2-4 食券戦争は出遅れれば負ける by日本兵
今回は少しだけ地の文の仕様を変えています。
まぁそんなに気にするような変化ではないと思いますのでご安心を。
ホームルームが終了し、一限目の授業が始まろうとしていた。
あらかじめ屋敷で貰っていた教科書を取り出した。
一限目は歴史、高校最初の授業となる。そのことが嬉しく、心を奮わせていた。
「なんや雷。授業がそんなに楽しいんか〜?」
一限目が始まるまで時間があるので、剣樹は話し掛けてきた。
「まぁ…そんなもんかな」
「はっきりせんなー。まあえぇわ」
すると剣樹は黒板の方へと身体を向けた。
自分も授業の準備をするようにしたが
「ぐはぁっ。教科書忘れたぁ!」
不意に、横からの声。白夢である。
教科書がないようでカバンの中を漁っている。
「回答先生に怒られても、知らないよ…」
近くの席に居る水連がそう言った。
「わかっている…。もうグラウンド2週はこりごりだ。いったいどれくらいの距離があるんだと思っているのだろうな」
「基本、のんびり屋なんだけどね。平然とした顔で言われると怖いよ」
「…まぁよい。今からマッハでAクラスに行って借りてくる」
「おいおい…。もう始まっててもおかしくない時間だろ…」
しかしそう言う前に白夢は教室を飛び出していた。
「ま、ああいう奴なんだよ。あいつは」
悠矢が横から解説した。
「ふぅ。疲れた」
「帰ってくるの早ぇ!」
そしてその後すぐに先生が来た。廊下からコツ、コツ…足音がする。
その足音は次第に大きくなって、扉を開ける音と入れ替わった。
先生は教壇の前に立つ。
「うん、皆揃ってるわね。そういえば転校生がいるんだったかな」
先生が周りを見回して、雷の姿を発見した。
「私は回答礼。歴史を教えているわ。今後ともよろしくね」
簡潔な自己紹介を終えると、授業を始めた。
「うぅん。そういえば高等部での授業はこれが始めてかしら?先週は休んでたから」
教科書を開く前に、回答は確認をする。
生徒達は頷いた。
「よし。じゃあ皆に質問するわねー」
「質問…?」
生徒達は首をかしげて回答の口元に集中する。
回答はおもむろに口を開き
「なんで歴史の授業をすると思う?」
こう、発言した。と、同時に生徒達は戸惑う。
「そういえばなんでだ?」「ためになる…からかな?」
生徒達は口を開き各々の意見を述べていく。
「せんせぇー。正解はなんですかぁ?」
少しして、ある生徒がそう言った。
その生徒の発言に回答は少し笑って
「さぁ?自分で考えて見なさい。さ、授業をはじめるよー」
と、さらっと言った。
生徒達は一瞬都惑うも、そこからは追求することなく、手元の教科書とノートに集中した。
時間は飛んで昼休み。食堂に行こうとしたその時
「あ、教科書返すの忘れてた」
横の方の席から、白夢が思い出したように声を出した。
「馬鹿だ。ここに無慈悲な馬鹿が居る」
「えぇい黙れ黙れ。この世界では私が法なのだ」
「あれか、お前はD○7のマリ○ルかなんかなのか」
「あれは石碑探しが本当に面倒。まぁそんなことより返しに行くのに付き合ってくれ」
「まったく…。ここの食堂を楽しみにしてたのに」
仕方なさそうに腰を上げて白夢についていく。
ちなみに雷は今朝に1000円ほどもらっており、昼食の代金として使うようだった。
「地の文が少ないだとか後付設定の嵐だとか言うのはご愛嬌である」
おいっ!俺の台詞と地の文入れ替わってるぞ!
