男たちの円卓会議
7000字ぐらいあります。
不毛な会話をしているかもしれません。
それでも読んでみたい方は是非!
――五月五日、白桜市中央エリアの某所。
その部屋は壁・床共に清純な白に彩られ、大きな円卓と七つの椅子のみが置かれているという異質な空間だった。
そこへ各校を代表した七人の男が入ってきて、椅子に腰を下ろした。
男たちの纏う雰囲気は研ぎ澄まされた刃のようで、一触即発の気配が漂っていた。
では、七人の男たちの所属と名前を挙げていこう。
まず、桜花白蘭学園三年、西谷俊。
黒髪で両サイドを刈り上げ、前髪を流している少年だ。
三年という事もあり、彼から自信が感じられる。
次は剣武練成館高校二年、篠崎純平。
これと言って特徴のない平凡な顔つきだが、一目見ただけで好感を持てる少年。
彼はこの緊張感のある場にあって、にへらと笑っている。
三人目は流箭の里二年、立花龍。
逆立った黒髪に中肉中背、整った顔立ちを持つ少年だ。
こちらは余裕たっぷりで他の男たちを見ていた。
四人目は聖匠学園三年、渋沢一真。
野性味溢れる少年で、前髪をその雰囲気に合わせるためかしっかりと上げている。
その鋭い眼光で他の男たちを見つめ、彼は何かを考えているようだ。
五人目は黒天星学院二年、狼谷颯斗。
ワインレッドの短髪の少年だ。
彼は周りの男たちを見ながら熱い闘志を燃やしていた。
六人目は水鏡高校二年、古村総司。
体が大きく、寡黙な少年だ。
固く口を閉ざし、周りの男たちを静かに見つめている。
最後はエレメンタル・アカデミー二年、五色大河。
ストレートヘアにメガネをかけている少年だ。
初めて彼を見れば、メガネのために知的な印象を抱くだろうが、椅子に座っている彼は全くそんな雰囲気を感じさせなかった。
以上七人がこの真っ白な空間に集った男たちの名である。
そして、彼らは一様に四角形の白い紙のようなものを円卓の上に一枚置いた。
それからは目から火花が散っていると錯覚するほどに、七人がにらみ合う。
しばらく、その状態が続いた後に、最年長の一人である一真が口を開いた。
「今日は良く集まってくれた。各自自己紹介などは必要ないと思う。さて、今日は端午の節句、言うなれば男の日だ。今日我々が集ったのは他でもない。この白桜市に七つの高校が生まれて早十数年以上が経過している。その中で男たちだけに連綿と受け継がれてきたのが、この『七校の中で一番の女子生徒は誰か選手権』だ」
彼はこの謎の集いの議事進行役なのだろう。まるで用意していたかのような台詞をすらすらと読み上げる一真。
おそらく、恒例の挨拶みたいなものだろう。
しかし、男たちは真剣にその言葉を聞いていた。
「これは男の! 男による! 男のための大会だ! 各校全力で自分たちの高校で最も良い女を選んできただろうな?」
「「「「「おおーっ!」」」」」
一真の熱い言葉は他六人の男たちに届き怒涛の声となって返ってくるが、総司だけは口を開く事はせず、拳を突き上げるのみだった。
彼はその姿を満足げに見つめ、次の言葉を紡ぐ。
「さて、ルールを説明しよう。各々、写真は持参してきているな。それを他の参加者に見せて、その子の魅力を全力で語り最終的にこの七人の合議によって七校ナンバーワンを決める。それでは順番を決めるためにじゃんけんを行う。皆、手を掲げよ」
一真の最後の一言に円卓にいる七人は高く手を掲げ、じゃんけんを始めた。
激しい攻防が七人の中で繰り広げられ、泣きを見る者や勝利に叫ぶ者、悲喜こもごもの結果となった。
そうして、決まった順番は――
一番: 剣武練成館高校 篠崎純平
二番: 聖匠学園 渋沢一真
三番:エレメンタル・アカデミー 五色大河
四番: 水鏡高校 古村総司
五番: 黒天星学院 狼谷颯斗
六番: 桜花白蘭学園 西谷俊
七番: 流箭の里 立花龍
となった。
正直に言えば、最後になればなるほど、有利である事は否めない。
どうしても印象というものは、上書きされがちである。
だから、いかに他の六人に印象付けられるか、それが勝負の分かれ道を言えるだろう。
そんな中で一人、勝利を確信している男がいた。
それは最後に女子生徒を紹介する立花龍だ。
しかし、最後にもリスクはある。
