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3章から4章終りまで

 腰のショートソードを素早く抜き、水際で雄牛の構えをとるラグラジ。


謎の半漁人は、威嚇するかのように、先端に真紅の宝石のついた杖を乱暴に振り回す。



いざ、二人が組み合うその刹那、トゥルエンは、馬で風のように疾駆し、二人の間に割って入り、叫ぶ!


漆黒の魔女の沼地で二人を止めるトゥルエン


「まて、まて、まてー!(ドゥドゥドー)そいつは俺の友達だ!」


面食った二人に、さらに続ける。


「剣を収めろ!ラグラジ!」






ラグラジは、納得したという表情で、一度深く頷き、安堵のため息を漏らす。


そして、ゆっくりと剣を鞘に収める。




半漁人も真紅の杖を構えるのをやめ、しかめっ面でトゥルエンに尋ねた。

「誰だい、このヨロイのオトコは。」


「前に話した、俺の腹違いの弟だ。弟を、お前の姿で少し驚かせてやろうと思ったが、こんなことになるとは。死神の肝っ玉の小さいところは、昔のままだったな。はっはっはっ!」




トゥルエンは馬から降り、フグチオを見て微笑みを浮かべ、さらに続ける。


「約束のときは来た。龍の咆哮来る、だ。 とうとう、お前に龍の生ギモを食わせてやれるときがきたんだ。」




「ヤッタ!オイラ、とうとう人間になれるんだね。」




「そうだ。味は保証せんがな。塩・コショウでもかけたほうがいいかもな。とにかく、さあ、善は急げだ。さっそく龍の山へ向かうぞ!」




人間になれる!そう、希望を抱き、感無量の面持ちのフグチオ。


そのうれしそうな表情を横目で見たラグラジは、兜の下で微笑む。


ラグラジは颯爽と馬にまたがる。

そして、ラグラジは、優しい兄が弟に声をかけるかのようにフグチオに言葉をかけた。



「死神の後ろに乗るがいい。魚くん。さっきは・・・まあ、すまなかったな」



フグチオは、嬉しそうに馬の後ろに飛び乗った。


ラグラジの威勢のいい掛け声と共に、馬が駆け出した。



「私はエルルー国所属の誉れ高き騎士、ドラゴンスレイヤー、ラグラジだ。お前はもう少しで、この龍殺しと戦うところだったんだ。運が良かったな。はっはっはっ」


フグチオはラグラジに対して尊敬の念を抱き、眼を輝かせる。


「英雄なんだねー!」


「そうだとも。我が父も戦争の英雄だ。父はエルルー国随一の将軍だ。父上も、そのさらに父上も、当然ながら誉れ高き英雄であった。それに、はるか昔、といっても200年前か。

私の先祖は本物のドラゴンスレイヤーだったようだ。

私には、龍殺しの血がながれている・・・・・・・・。」


「すっごいんだねー!尊敬しちゃうよ」



 ラグラジは延々と、自分と先祖代々の輝かしい経歴についてフグチオに語り続けている。

その様子を横目に、小ばかにした表情のトゥルエン。相変わらず、自慢好きだなと呟く。


3人は街道を数時間進み、今日の野営予定地、ドラゴンの住処の山のふもと付近までたどり着いた。


街道沿いの森の中からは、腹を空かせた狼の遠吠えが風に乗って微かに聞こえる。

冷たい風と共に、夕闇が3人を包もうとしていた。


ラグラジはフグチオに、ドラゴンの事を話し続けていた。


「もちろん、今じゃ、ドラゴンなんて、城の図書館の文献で見るくらいだがな。」


「ラグラジ家の家訓、龍の咆哮、来るでしょ?」


「ああ、龍の再来時には、龍の咆哮が響き渡るといわれている。」


トゥルエンが高笑いしながら、話に割ってはいる。


「ハッハッハッ!もっとも、今じゃ、もっぱら、危険に前もって備えておきなさいって意味で使われているがな。

転ばぬ先の杖と同じ意味だ。

200年前には、本当にドラゴンがいたらしいぞ。

なに、フグチオ、そんな心配そうな顔するなよ。こちらの騎士様の指示通りに行動すれば、ドラゴンの抹殺など容易い事さ。」


心配そうな面持ちのフグチオをよそに、龍などたいしたことが無いと言った明るい表情のトゥルエン。

トゥルエンは馬上から指を指し、大声で二人に伝える。

「お、あれを見ろ!今日の宿が見えたぞ!」


街道の森側に、狩人やきこりのためにつくられた、街道沿いの簡素なレンガ造りの小屋が見えてきた。


小屋の周りは、うっそうと茂った雑草に埋もれている。しかし、扉の前には焚き火用の簡易かまどの後が残っていた。


 