「お前は何を言っているんだ」
「あ、白夢!何で今頃持ってきたの!?」
教室から声がする、白夢の位置からは顔は見えるが雷の位置からでは確認できない。
「いやぁスマンスマン。ほらあれだ。うっかり八兵衛」
「持ってこなかったから回答先生にどやされたんだよっと!それとうっかり八兵衛を汚さないでよっと!」
そこまで聞こえたところで雷はようやく顔を確認することができた。
が、「それ」はあまりにも驚愕的であった。
「………?」
髪の色は黒、顔立ち、体格、全てがあのキャリン・ゴイルの執事である守人駸邪に酷似しているのだ。
たった一つ、こちらは瞳の色が黒い。
「…二重人格?」
「第一声がそれが出てくるお前はすごいと思う」
「ん?…あぁ。もしかして昨日言ってた白夢の近衛執事?」
少年が気づいたように質問した。
白夢はそれに頷く。同じような台詞がその少年に伝わる。
「正直同じ台詞の使いまわしは酷いと思う」
「白夢、何言ってるの?」
「俺もすっげぇ気になったんだが」
「気にすることではない気にすることではない」
そこまで会話すると、その少年は雷に向かって言う。
「俺は守人炯太だよっと。ちなみに驚いているようだけど、駸邪と俺は一卵性双生児の双子なんだよっと。駸邪は俺の弟」
ああなるほど、と右手を受け皿にして握りこぶしの左手をポンと置く。
「実は他にも双子はいてだな。他に燎閃、巌鋼、翠拏、楓琳となんと五人兄弟だ」
「ちょっと待ってよ。六人兄弟だよっと」
「あぁスマン。炯太を忘れていたようだ」
「本人を目の前にしてそれはないと思うよ!?」
「まぁまぁいいではないか。さ、食堂に行こうか」
「なんか上手く丸め込まれた気がするよっと…」
白夢と一緒に食堂に向かう中、げんなりと落胆している炯太を雷は哀れに思っていた。
場は食堂。
購買でパンなどを買っている生徒も居れば、食券で食堂の厨房内で作られたものを買うものも居る。
雷達は後者である。食券を買っていると白夢がいきなり声を上げる。
「おー!しょうやん、今日は購買か」
「俺はしょうやんなんて名前じゃないしょうやんなんて名前じゃない」
「消邪くぅん。気づいてるなら返事してもいいじゃん」
白夢が声をかけた方向を見てみると、二人の男女が購買でパンを買おうとしていた。
少年の方は腰に何かを差している。こちらからでは人ごみに隠れていてよく見えない。執事服も着ている。
少女の方は制服を着ているようだ。
「なんだなんだ。ごはんですよというやつか」
「うるさい…。ネタも分からない…」
「きっとあれだよ。も○やんだよ」
「一向に分からない。いい加減邪魔だ。話しかけるな…」
と言うとパンを買い終えた二人はどこかへ行ってしまった。
歩く速さが速いので、少年が腰に差しているものはまだ確認ができなかった。
「なぁ…あの二人は?」
雷は白夢に問いかける。当然だろう。
「あの愛想の悪い奴は闇業消邪。横に居た誰かさんとは大違いの明るい奴は月光明だ。消邪はお前や剣樹と同じで近衛執事だ」
「となると明もお嬢様ーってやつか」
「まぁそうだな」
「あと、消邪が腰に差してたのはなんだ?」
「あぁあれか?あれは刀だ」
「か、刀ッ!?」
あまりにも平然に、楽観的に語る白夢に驚きを隠せない。
「なんでも、明は立場上狙われやすい奴だからな。守るために武器を所持してるらしい」
「銃刀法違反はどうなr」
「それを言っては駄目だって。実際のところ許可を得ているらしい」
「へ、へぇ…」
食券を買い終えた二人は受付へと持っていく。
しかし、そこで揉めている二人が居た。
「いぃや。このカツ丼は絶対に俺んだ!!」
「あぁぁあん?俺が先におばさんに出したから俺のモンに決まってるだろうが」
「絶対に俺のほうが早かった!」
「俺のだっつってんだろ」
「りょ、燎閃…。そんなに熱くならないほうが…」
「うるさい!こいつが毎度毎度言うことを聞かないからだ!」
「うざってぇ。とりあえずこれは俺んな」
「待てぇっぇええ!」
揉めている二人のほかに小柄な金髪の少年も居た。
揉めている二人の方は、一方は黒髪黒瞳、もう一方は赤髪の少年だ。
どうやらカツ丼の権利を奪い合っているらしい。
赤髪の少年は肩に棒状の何かをかけて持っていた。
そんな状況に白夢は声をかける。
「やあやあ。今日も元気だな、燎閃、そして銀牙」
「あぁん?誰かと思ったら白夢かよ」
「白夢っ!こいつに言ってやれ!」
「は、白夢…。か、関わらないほうがいいよ…」
「心配をするな翠拏。…よし、こうしよう」
白夢は左手の人差し指のみを立たせる。
「ジャンケンでもやっておけ」
「ジャンケンだぁ?ちっ…まぁ仕方ねェか」
「じゃぁ行くぞ!最初はグー…」
燎閃と呼ばれた少年は早々と握り拳を出す。
銀牙もそれにつられて手を出す。
「ジャぁンケぇン…」
「ポン」
燎閃はチョキ、銀牙はグーを出していた。
「ま、負けた…」
「ちっ、時間食っちまった。最初ッからこうしておけばな」
「くっそー…」
銀牙は悠々とカツ丼をおばさんから受け取り、どこかへ行ってしまった。
燎閃はその場でひざまずき、それを翠拏が慰めていた。
「よし。あれは放っておいて昼食でも頂こう」
