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七恋パラレルワールド  作者: 堀塚 刀夜
『始まりの物語――決意の入学式!』
18/34

最強への第一歩

 小さな頃の記憶はあまりはっきりしない。

 思い出そうとすると、毎回頭がずきずきと痛んでしまうから。

 こんな痛みを何度も繰り返せば、流石に過去の事を思い返そうとは思わない。


 でも……ただ一つ記憶に刻まれている事がある。



 ――最強になろう。



 今もなお、頭に、耳に、心に残っている言葉。 

 それが私の小さい頃の唯一の記憶と言えるだろう。

 映像として覚えている事は何一つない。


 そして、たった一言ではあるけど、分かる事もある。

 それは、私がその言葉を誰かから言われたという事。そして、その言葉が本当に嬉しかったという事。

 後者のような事でもない限り、小さい頃の記憶が全くないにもかかわらず、この言葉だけを覚えている理由が分からない。


 だから、小学生に上がった頃の私はそれを自身の夢だと思う事にした。

 他に何かやりたいっていうものもなかったから。


 目を輝かせて将来の夢を語る子どもは多いだろう。小さな頃は様々なものが輝いて見える。

 でも、それの実現に向けて邁進する子どもはどれだけいるだろうか。

 ほとんどの人は現実を知り、新たな夢を見つけると思う。

 それは正しい判断だと私も思っている。より明確に自分の進むべき道を見定める事ができるからだ。


 しかし、私はその少数派だった。

 理由はいくつかある。


 その一つは、私の家が剣術を生業にしている家だったから。

 無名の剣術ではあるけれど、両親が二人仲良く道場を経営していた。


 練気(ソウル)という体に流れる命力(マナ)を使った力が体系化された事で、日本における剣術の需要は拡大。

 その流れもあって、私の両親も安定した収入を得る事ができていた。

 

 そんな両親を見て、私は剣で一番を取れば最強になれるんじゃないかと思った。

 今考えると、本当に安易な発想だったと思う。


 でも、最強への道筋を見つけた私は小学生だという事もあって、一心不乱に剣を振る毎日を始めた。

 両親に見てもらいながら、毎日毎日剣を振り続けた。


 普段なら、友達と遊ぶような年頃でも剣に入れ込んでいた。

 そういう私を両親は心配していたが、最低限の事はやっていた。

 学校には通っていたし、学校にいる時間は友達と遊ぶ事も多かった。

 勉強もそこそこできたので、最終的には両親も私の生き方を受け入れてくれた。

 両親としても私が剣の道を志してくれる事は嬉しかったらしい。


 そんな中で、私の楽しみと言えば、お母さんが用意してくれるスイーツだった。

 頑張る私にいつも甘い物を用意してくれていたのだ。

 鍛練終わりに食べるスイーツは、疲れた体に染み渡って本当に最高だった。


 そうやって、私は剣で最強を目指していった。


 でも、私が最強を目指す最大の理由は、『最強になろう』と言ってくれた人に会う事だ。

 私が最強を目指していれば、いつか会えるんじゃないかっ、てそんな願望を抱いている。


 ……うーん、正確には『いた』と言った方が正しいのかな。

 今では、手段が目的となってしまっている感じは否めない。


「――ああ、本当にどうしよう」


 現実に戻って、会場を見渡す。

 そこには、多くの黒天星学院の制服である黒い軍服を着た生徒が倒れている。

 ちなみに私も黒天星学院の制服を身に付けている。


 今日から私も高校生になった訳だけど、入学式でいきなり始まった乱闘騒ぎ。

 この学校は生徒たちに序列をつけるランキング制度がある。

 ランキングが上の方が、より良い待遇を受けられる仕組み。


 だから、自分の力を示そうと入学式が終わった瞬間に一人のがさつそうな生徒が騒ぎ出した。

 というより、暴れ出したんだよね、これが。

 その生徒に巻き込まれるように、周囲の生徒たちが続々と参加していった。

 血気盛んな人が多かったんだよね。それは男も女も関係なかった。


 私も最初は傍観者だったんだけど、最強を目指している身。

 私の中の本能が戦いを求めていた。

 最終的に乱闘騒ぎへ介入。

 戦っている生徒を全員薙ぎ倒してしまったという経緯だ。


 そして、私はどうすればいいか分からず、現実逃避をしていた訳。


 はあ、本能に従って暴れ始めると、私が私じゃなくなるんだよね。

 二重人格ではないと思うけど、凶暴性が前面に出てしまう。

 剣の修行に明け暮れる中で、私は自分の中に潜む破壊衝動に気が付いた。


 どんなに頑張ってもそれが消える事はなく、結局最強になる事が解決する方法のように思えてきた。

 だから、いつの間にか最強になる事が目的になってしまっている。


 それにまだ見ぬ人が、どんな人か分からないから探しようがない、というのもある。


 だから、最強を目指した方が楽かなってね。

 幸い、私には才能があったみたいだし、もう両親よりも強くなっているからね。

 

 そして、この惨状だ。

 周りを見ると、皆私を怖がっているのが分かる。

 そうだよね、ここまで派手にやってしまうと仕方ないよね。


 先生方がやってきて、倒れている生徒の確認をし始めた。

 何だか、来るタイミング遅くないかな?

