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七恋パラレルワールド  作者: 堀塚 刀夜
『魅惑と困惑のゴールデンウィーク!』
23/34

五月六日 子作りしよ?

 結局、そのまま寝てしまった俺は夕方頃に目を覚ました。

 起きた時に側いたのは亜理紗で、目覚めた俺に優しく微笑んでくれた。

 寝起きに美少女の笑顔。これ以上に素晴らしい事はないかもしれないな。


 琥鈴、凛、ふうは俺が起きるとすぐに俺の下へ帰ってきた。

 三人とも砂だらけだったけど、何をやっていたんだろうか。とりあえず、砂だけは風の力で吹き飛ばしておく。

 それでも最初の方に海水をかなり浴びたから、体はべたべただ。


 シャワーを浴びたい所だけど、合宿に来ている訳じゃないから各校の合宿所のシャワー室が使えない。

 シャワーを浴びられる所が、合宿所以外にない訳じゃないけど、今やっているかは微妙だ。

 まあ、初夏だからな


 だから、俺たちはべたべたな体で旅館がある山頂近くまで戻る。

 当然、ゆっくり歩いていたら日が暮れるので練気(ソウル)を使ってハイペースで戻っていった。


 旅館の前まで戻ってきた俺たちは、旅館の中には入らずに先に温泉に入った。

 汗と海水でべたべたする体からさっぱりしたかったからな。


 そんな事があって、今俺たちは夕食を食べている所だ。


「のんびりしようって言ってた割には、今日はアクティブだったよねー」

「そうだな。思った以上に遊んでたな、俺たち」

「……りっくんはすぐ寝たけどね」

「ふふふ、ふうは意地悪だな。龍だって疲れていただろうに」


 琥鈴が今日の海での出来事を振り返った発言に対して、俺がコメントしたところ、ふうがぼそりと不満げにこぼした。

 そこに凛がフォローしてくれたけど、ちょっと罪悪感を持ってしまった。

 確かに俺は水掛けが終わった後はすぐに眠ってしまって、彼女たちとはあまり遊んだとは言えない。

 特にふうは、この小旅行の発案者でもあるから俺と一緒にいられる時間が少ない事に、不満なのかもしれない。


「ごめんな、ふう」

「冗談だよ、りっくん。本気にしないで」

「ああ、そうか。良かった」


 ほっと安堵のため息を吐く。

 でも、ふうだけじゃなくて俺が寝てしまったから彼女たちにもつまらない時間を過ごさせてしまったかもしれないという思いは消えなかった。


「龍君、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。私たち、交代で龍君の寝顔を見せてもらったからね。それはそれで眼福だったよ」

「え、そうなのか?」


 というと、皆頷いた。そう言えば、最初は琥鈴が前にいたな。でも、起きた時に側にいたのは亜理紗だったか。


「そうだねー。龍の寝顔、ちょっと可愛いというか凛々しいというか……えへへ」

「琥鈴?」


 琥鈴が何を思い出しているのか、だらしない顔をしている。

 琥鈴がこういう顔をするのは珍しいな。


「うむ、琥鈴の気持ちは良く分かる。龍の寝顔は普段の姿からは想像できない感じだからな」

「そうだね。龍君って、こんな顔するんだって思うよね」

「うん、そだね。可愛い」


 一体、そんなに俺の顔が良かったんだろうか?