三人は、馬を小屋の近くにつないだ。

トゥルエンは計画通りに事が運んでいるのに安堵し、明るい口調で二人に語りかける。


「さあ、今日はここで夜を越す。いつもの意味での、龍の咆哮来る、だ。 はやくたき火をおこして、干し肉で空腹を満たそう。明日に備えるぞ。」



 あたりは本格的に暗くなり、3人は焚き火を囲むように座った。


塩辛いウサギ肉の干し肉を口に入れ、水筒に入れた川の水を流し込む。たったそれだけの、粗末な食事の時間はすぐに終わった。


「明日は決戦のときだ、早めに眠れ。」


そう食事を終えたトゥルエンとフグチオの二人に言ったラグラジ。二人は頷き、小家の中に入った。


狼や熊といった、野生動物避けの焚き火の隣に座って、一人、ラグラジは物思いにふける。そして長いため息のあと、星を眺めながら呟いた。


「俺は、いったいどこへ行こうとしているのか・・・・・・・。」


ラグラジは、星星がその疑問に応え、自分にこうささやいた気がした。


地獄だよ・・・・・、と。ラグラジは夜空に向かって、フッと微笑んだ。


「ありがとよ。」


だが、死神よ。せめて地獄逝きは俺だけにしてくれないか。あいつは、我が兄は根っからの悪人ではない。ああ、そうだ、今はどうだかわからないが、少年のころは道のダンゴ虫や,アリすら踏まずによけて歩いた男だ。


そうラグラジは星々に心の中だけで念じた。


「さあ、祈りなんて馬鹿なことはやめて、そろそろ寝るか・・・・。」




 ・・・そして静かに夜が明けた。


 



  

雲は空を陰鬱なベールで包み、朝日が輝くのを妨げた。


今にも土砂降りの雨が降りそうな灰色の世界は、ドラゴンがいよいよ竜巻をおこしそうな気配を醸し出していた。


3人は、火の消えた焚き火の前に座っている。ラグラジは、まだ眠い眼をこすっているフグチオに声をかけた。


「竜が巻くと書いて、たつまきだ。歌か御伽噺かの一説にこうある。

ドラゴンのくしゃみが竜巻をおこし世界を切り裂く、とな。

わからんが、このどんよりとした空気、歌が本当のような気もしてきたな」


「そうだね。今日はいよいよ、ドラゴンと戦うんだよね?」


そのフグチオの疑問には、作戦参謀のトゥルエンが応えた。


「そうだ、目立たぬように全員が違う方角から登山を行う。今は頂上に巣を作っているであろうあいつを、ばれないように囲む。

そして、全員がそろったあと3方向から同時に攻撃するのだ。

俺は西から山を登る。ラグラジは北から、死神の微笑みを見せてやれ。

フグチオはこのまま真っ直ぐ南からだ!」



第4章 -龍殺し-


 フグチオは、山の山頂付近のくぼんだドラゴンの巣まできていた。

藪の中に隠れて、ドラゴンを見張る。龍は夜行性なのか、昼間はほぼ眠っていた。攻撃するには絶好の機会だ。しかし、もう日が暮れるというのに、いつまでたっても二人は来なかった。フグチオは曇り空の下、焦燥感に駆られた。


 そんな気持ちのとき、なにやら龍の影から、二人の男の怪しげな話し声が聞こえてきた。


長髪で黒い髪の仮面の男は、まるでオペラの役者かのように下人と話していた。

「これが、お前が召喚したダークエンジェルドラゴンか。

私の心のような漆黒の龍鱗、そして,私が欲している血の色と同じ紅蓮の瞳。」

「はっ、お気に召しましたでしょうか。ヨ・シェーズ公爵様。」

「あと10匹もあれば、城を楽に制圧できたのにな・・・。」

「お戯れを。

この龍は伝説の存在ゆえ、ご存知のことと存じ上げますが、それは出来かねます。」


「わかっておる。悪魔の血と堕天使の血を混ぜ合わせたもので、お前のような高位の召喚士が巨大な魔方陣をかくのだろう。

それを集めるのに、私も大量の時間と金を労したが、とうとうその努力が報われるときが来たのだ!