 気にしても仕方ない。それに怒られなかったので良しとしよう。


 後は、先生の指示に従って指定の教室に移動だ。



***



「はあ、完全に孤立してしまったなー」


 大きくため息を()いてしまう。

 入学式の件で同じクラスの生徒からはかなり警戒されているようだった。

 まあ、仕方ないよね。


「黒龍さーん、待って待ってー!」

「え?」


 とぼとぼ、意気消沈しながら教室を出て歩いていると、声を掛けられた。

 振り返ると、同じクラスの……輪月(りんげつ)さんが追いかけてきた。


「追い付いたー。すぐに帰ろうとするから、思わず追いかけちゃった」

「私に何か用ですか?」


 自然と丁寧な口調になる。凶暴性を知ってから、人には丁寧な言葉で接する事に決めている。

 そうすれば、本能に抗うための理性が鍛えられるのかなってね。

 実際、効力を発揮した経験はないけどね。


 少し輪月さんを見る。私が輪月さんを覚えていた理由は、その包帯で巻かれた右腕だ。自己紹介の時にも見たけど、インパクトがすごかった。


「そうだなあ。特に何か用事って事はないんだけど……あんまり気にしない方がいいよ?」


 今、悩んでいた事について、助言されて内心どきっとする。

 きっと心配して言ってくれているんだろうな、それが嬉しい。


「助言ありがとうございます」

「ううん、力を持つって大変だからさ! あ、黒龍さんの事、亜理紗って呼んでいい?」


 彼女も何かを抱えているのかな。右腕に包帯を巻いているしね。

 それより、すごくフレンドリーな人だと思う。


「別に問題ないですよ」

「そっかー。私の事も紗良って呼んでいいからね」

「分かりました。紗良さん、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね! それじゃ、またね!」


 そう言って、紗良さんは教室の方へ戻っていった。

 すごく元気な人だったな。

 あ、私ここに来て初めての友達だ。

 そう思うと、素直に嬉しく思う。


 一階に向かうためにエレベーターに乗る。

 エレベーターが下に向かうための音だけが聞こえる。


 最強になる第一歩として、この場所にやってきた。

 この白桜(はくおう)市で開催される≪ホーリーフェスタ≫。

 そこで頂点になれば、今世代最強と言っても過言ではないと思う。

 そのために、七校あるうちで切磋琢磨できる環境があるここに入学したんだ。


「――あはは、すごく良いね、君」

「え、誰?」


 エレベーターを下り、校舎である高層ビルを出た所でいきなり声を掛けられる。

 しかし、どこを向いてもその姿は見つけられない。


「あ、見えないのか。今、姿を見せるね」

「わ、目の前に!」


 そうして、私の目の前に突如として全身が黒い少女が現れた。

 ぬっと現れた少女に変な声が出てしまった。

 でも、いきなり現れたけど、どうやったんだろう?


 少女は黒い和服に身を包んでいるけど、その丈が短くミニスカートみたい。アレンジしている所を見ると、コスプレなのかな。

 髪や服は黒いのに、その肌は真っ白でとても綺麗。


「ねえ、君。強くなりたいと思わない?」

「え、それは思います。最強を目指していますから」


 なぜか引き寄せられるような声音だ。


「そっか。なら、私が力をあげる」

「え? 何を言って……」


 そう言うと、黒和服の少女は手の平に黒い何かを出現させる。

 あれは……練気?

 そして、その黒い練気を私の体に押し込んだ。


「ぐっ!」


 体の中に入った瞬間、急に目の前が真っ暗に……


「――ふふふ、今はまだ目覚めない。でも、いずれ目覚めると思うよ……」



***



「ん……? ここは?」

「あ、亜理紗! 起きたんだ」

「あれ、紗良さん?」


 目を覚ますと紗良さんが横に座っていた。

 そもそも私は何をしていたのだろう。


「あれ、じゃないよ。私が校舎を出たら自動ドアの横で寝ているんだから、目玉飛び出そうだったんだからね!」

「それはすみませんでした」


 私、寝てたんだ。

 でも、どうして眠ってしまったんだろう。

 うーん、ぼやけて覚えてない。疲れているのかもしれないな。


「さっきの乱闘が意外と体力を削っていたんじゃないかな。今日は早く休みなよ。私が一緒に行ってあげるから」

「それはありがとうございます」

「ううん、気にしないで!」


 紗良さんには本当に感謝だ。

 これからも仲良くしていきたいと思う。


 首を上に向けて、黒天星学院の校舎を見る。

 高層ビルにしか見えないな。窓はガラス張りだし。

 ここから私の最強への道が改めて始まる。

 

 その決意を胸に校舎を後にした。


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