 少し首を傾げざるを得ない。でも、俺も皆の寝顔は可愛いと思うし、きっと同じようなものなんだろうな。


「夕食はどうかな? 精がつくものをたくさん用意させてもらったよ」

「ちょ、精のつく物って!」

「ナイスです、詩乃花先輩!」「うむ、流石は詩乃花先輩だ」「うん、グッジョブ」「詩乃花先輩は良く分かっていらっしゃいます」

「って、お前ら!? そこ納得する所かよ!」


 明らかに下ネタ的な意味で言っている剣崎先輩。それに対して彼女たちは好意的に受け止めている。

 えっと……つまり、そういう意味なんだろうか……。


「ま、とりあえず頑張れ」


 親指を立てて、この二日間見せた事がない完璧な営業スマイルを見せる。しかし、その裏には悪意しか籠められていない事に俺は気付いている。

 悪意というか、楽しんでいるというか……。

 まあ、そういう目的で来ていると思われても仕方ないか。詩乃花先輩は俺たちの事情も大体把握している訳だしさ。


「りっくん、今日は頑張ろ」

「いや、頑張るって何を……?」


 念のため聞いてみる。指している事は一つしかないんだけどさ。

 案の定、ふうは頬を赤くして伏し目になった。他の三人も俺と目を合わせようとしない。

 ただ一様に彼女たちの頬は朱に染まっていた。



***



 夕食後、俺たちは部屋に戻ってテレビを見ていた。

 丁度、≪SOF(ソウルオブファイターズ)≫の試合が行われている所だった。

 普段なら琥鈴や凛は楽しみにしているはずなのに、今は沈黙――というよりそわそわしている。

 そんなに緊張する事があるだろうか。初めてって訳じゃないんだしさ。


 それは琥鈴や凛だけではなく、ふうや亜理紗も心ここにあらずって感じだ。

 何ていうか変な空気が部屋には流れていた。

 そして、俺たちの下には五人が一緒に寝る事が出来る大きな布団が一組。


「なあ、お前ら……何をそんなに緊張しているのか分からないけどさ。俺は皆が考えている事を気はないぞ? もちろん、やるつもりで用意はしてきているけどさ」

「「「「え?」」」」


 四人が一斉に俺へと視線を向ける。全員が信じられないと言った顔。非難するような視線はないものの、不満を隠そうともしていない。


「……りっくん、子作りしないの?」


 しばしの沈黙の後、ふうが隠す様子もなく俺にぶつけてきた。しかし、纏っている雰囲気は真剣そのもので、決して冗談で言っているようには見えない。

 そこで初めてこの小旅行の意義を理解する。琥鈴、凛、亜理紗も俺から視線を外さずにずっと見ている。

 おそらく、四人の中では話し合っていた事なのかもしれない。


 彼女たちがそれを望んでいる事は本当に嬉しい。でも、先の事を考えると今はするべきではない。

 まだ、終わっていないというのもある。それは皆も分かっているはずだ。


「ああ、しない。正直、皆が子どもを欲しいと思っている事が分かって嬉しいよ。俺も男だからさ、好きな女の子には自分の子どもを産んで欲しいと思ってる。でも、今はその時期じゃないと思う。それは皆、理解しているだろ?」


 とりあえず、俺の気持ちを彼女たちに伝えた。

 彼女たちも覚悟を持って、今日という日に臨んでいるとは思うけど、それでも俺はちゃんと将来を考えたいと思っている。


「龍、本当にしないの?」

「しないよ」

「私たちが今、欲しいって言っても?」

「しない」

「もし、しないなら嫌いになるって言っても?」

「ああ、しない」

「私たちの事、愛しているって言ってくれたよね? 愛してないの?」

「愛しているよ。でも、それとこれとは話が別だ」


 繰り返される問答。

 他の三人はただ静かに俺たちの話を聞いているだけだけど、気持ちは同じだって事は良く分かる。


「はあ……ねえ龍、分かってる? 君のその考えは確かに正論だし、素晴らしい答えだと思う。私たちの事を考えてくれているのは間違いない。でも、それがイコール私たちの幸せとは限らないんだよ?」

「そうだな。でも、これだけは譲れない。お前たちを本当に大切に思っているからこそ、ここだけは譲れない。俺はお前たちと一緒に高校生活を楽しみたいんだ。これが俺の嘘偽りない本心だ。我儘(わがまま)だって言うんだったら、言ってくれても構わない。でも、今この瞬間は今しかない。高校生活は一度切りなんだ。俺のような経験は本来ならありえない。だから、今は皆とこの時間を過ごしたい。ダメ……かな?」


 最後はちょっと頼りなくなってしまった。

 でも、全部伝えた。


「ふう……皆どう思う?」

「私は龍が望まないのなら、彼が望む時まで待ちたいと思う。龍は今がダメなだけで、望んでいない訳じゃないって分かったから私は問題ない」

「私も凛と同意見かな。正直、強引な所はあったと思うし、龍君も真剣に私たちとの関係を考えていてくれる事が分かった。だから、この小旅行自体の目的は達成しているんじゃないかって思う」


 凛と亜理紗は俺の考えに理解を示してくれたみたいだ。

 俺の方を見てにこっと笑ってくれた。

 そして、視線はふうに向けられる。


「私はりっくんの子どもが欲しい。すぐ欲しい……りっくんとの証が欲しいの。でも、りっくんが嫌なら我慢する……でも、絶対して、ね?」

「分かってる。それは約束する」


 こくりと頷いてにっこり笑顔を見せてくれるふう。

 最後は琥鈴か。


「あはは、真面目だね、皆。龍、私も龍の子どもが欲しい。だから、忘れないでね? 私たち皆、君の子どもが欲しいって事を」

「もちろん」


 琥鈴が皆と意見を違えるとは思っていなかった。

 敢えて俺にきつい言葉を浴びせているのも気が付いていた。

 だから、俺も誠意ある言葉を出せたのだと思う。


「さてと……龍、持ってきてはいるんだよね? 私たちは本番する気だったから、用意してきてないんだよね」


 琥鈴がそう言うので、俺は荷物の中から件の物を取り出した。それなりに厚みがあるもので、亜理紗が息を呑んでいた。ふうはじっとそれを見つめ、凛は顔を赤くしていた。そして琥鈴はにこにこ。


「じゃあ、そろそろ布団に入っちゃおうか。分かっていると思うけど今日は寝かせないからね? 龍」


 琥鈴が満面の笑顔で言うと、他の三人も大きく首を縦に振った。えっと、これは本当に覚悟して臨まないといけないな。

 それと剣崎先輩には明日全力で感謝しておこう。


「あはは、ガンバリマス」


 ――今日は長い夜になりそうだ。


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