1-3 先輩って呼ばれると妙に嬉しくなるよね
「すまん、もう一度言ってくれ」
「ああっ!まだOP終わってないだろう!」
「だからそんなんねぇっつーの!」
「分かった分かった・・・で、何を復唱してほしいんだ?」
雷は溜息をつきながら問う。
「俺が・・・なんだって?」
「近衛執事」
「そう・・・それ、近衛執事だ」
「それがどうかしたのか?」
白夢はさも同然のような顔つきで答える。
「なんだそりゃ・・・?」
「知らないのか? ・・・まー無理もないか」
白夢は近くの椅子に腰掛ける。
「説明してもらいたいのか?」
「もちろんだ」
「んーそうだなぁ・・・簡単に言うと、『主に仕え絶対永久を誓い、主の友人関係を持つ執事』みたいな感じだろうか」
「・・・よく分からん」
「つまり私が死ぬまで仕える執事・・・かな」
「友人関係ってのは?」
「まあ要約すると、私の暇潰し相手といったところか」
「・・・とりあえずは分かった」
「ほぅ?」
「でも俺がそんな執事になると思うか?普通の人間なら絶対に思えないぞ?」
雷は続けて言う。
「だってそうだろ?得体も知れねぇ女に死ぬまで仕えるなんて常人じゃはいそうですか、って言うわけないだろう?」
「ああ、そうだな」
「じゃあなんで・・・」
「お前が常人ではないと判断したからだ」
「はぁ!?」
雷は驚いた声をあげる。
「その175cmはある身長、私を助けた時の戦い方、そして・・・」
「そして・・・?」
「平日の下校時間に荷物も持たずまるでニートのように街をぶらつくその行動、明らかに何かしらの事情があると見た!」
「うるせぇよ!」
「・・・まぁそれなりの事情はあるんだろう?」
「まぁ・・・な」
「何かあったのか?」
「・・・」
雷は口ごもる。話したくないと言う意思表示も含めて。
白夢も雷が話したくないということに気づく。
「・・・話したくないのなら余計な詮索はしない」
「・・・どーも」
「本題に戻すぞ?」
「分かった」
「もう一度聞く、お前は私の近衛執事をやってくれるか?」
「・・・」
雷は頭を押さえ考え込む。
こんな女に仕えていいのか・・・?仕えてどうなるっつーんだよ・・・?
はい仕えました、さー問題です。俺はどう変わった?
・・・へ?ちょっと待てよ?
雷は少女の言葉を思い出す。
『主に絶対永久を誓い』
そう・・・これだ、これだよ!
つまりこれは、『近衛執事の一生を保障する』ってことじゃねぇのか?
・・・面白ぇ・・・
退屈していた日々が無くなりそうだぜ・・・。
「・・・分かった!その話乗ったぜ!」
「・・・へ?」
「え・・・?」
白夢がきょとんとした顔になっている。
「まさか本当に仕えてくれるとは・・・ますます気に入ったぞ!」
「ちょっと待てやァ!なんだ?仕えてくれるとは思っていなかったのか?」
「当然だろう。こんな話に乗るやつは馬鹿しかいない」
「てんめェェェェェ!」
「ハッハッハハ!私も退屈している日々が無くなりそうだ!」
「コノヤロオォォ!絶対に死んだ顔を拝んでやる!絶対にィ!」
「ハハハハハハハ!」
「笑うなあ!」
―――そしてこの少年の大変な生活が始まる・・・
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「で・・・具体的にどんな仕事をすればいいんだ?」
言い合いを終えた二人は仕事の話に入る。
「んー・・・そうだなぁ・・・」
白夢はどこからか本を取り出し
「まずは屋敷内の廊下掃除、備品の整理に朝食調理の手伝い、各部屋の掃除、・・・まぁ家事的なことをする」
「・・・常人じゃクリアできない仕事だろこれ・・・」
「まあそうだな、そして空いた時間は私の暇潰し相手、これが休日の予定かな」
「あれ?平日はどうなるんだ?」
「早朝の予定を済ませたら登校だぞ?」
「と、登校!?」
「ああ、そうだが」
