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七恋パラレルワールド  作者: 堀塚 刀夜
『ハッピーバレンタインデーストーリー!』
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バレンタインデーミッション! 【前編】

 ――二月十三日。


 明日から週末。りっくんと二人でいられる時間が増えるのは嬉しい。でも、最近はお互い忙しくしていて、一緒にいる時間は激減している。


 今日もりっくんは、やらなければならない事があると言うので、一抹の寂しさを感じつつ一人、地下校舎にある教室へ向かう。行き交う男子たちの視線が私のある部分に注がれる。でもそれは、いつもの事。気持ち悪さを感じつつも無視して歩いていく。


 私の胸を凝視していいのはりっくんだけ! 他の人に見られるのは嫌!


 私がどんな気持ちを抱いていようと、彼らに伝わる事はないだろう。私は基本的に無表情なのだから。そして、私が笑顔を見せるのはりっくんだけ。


「おはよう、ふうちゃん!」

「おはよう」


 クラスメイトである女の子が私に挨拶をしてくれる。最近ではクラスメイトとよく話すようになった。と言っても、相変わらず私が発する言葉は少ない。昔から信頼している人以外とは極力話さない。それは家にいた頃の修行のせいだと思う。いわゆる職業病。


 でも、クラスメイトを信用していない訳じゃない。ただ、こういう話し方が身についてしまったせいで、必要以上に話す事が億劫に感じるというだけ。だから、この話し方が個人的には楽。これも個性の一つだと思ってくれればと思う。


 席に着くと、そのクラスメイトは私の前の席に座った。彼女の席はそこではないけどね。


「ふうちゃんはさ、バレンタインデー、立花君にチョコを上げるんだよね?」


 と言われた。バレンタインデー? 何それおいしいの? 響きから何となくそう思った。でも、聞き慣れない単語に首を傾げる。こういう仕草をするとりっくんがとても喜んでくれる。彼曰く、可愛い過ぎるとの事。だから、狙ってする時もある。


「もしかして、バレンタインデー知らない?」


 こくり、と頷く私。クラスメイトの女の子は両眼を手で押さえるようにして、天を仰ぐ。また私はやらかしてしまったらしい。りっくんからも世間知らずと言われる事がある。私としては何不自由ないから問題ないと思っている。


「まあ、ふうちゃんだもんね。説明してあげる。バレンタインデーってのは、日本では女の子が男の子にチョコを渡す日なんだよ。チョコを渡して想いを伝える日。日頃の感謝を籠めて渡すのもいいと思うよ」

「そうなんだ」

「他にも、義理チョコってのもあって。バレンタインデーが近付くと、女の子も男の子もチョコの事を考えて、落ち着かなくなる人が多くなるんだ」


 なるほど。そう言えば、ここ一週間。女子も男子もそわそわしていた気がする。人のそういう反応には、敏感だから私もいつも以上に気を張っていたけど、そういう事だったんだ。


 何だか損した気分。


「で、ふうちゃんもバレンタインデーにチョコを上げるの?」

「考えてない」

「え! それはまずいかも……。やっぱり立花君も恋人のふうちゃんからチョコをもらいたいと思っているよ。何よりふうちゃん、立花君とケンカでもした? 最近、一緒にいる姿をあまり見ないけど」

「お互い忙しくて」

 

 私は再編成した【影薊】を率いているし、りっくんはりっくんで白桜(はくおう)市のために色々とやっている。そう言われると、やっぱり二人でいる時間が減っている。彼女に言われて改めて認識する。


「それなら、なおさら! チョコをあげるべきだと思うよ。ふうちゃんが立花君の事、大好き! って気持ちを伝えなきゃ。このまま忙しくて会話がなくなれば……」

「なくなれば?」


 もったいぶった言い方をするので、聞き返す。


「別れるって事になるよ!」

「ふぁっ!」


 勢いよく椅子から立ち上がる。クラスメイトたちの視線が一斉に私に向く。ちょっとした気恥ずかしさを覚えて、静かに着席。


「ああ、ごめんね。今のは極論だったけど、どうなるか分からないじゃない」


 こくり、と私は頷く。りっくんには私以外にも気になっている人はたくさんいる。もし、このまま気持ちが離れてしまえば、可能性は否定できない。


 そこで初めて理解する。自分が今、危機的状況に立たされている事に。


「ふうちゃん、この世の終わりみたいな顔しなくても大丈夫だよ」

「顔に出てた?」

「ううん、雰囲気がそんな感じだった」


 なるほど。そう言えば……りっくんに、はねっ毛――りっくん命名。私の頭の両サイドに、鳥の羽のようにはねているくせっ毛の事――を見れば大体気持ちが分かるって言われた事がある。きっとそのはねっ毛は、力なく垂れているのだろうと思う。


 でも、そのはねっ毛を意識した事はない。


「どうすればいい?」


 もうこの状況を打開するには、私だけではダメだと思う。縋りつくような思いで、彼女に問いかける。――もちろん、声のトーンは抑揚のないものだけど。


「うーん、単純にチョコを上げればいいと思うけど、手作りの方がいいよね……。あっ!」

「思いついた?」

「うんうん! 七恋チョコなんてどうかな?」

「何それ?」


 名前からして怪しいと思うのは私だけではないはず。


「あ、そっか……。でも、これじゃ……」


 何かに気付いたようで、先程の勢いが消えていく。


「――早く教えて」

「うう、ごめんね。実はこれ、都市伝説って程でもないんだけど……。これを食べたカップルは永遠に幸せになれるってチョコなんだ。それで、決まった材料や器具を使う事で完成するんだけど……」