自分が発表する以前に強く印象に残った女子生徒がいれば、それを越えるだけのインパクトを与えなければならないからだ。
それに気が付いていない龍ではないはずなのだが、何か秘策があるのだろうか。
「それでは『七校の中で一番の女子生徒は誰か選手権』を始めよう。まずは剣武練成館高校からだ」
「よし! 俺の高校の代表の女の子はこの子だ!」
勢いよく立ち上がり、円卓に置いていた白い紙のようなものを表にした。
そこには剣武練成館高校の制服である道着を身に付け、弓を強く引き絞っている少女が写っていた。
そう、彼らが円卓に置いたものは紙ではなく写真だったのだ。
少女は空の蒼さをそのまま写し取ったかのような空色の長髪に、弓を引き絞る姿は凛々しく清廉なイメージを与える。
男たちは円卓から乗り出して、その写真の少女見つめる。
中には唸っている男もいる事から好みの少女だったのかもしれない。
「彼女の名前は吾妻真弓。俺と同じく二年生で、弓術を得意とする少女だ。見ての通り、大和撫子の雰囲気を持つ女の子で美人だ!」
美人という所を強調して純平が紹介した。
男たちが吟味している中、龍が口を開く。
「剣武練成館には神藤凛もいたはず、どうして彼女じゃないんだ?」
「確かに……この吾妻にも負けないポテンシャルを持つ少女だな」
龍の質問に大河が反応し、全員の視線が純平に向けられる。
神藤凛の名は七校中に知れ渡っているし、その容姿は申し分ない。
それでも彼女を選んだ理由を彼らは求めていた。
「それは俺の幼馴染だからだ! 真弓は本当に綺麗な女の子なんだ! 一つの仕草をとっても愛らしいし、俺のやろうとしている事を先んじて手伝ってくれていたりする。この写真も彼女に頼んで撮った。顔をよく見てくれ、恥じらいが見えるだろ?」
一つ間違えれば惚気に聞こえるのだが、男たちは真剣だ。
写真をもう一度良く見つめる。
確かに真弓の顔には薄っすらと赤みが差して恥じらいが感じられる。
それが分かった状態でもう一度彼女の写真を見ると、静かに弓を構える姿に添えられた恥じらいがとても可憐である。
これはかなりの高評価と言っても過言ではないだろう。
「なるほど、素晴らしい。幼馴染ゆえの彼女の魅力が存分に発揮できている。確かにこれは君にしか出せないものだ。次は俺の番だな」
そうして、純平の番を終わらせて次に進める一真。
彼は自身の目の前の写真をオープンする。
「これは奇を衒ったものだな……」
「確かに彼女らしいと言えるけど」
表にされた写真に対して、俊、颯斗が反応する。
写真に写っているのは頭にねじり鉢巻きをして、まさに赤い鉄の塊に白い鎚を振り下ろそうとしている少女の姿だった。
髪の色は赤銅色のセミロングでウエーブがかかっている。
容姿はともかく引き寄せられるのは、その荒々しい姿だ。
「彼女の名前を知らない者はいないだろうが紹介しておく。聖匠学園三年、玉水雫だ。確かに女らしさは全くないが、この荒々しさの中ににじみ出る色気が分かるだろう?」
玉水雫は【心匠】と呼ばれる鍛冶師である。
その彼女の特徴を前面に押し出したのが、まさにその作業をしている風景だ。
一真が言うように、真剣な表情で赤くなった鉄を見つめる彼女には言い表せない何かを感じる。
写真からでも伝わる彼女の楽しそうな姿。
それが少し大人びた彼女の容姿と相まって、色気を醸し出しているのだろう。
「これはこれでありか……真弓とはまた違った方向性だな」
「…………」
純平が納得している一方、総司はじっとその写真を見つめたまま口を閉ざしている。
「雫は本来自由奔放を絵に描いたような、天真爛漫少女だ。しかし、そんな彼女も一つ鎚を取ればここまで変わる。写真がもう一枚用意できれば、さらなる効果を生む事できた事が残念だ。しかし、この色気にこの楽しそうな顔、最高だろ?」
淡々と述べているように感じるが、その弁にはしっかりと熱が籠っている。
それを男たちは感じ取り、大きく頷いていた。
彼らは雫が天真爛漫に動く姿を想像し、その写真とのギャップを感じている事だろう。
コアな写真だと言わざるを得ないが、評価するものは評価するに違いない。
「次に行こう。エレメンタル・アカデミーだな」
「よろしく頼む。俺が紹介する女の子は彼女だ!」
律儀に頭を下げた所で写真をすっと表に返した。
