ屋敷がなんでシャンデリアなんかがあるんですか!?」
「そりゃあお前ぇ・・・」
「これが普通なんだよー、お金持ちの神主さんは屋敷と神社は別っていうことなの」
「え?じゃあひょっとすると白夢は・・・」
「そ、この神社の巫女さん」
「えぇぇぇぇぇええ!?」
「元々岩崎家は伝統ある神教の家系で、そして副業として色んなところに手を着け始めたんだ。んで多くの財産が手に入り、屋敷を建てたわけだ」
「これも結構昔の話なんだよー、どれくらい前だったかなー」
「覚えてるか?」
「ううん、敏は?」
「オレも覚えてねえ」
「二人の世界に入らないでくださいッ!と、ともかく・・・ここは神社なんですね?」
「さっきから」
「そういってるじゃーん♪」
「そ、そうっすか・・・」
「分かれば」
「いいんだよっ」
「おっとそろそろ時間だな・・・戻るか」
「はーい♪」
「はい」
―――休憩が終わり、第三ミッション朝食の手伝いに入ろうとしていた・・・
「さっきからミッションミッションうるさいんすけど!?」
「気にしたら」
「負けだよっ」