「で?」


 少しいらついてしまった。りっくんとの関係が懸っている以上、出し渋りされるのは我慢できない。


「ふうちゃん、怖いよう……。それで、その材料、器具は合わせて七つあるんだ。だから、七恋チョコって呼ばれているの。必要なものはこの白桜市で全て揃うけど……その詳細が全く分からないんだ」

「そう」


 私がそう言うと、びくりと肩を震わせる。ちょっと怖がらせてしまった。でも、どうしようかな。わざわざ、これを作る必要はないと思う。でも、りっくんに美味しいチョコを食べてもらいたいなと思うし、永遠に幸せになれるって言葉にも惹かれる。


 あまり使っていい手ではないけど、私ならすぐに調べられる。事情を話せば手伝ってくれそう。


「結局、不安を煽るだけになっちゃったね、ごめん……」

「ううん、いいよ。色々教えてくれてありがとう」

「いやいや、私の方こそ、ごめ――ふうちゃん!?」


 怖がらせたお礼として、少し笑って見せる。去年、私を笑わせようとした一人に彼女も入っていたから、これはそれなりのお礼になるんじゃないかなと思う。りっくんも男子でなければ怒らないよね。



***



 ――二月十四日。バレンタインデー当日。


 七恋チョコの事を聞いた私は、早速その情報を集めるために【影薊】を招集した。本来、このような事を手伝ってもらうのは間違いだと分かっている。しかし、私としても明日がバレンタインデーという事で、時間がなかった。幸い、メンバーの大半は元【流星】。


 私とりっくんの間柄についてはよく知っている。もちろん、【影薊】全体が知っている事でもあるけど。


 事情を話すと、二つ返事で承諾してくれた。そして、その日のうちに七恋チョコについての噂話や実体験を集めてきてくれた。


 驚いた事に七恋チョコを完成させたという話はなかった。見つけ出せなかっただけかもしれないけど、【影薊】を使って探し出せないとなると、存在自体が怪しい。


 しかし、持ち寄られた情報を統合してみると、それも納得だった。なぜなら、七恋チョコに必要とされるものは、首を傾げたくなるものばかりだからだ。


 一つ目――カカオハート。


 エレメンタルエリアにあるとされるカカオ。名前からも想像できると思うけど、カカオ豆の形がハートの形をしている。通常のカカオよりも油分を多く含んでいて深い味わいになるのだとか……。――名前安直すぎ。


 二つ目――白輝砂糖。


 剣武エリアの老舗和菓子店が代々受け継いでいるという幻の砂糖。きめ細やかな砂糖の粒は、なんと正七角形の結晶。その奇跡的な形によって美しく輝く事から名付けられたという。そして、その甘さは想像を絶するらしい。――白輝(はっき)なのに、七って……


 三つ目――聖水バター。


 ネーミングセンスがないと思うのは私だけかな? 水鏡エリアで唯一乳牛を飼っているという人が作る極上のバター。名前の通り、懇切丁寧に育てられた牛から出る聖水の如く清らかで美しい生乳から作られるバター。バターのみでも、十分メインを張れる食材らしい。――悪寒が。


 四つ目――七恋鳥の卵。


 七恋鳥というのは正式な名前ではないらしい。七恋鳥の名を与えられるのは、白桜市最強の軍鶏だそうだ。……は? 最強って何。最強なのはりっくんだよ! あ、違うか、軍鶏だね。さて、その最強の軍鶏が産む卵というのが栄養価が抜群に高く、とろけるような美味しさなのだとか。ちなみに調査の結果、その軍鶏は黒天エリアにいると分かっている。――七面鳥……じゅるり。


 五つ目――流れ星ブランデー。


 知る人ぞ知る名酒らしい。これを作るための果実も有名らしい……名前は忘れたけど。グラスに注ぐときらきらと液体が輝く事から、その名前が付いたのだとか。料理に少量使うと、その芳醇な香りが味を引き立てる。これ自体は白桜市以外でも手に入るみたい。でも、本当に希少なもので流通量は少ないそうだ。しかし、流箭エリアであれば簡単に手に入るという情報を得ている。――これが一番まとも。


 六つ目――白桜の花びら。


 白桜市にしかない品種――白桜。その花びらには女神の祈りが籠められているのだとか。これがいわゆる願いが叶う元らしい。食材と言うより飾りかな。これは桜花エリアにある白桜神社にあるから、分けてもらおう。――特になし。


 七つ目――愛の体現者セット。


 名前からして怪しさしか感じない。これは食材ではなく調理器具一式。なぜか知らないけど、この調理器具で作らなければ七恋チョコは完成しないという噂。もちろん、別のものでもできる可能性はある。でも、ここは全てを集めてこそだと思う。言うまでもないけど、愛の体現者セットは代々聖匠学園の生徒が作っているらしい。あの人に聞けば分かるかな。――これで七つ、文句は言わせない。


 以上七つを揃えて完成するのが、七恋チョコ。


 ものとしては、全て最上級のものだと思う。これを集めてりっくんを喜ばせないとね。


「バレンタインデーミッション、開始!」


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