そこには雷を纏い今にも写真を見ている者に飛び掛かりそうな少女が写っていた。
荒々しさという面では先程のものと同じだが、その性質は大きく異なっている。
「彼女はエレメンタル・アカデミー二年、如月環奈。これはわざと彼女を怒らせて命を張って取った一枚だ。カメラを壊されなかった事が不思議なぐらいの一枚だ」
「カメラは大丈夫なんだろうな?」
「もちろん、写真を撮った後すぐにその場から逃げて現像し、カメラは返却済みだ。まあ……その後、ひどい目にあったけどな」
一真の言葉にはっきりと答える大河。
一真は一つ年上ではあるが、ここは男たちが女を自慢する場。一種の無礼講のようなものだ。だから、誰も咎める事はない。
その代わりに遠い目をしながら、最後の言葉を紡いだ大河に称賛の視線を送っていた。
しかし、そんな勇者である大河ではあるが、審査は厳正に行われなければならない。
彼が出した写真を見ると、彼女の全身から雷が方々に放出しており、怒らせたという割には喜々とした表情だ。
さらに躍動感も感じ、環奈のスレンダーで健康的な体が強調されている事も分かる。
地味に写真を撮るのが上手いと感じさせられる一枚だった。
「うーん、ちょっと微妙じゃないか?」
「確かに綺麗だし、健康美という点では評価できるけど……」
とやや辛口の評価を下す俊と龍。
彼らが微妙という点はこの『選手権』の主旨を考えれば、そこまで的外れな評価ではなかった。
『一番の女子生徒は誰か』という評価の基準は言うまでもなく、写真の少女の愛らしさや美しさが最も評価される。
先程の雫は色気を感じさせたからこそ、評価が上がったと言える。
「もっとよく見てくれ! 環奈のこのにやっと笑った顔、すごく可愛いだろ? 女王様気質の環奈が見せる愛らしさ! 分からないとは言わせないぞ! 環奈が一番だ!」
と熱く強く叫ぶ大河。
彼の環奈への想いは汲み取るが、男たちから高評価を得たとは言い難い。
「さて、次は水鏡高校か」
一真が水鏡高校の番だと宣言すると、むっくりと総司が立ち上がった。
今の今まで口を開かなかった少年が立ち上がった事で、視線が一斉に集中した。
そして、ゆっくりした動作で写真を表にする。
表にしたと同時に、かっと目を大きく見開いた。
「私が推すのは水鏡高校の至宝とも言うべき存在! 白桜市では知らぬものはいない至高且つ至上の女性! その名も水鏡先生! 本名? そんなものは知らん! いや、高貴なお方だからこそ、その名は尊い物! その微笑みは全ての人を明るく照らし、その羽扇から送られる風はまさに至福! この方以外に七校の頂点に立つ女性はいない! 全てを兼ね備えた完璧な女性、それが水鏡先生! もはや、議論の余地ぬああああし!」
捲し立てるような勢いで叫び、拳を突き上げたまま硬直する総司。
寡黙な男が一変、饒舌な男へと変わった事にこの場にいる男たちは若干引いていた。
しかし、彼らは各校を代表してきた身。
どんなに変人が送り込まれてきたとしても、たとえかなり引いていたとしても、厳正なる審査を行うのが彼らの務めであり義務である。
そして、言い切った後、石像のように動かない総司を無視して六人は写真をじっくり見る。
そこには椅子に腰かけ青空を見る少女。
亜麻色の長髪は美しく、その表情は落ち着いていて見惚れてしまう程だ。
羽扇を片手に持っている姿はとても優雅で、文句なしと言えよう。
しかし、男たちは誰一人として言葉での評価をしなかった。
それは、下手をすれば総司の一人劇場が始まってしまうかもしれないからだ。
密かに速やかにその方針を固めた六人は、感嘆の声を出して誤魔化した。
その頃には総司も元の寡黙な男に戻り、席に座っていた。
「さ、さて、皆十分に吟味した事だろう。次に進むとしよう」
――ちらっ。
声が少し上擦りながら先を進めようとする一真は、総司を確認する。
しかし、彼はもう興味をなくしたかのように沈黙。
それを肯定と取った一真は気を取り直して先に進める。
「次、黒天星学院、頼む」
「待ってました! 俺が紹介する女の子は彼女――黒天星学院二年、輪月紗良だ!」
たん、と写真から音が出る程に勢いよく表に返した颯斗。
とても自信に満ちている彼に自然と気持ちが高まってくる男たち。
表になった写真には、にっこり笑顔の黒い軍服を着た少女が写っていた。