「お、俺も学校に行けるのか!?」
「もちろんだ、既に入学手続きは済ませてある」
「本当かよ!?」
「ああ、マジだ」
「くー!嬉しいぜェ!」
雷は体全体で歓喜する。
「変な奴だな」
「変な奴で結構だ!」
「フフッ・・・そうか」
「よし!まずは屋敷内の掃除だな!任せとけ!」
雷はすぐに部屋を飛び出そうとする。
「あー待て待て、お前やり方も知らないでできるのか」
「あ、そうだった・・・」
「ちょっとした助っ人を呼んでくる、ちょっと待ってろ」
白夢は携帯電話を取り出す。
「あートッシー?新しく入った近衛執事の助っ人をしてやってくれ・・・うん、頼んだ」
白夢は携帯電話を閉じる。
と同時に部屋の扉が開く。
「お嬢様ぁ、お呼びですかー?」
見ると燕尾服を着た青年が一人、立っていた。
「おートッシー!速かったなー」
「そのトッシーというのをやめてくださいといつも言っているでしょう?」
「すまんすまん・・・癖なのだ」
「今後気をつけてくださいよ・・・っと、そして新人というのはどちらですか?」
「そこに立っているではないか」
白夢は雷を指差す。
「あー・・・あまりにもデカイから備品かと思いましたよ・・・」
「・・・デカイは余計だ・・・」
「こいつの名前は・・・あれ?なんだっけ?」
「明坂雷だ!入学手続きしたんなら覚えてろ!」
「あーそうそう雷ぴんだ雷ぴん」
「その呼び方やめろ!」
「ふむ・・・元気な奴ですね」
「だろう?」
「ええ」
「二人だけで話を進めるなー!」
「威勢がいいというべきでしょうか・・・」
「ハッハッハ!とりえず自己紹介をしてやってくれ」
「承知しました」
トッシーと呼ばれた青年は胸を張り、
「オレの名前は凛坂敏だ、白夢お嬢様の執事をしている。今後ともよろしくな、呼び方は先輩と呼んでくれ」
「トッシーは近衛執事じゃなくて普通の執事だ、まあそれでもお前の上司ということには変わりは無い。当分の間トッシーのパートナーという感じになってくれ」
「あれ?そういや俺はお前に敬語じゃなくていいのか?」
雷は白夢を見ながら言う。
「ああ、別に構わない。友達みたいなものだからタメ口でも全然構わない、むしろそうしてほしいくらいだ」
「へぇ・・・」
「あ、でも年功序列は大切にしてくれ。トッシーとは敬語で喋るんだぞ?」
「わ、分かった」
「じゃ、私は二度寝するから。トッシー、後は頼んだぞ」
「分かりました」
「雷も修学旅行みたいにはしゃぐなよ?」
「早く寝ろよ!」
「分かった分かった・・・お休みぃ」
「良い眠りを」
そして白夢は自分の部屋に向かった。
「ふぅ・・・では雷・・・といったか?一緒に行こうか」
「は、はい!」
「いい声だ、オレも気に入った」
「ありがとうございますッス!」
「ようし、んじゃ廊下の掃除をするぞ?」
「はい!」
敏と雷は廊下へと向かっていった・・・
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「まずはおおまかに箒でゴミをとる、その後はモップなんかを使って念入りにやってくれ」
「分かったッス!」
「オレの他にも執事やメイドも居る、分からなくなったらそいつらに聞いてくれ」
敏は笑顔でそう言う。
「ところで俺のほかには近衛執事はいるんですか?」
「いんや、お前一人だ」
「へぇ・・・なんでっすか?」
「近衛執事はついこの間くらいにどこかの金持ちが提案してな、それがここに伝わってきて白夢お嬢様とその父上が大変興味をお持ちになった。そして近衛執事としてお前を雇ったわけだ」
「なるほど・・・」
「それに近衛執事が何人も居てみろ、それこそお嬢様が大変になる。一人がちょうどいいんだ」
「ふぅん・・・ありがとうございます」
「分かったらさっさと仕事につけ」
「はいッ!」
――――20XX年、新しい近衛執事の初めの仕事が始まろうとしていた・・・