王立騎士団がこちらに龍討伐に向かった隙をつく。」


「問題は、あのうっとうしい近衛兵たちですが・・・・。」


「問題など何もありはすまい。

私の騎士団が、城に乗り込みエルルー王を暗殺し国をのっとる。そして、キングスレイヤーの二つ名をもつ王になるのだ。これで別嬪の娼婦も舞踏会の貴婦人も、女は選び放題だ・・・・・・・!」

下人は、公爵ともあろう方が、たかだか女にモテたいからってここまでするか? まあ、この変人では仕方が無いのか?という疑問を持ちながらも、調子をあわせた。

「女はみんな、ワルが好きですからな!はっはっはっ! ・・・物音がする、誰だ!?」




 謎の男は、話の途中に、藪の中に誰かが隠れていることに感づいた。


フグチオはラグラジとトゥルエンの話してるのかと思い、藪から手を振り合図を送っていたからだ。


「ダークエンジェルドラゴンよ、見つけ出して始末するのだ!!」




 謎の男に命令された空腹の龍は、鼻をならす。そして、その巨体をゆっくりと持ち上げ、1歩、2歩と大きな地響きを立て歩く。


「こっちにくる・・・・?」


龍の足音は、フグチオが隠れている藪の前で止まる。


そして、それは一瞬だった。


龍の口が開き、龍の鋭利な歯牙がフグチオの身体を貫いた。


情け容赦なく、獅子が小さな得物を屠るが如く骨ごと噛み砕かれ、フグチオは跡形も無く龍の胃の中へ消えた。




 

 

 一方、フグチオが死亡した同時刻。


 ラグラジとトゥルエンは、猟師小屋で朝からずっと酒盛りを行っていた。すっかり出来上がっていたトゥルエンは、冷淡な笑みを浮かべた表情で水筒のワインを呷る






「くっくっ・・・・。あの馬鹿なサカナ、まんまと騙されやがって。あいつが運よく龍に食われてくれたら、あとは龍の鱗でも目玉でも剥ぎ取って、討伐した証拠として王のところへ持っていくだけだな。明日、どうなったか結果を見に行くか」


「あのサカナ、毒をもっているらしいからな。でも、トゥルエン、いや二人だけだし、昔のように兄さんと呼ぶよ。なんであんなサカナを知ってたんだ?」


「懐かしい呼び方だな。我が弟よ。そうさな、昔、お前と一緒に宮殿にいたころだ。俺が魔術、それも召喚術に傾倒していたのを覚えているか? 傾倒していたわりに才能がなくてな、ドラゴンを召喚したつもりが、魔方陣から出てくるのは巨大なダンゴ虫。不死の骸骨戦士の軍団を召喚したと思ったら、出てきたのは巨大ナメクジどもだ。まったくおぞましい見た目のわりには、何の役にも立たないものばかりだったな」


ガハハ、そうだったと昔を懐かしんで笑うラグラジに、トゥルエンも調子がでてきて、話し続ける。


「で、最近のことだ。あの夜、俺は結婚しようとしていた娼婦に振られて、ヘベレケに酔っていてな・・・・。何を思ったのか、小便で地面に魔方陣を書いて、絶世の美女を召喚しようとした。そしたら、なんとあれが出てきた。」




「巨大フグが?」


「そうだ。言葉を話すし、絶世の美女を気持ち悪いからってすぐ殺すのも良心が痛んでな。それに、あいつの毒ギモは、何か役に立つかもと思ってな。魔女の沼地へ連れて行って、それっきりさ。放ったらかしてたんだがな。」


「つまり、兄さん・・・。あれはメスなのか? 釣った魚に餌をあげないこの色男め!はっはっはっ。絶世の美女に乾杯!」


そうして、二人はつぶれるまで呑み続けた。



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