右手を突き出し人差し指と中指を立て、元気良く写っている姿はとても生き生きとしている。
そして、その笑顔は愛らしく男たちを弥が上に引き寄せる。
環奈もこのようなシチュエーションで撮れば、もっと高評価が出ただろうに。
しかし、彼らの視線が最も動いたのは彼女の右腕だ。
右腕には包帯がぐるぐると巻かれており、何があったのかと思わせる。
それでも笑みを絶やさない健気な少女の姿に男たちは心を打たれた。
当初、余裕を見せていた龍もこれには強い衝撃を受けているが、ちらりと自身が伏せていた写真を見て、気持ちを奮い立たせた。
「この包帯一体何があったんだ?」
純平が敢えて踏み込んだ。
もしかするとこれはある種の作戦かもしれない。
それを確認するためにも必要な質問だった。
「怪我とかではないんだけどさ……悪いな、これ以上は言えない」
怪我ではない。
それはかなり重要な情報であるのだが、事情があるのは確か。
颯斗のそれは演技なのかもしれないが、それでも男たちは紗良の抱えるものに何かを感じた。
間違いなく高評価。バックグラウンドもしっかりと響いて、彼らの中では一番大きな
インパクトがあるかもしれない。
「それでは次、桜花白蘭学園だ」
「おう、これがうちの高校の代表だ!」
俊が立ち上がり写真をめくる。
そこにはマグカップに口を付けながら、目を大きく見開いている少女の写真だ。
「彼女を知らない人はいないだろう。桜花白蘭学園三年、東雲涼花だ。これは紅茶を飲もうとした所を撮った写真だ。いきなりカメラを向けられて、驚いている所だな。涼花の愛くるしい姿は見ていて、癒されるだろ? この美しさの中にある可愛らしさがたまらないんだ」
茶髪を一つ編み込みにして、後ろに流している少女について熱く語る俊。
その言葉には他の男たち同様に熱が籠っていて、さらに強い想いも感じる。
男たちは先程の紗良の衝撃が残っているものの涼花のギャップに注目している。
優雅なティータイムの中で起こった突然のハプニングというような構図。
そこにどれだけ価値があるかに掛かっているのだろう。
「確かに可愛らしさはあるが……」
「何か足らない感じだな」
「やっぱり先程のインパクトが大きいかな」
大河、一真、龍はあまり心を動かされなかったようだ。
颯斗はどうやら気に入ったようだが、これでは一番を取るのは難しいかもしれない。
実際、熱く語っていた俊自身も厳しいなとは思っていた。
バックグランドの差が顕著に出たという事だろう。
「それでは最後だ。流箭の里だな」
「悪いけど、これで勝たせてもらう。これは秘蔵中の秘蔵の写真、目に焼き付けて帰ってくれ!」
自信というより、勝利を確信したような言い方。
しかし、彼以外の男たちは誰を一番にするか決めている。
今更どんなものを見せられようが動じるはずはない。
そんな中、龍は写真を表にした。
「「「「「「で、でかいっ!」」」」」」
写真を見た瞬間、水鏡先生の所でしか口を開かなかった総司を含めた男たちの声が部屋にこだました。
「彼女は流箭の里二年、古影風華。俺から説明する事はない――否! 説明する必要があるだろうか! 彼女のたわわに実った高級果実がその証! 男が愛してやまぬ、それに勝るものがあるだろうか!」
龍が叫んだ言葉で、男たちの考えは一変する。
写真には水玉のパジャマを着ようしている風華の姿。
水玉のパジャマはサイズが合わなかったのか、胸が収まりきらずボタンを閉めようと風華が格闘する姿が写真には収められていた。
ちらりと見える可愛らしい下着、そしてはちきれんばかりの胸。
男たちは食い入るようにその写真を見つめた。
この瞬間、龍は勝利を確信した。
そして、思う。
――巨乳に勝るものはない。
それから、男たちは一言も口を開かなかった。
あまりの衝撃に頭が回らなかったとも言える。
龍は見事、最後の順番において最も大きなインパクトを与える事に成功したのだ。
投票が行われたのだが、満場一致で流箭の里、古影風華が『七校の中で一番の女子生徒は誰か選手権』のトップに輝いたのだった。
この結果は白桜市の全男子高校生に遍く知られる事になる。
そして、この結果を踏まえて全ての男子生徒が思った――――――――かは分からないが、大多数が感じた事がある。
――巨乳、最強!