「身も蓋もないとはこのことか」
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食堂内。
燎閃と銀牙が争っている頃食堂では話が賑わっていた。
そんな中で二人の少女が居た。
「わぁー。伊月のご飯はおいしそうですっ!」
一人は先日白夢の屋敷に無断で遊びに来ていた雹嘉。
もう一方は本屋を営んでいる伊月だ。
雹嘉の手元には十中八九屋敷で作られたと思われる弁当。
伊月には定食だ。
「えぇ。でもこれ…少し危険な匂いがあります…」
「危険な匂い…ですか?」
「ええ。なんでもおばさんの話によると…」
『最近汚染米とかで食べ物の安全が心配だからねぇ〜。おばさんたちも気をつけてるんだよ。ま、あたしの美貌には誰にも汚染されないんだけどさ。ははっうまいこといったわ』
「だとか………」
「ひゃぁ…それは怖いんです!でも最後の方は蛇足だと思うんです!」
「だからこれを食べるにはそれなりの覚悟が必要…。これが最後の晩餐になるかもしれません…」
「今は昼ですけどねっ!怖いです!」
「では…頂きます」
「い、頂きますなんです…」
二人は要らぬ心配を心に恐る恐る昼食をとっていた。
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時はまた飛んで放課後。
そろそろスムーズに時間を進ませたいため無理にでも時間を飛ばそうと必死である。
「またカミングアウトをしている…」
雷の言葉は空しくも誰にも届かなかった。というか聞き入れなかった。
「このまま帰るのもいささかつまらないな。…そうだ、部の方に顔を出してみるか」
「部活ぅ?お前入ってたのか?」
「私は純然たる帰宅部のベテランだ」
「駄目だろそれ」
「キャッチコピーは『俺には帰る家がある。邪魔するものは一刀両断』だ」
「無駄にカッコいいなおい」
「ちなみに消邪も帰宅部だ」
「一刀両断が実現しそうで怖いなオイ」
「まぁこれから行くところは帰宅部ではない。…研究部だ」
『研究部』とでしか聞こえなかったので雷は何のことだか分かっていない。
「へぇ。何の研究部だ?」
「だから…研究部だ」
「だから何の?」
「さっきから言ってるだろう。“研究部”だ」
「…つまり『研究部』という名前の部活?」
「…right。その通り。よく気づいたな」
「誰にも分からないようなネタをするなっ! で、どういった主旨の部活なんだ?」
当然のように雷は質問する。
白夢は「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりに胸を張って言う。
「色んな研究をする部活だ。個人個人が自由にできる。ちなみにキャッチコピーは『人間は研究することを欲し、また求めている!ムフフなことやフヒヒなこともまた然り。自分の欲する研究をしたいものは是非研究部へ!現在生徒会から部費削減宣言宣告中!』」
「駄目だその部活…早くなんとかしないと…」
「ちなみにこのキャッチコピーは私が考えた」
「なんでお前なんだよ!」
「いや何となく…。そんな些細な事は気にせず研究部に向かうぞ」
「…へいへい」
渋々と白夢についていくことにした。
5分ほど歩いて研究部につく。
広大な敷地を持つ零弓でも、部室、部活動の場はけっこう学園本棟に近い。
今、雷と白夢の目の前には研究部の活動の場があった。
けっこうな大きさのあるドームで、扉の上には『C.B』と書かれていた。
「別に外に宇宙船があってそこの中で地球の重力の100倍のところで戦闘民族が訓練していたり、中には外見からは想像できないようなジャングルがあったり、カプセルなんかを作ってなんかはしていないぞ」
「誰もそんな心配なんかしていないっ!」
「ハッハッハ。まぁいいじゃないか。とりあえず入らないとな、手続きを済ませてくる」
「手続きなんかあるのかよ…」
後ろでツッコんでいる雷を気にせずに、白夢は扉の方へ歩いていって手続きを済ませようとする。
「認証メッセージヲ」
扉の近くのスピーカーから電子音がした。
「すんませーん。三河屋でーす」
白夢が某国民的アニメの端役の台詞を言う。
「アァ、スミマセン。今ハンコナインスヨー」
「あー…んじゃサインでいいですー」
「サイン?デハ少シ待ッテイテクダサイ。ペンヲ用意シマス」
「早く済ませてくださいよ、こっちは仕事があるんですから」
「ナ、ナニヨ!!人ノ気モ知ラズニ!!」
「何を言ってるんですか。こっちがお願いしているのに」
「ウルサイウルサイウルサイ!モウ出テ行ッテヨ!」
「…わかりました。では失礼しま…」
「マ、待ッテヨ!…今度チャントシタ届ケ物ニ来ナイト許サナインダカラ…」
「えぇ。分かりました」
「サ、最後ニ」
「はい」
「届ケモノハ…。何ナンデスカ…」
「ええっとそれはですねぇ…」
「僕の心、です」
「…認証メッセージ確認。許可シマス」
その電子音と同時に、扉は近未来的な開き方をした。アバウトだとかいう質問は受け付けない。
白夢はそこまで終えると汗拭いをして
「さ、中に入るぞ」
「何だったんだ…あのくだりは…」