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七恋パラレルワールド  作者: 堀塚 刀夜
『始まりの物語――決意の入学式!』
16/34

光を求めて 【前編】

「森……?」


 見渡す限りの大森林。

 春だというのに、鬱蒼(うっそう)としている緑。

 大都市と言ってもいい白桜(はくおう)市の一部に、こんな所があるなんてびっくり。

 歴史の坩堝(るつぼ)とは言い得て妙だね。


 それにしても、ここが流箭の里……

 聞かされていた通り、特殊な場所みたい。校舎らしいものは全く見当たらず、ここが学校なのかと首を傾げたくなる。

 ただただ目に優しい緑があるだけで、学校らしさがまるで感じられない。


 この都市にある七校はそれぞれが、特色ある学校だと聞いている。

 流箭の里がこうだと、他の学校も相当なものだと想像できる。


 周りに立っている人たち――たぶん、新入生――も戸惑っているように見える。

 言うまでもなく、私もその一人ではあるけれど。

 ただ、忍びの修行の一環で感情を(おもて)に出さないようにしているので、余裕があるように見えるかもしれない。


 その修行も一段落したので、父様と母様に勧められたのがこの白桜市。

 特にこの流箭の里は、隠形(おんぎょう)などの技術を持つ人たちが、多く在籍していると聞いている。

 隠形とはいかずとも、気配を消す事に長けるなど――つまり、裏の仕事に向いている人が多い。

 ここでなら良い修業になると言われたので、やってきた。

 確かに気配が薄い人や意図的に薄くしている人が何人もいる。


 そして、両親からはもう一つ言われている。


 ――光を見つけなさい、と。


 意味が分からなかったので、何度か尋ねたけれど、教えてくれる気配はなかった。

 でも、これも修行なのだと思うと、疑問に思う事もなくなっていた。

 私は修行に対しては、疑問を挟まないようにしている。

 いつからか、そういうものだと割り切るようになった。

 そうした方が楽だから、と言った方が正しいかもしれない。それだけ厳しいものだったから、不必要な思考はいらないと思った。


 でも、これからは私一人で色々と考える事になると思う。

 父様と母様には、『高校を卒業するまでは自由にやりなさい』という言葉も受け取っている。

 だから、光についてもしっかりと考えなければならない。


 では、私にとって光とは何だろうか。

 これは全く見当がつかない。そういう時は、別の事に置き換えて考えてみる。

 私は最終的に忍びとなる。どんなに世界が変容しようとも水面下での戦いは必要不可欠。需要がなくなるとは思えない。


 であれば、忍びにとっての光とは何を指すだろう。

 きっと、それは仕えるべき主だと思う。

 フリーランスで仕事をしている忍びも多いと聞いている。

 しかし、古影家は昔から続く家系。そういう事には厳しいらしい。


 父様も母様もどこかの家に仕えているらしいけど、それを教えてくれた事はなかった。

 ただ、あまり仕事はなかったみたい。

 必要とされない訳じゃなく、裏の仕事をあまり必要としない家だと考えている。

 どちらにせよ、両親が仕えている家であれば、私もその家に仕えれば良いとは思うのだけど、違うのかな?


 今、忍びに置き換えて考えてみた。

 つまり、忍びの光は私のそれと同義だ。

 つまり、私にとっての光とは……仕えるべき主という事になる。

 

 では、私はどんな人に仕えたいだろう。


 できれば、優しい人が良い。忍びは確かに道具ではあるけど、道具を大切にしてくれない人は嫌。その点、彼はきっと優しく使ってくれる。

 それに黒髪の人がいいな。きっと彼は想像以上にカッコよくなっているだろうから。

 後、強い人が良い。私も美化された忍者像には、多少の憧れがある。彼もきっと強くなっているはずだから。


 あれ……彼って……?

 私、仕えたい人を明確に想像できているの? それとも願望?

 優しくて、強くて、黒髪の少年。


 ――そう、少年。

 私の大切な――


「――あう! な、にこれ……」


 頭が割れるような痛さ。

 あまりの痛さに頭を抱え、うずくまってしまう。

 周りがざわついたのを感じたけど、気にする余裕はない。

 でも、それからすぐに痛みは引いた。


 訳が分からない。一体、何があったの……思い出せない。あれ、何を考えていたのだろう私。

 忘れた事はいい。とりあえず、流箭の里で技術を磨く事にしようかな。

 父様も母様もそれを望んでいると思う。


『やあ、新入生諸君。私は、流箭の里の理事長を務めている炎城(ひびき)だ。流箭の里にようこそ。早速ではあるが、君たちにはこの森のどこかにある校舎への入口を見つけてもらう。校舎への入口を見つけ、最も早く私の所にたどり着いた生徒には賞品も用意している。是非とも全力で臨んで欲しい。では、正面、蔦のアーチがある校門から中に入ってスタートしてくれ。ちなみに妨害をする事は可能だ。そして、私の所に最初の生徒がたどり着いた時点で、終了とする。では、健闘を祈る』


 どこからか突然聞こえてきたアナウンスに、考え事は中断された。

 校舎と言われて、気が付いた。

 流箭の里から送られてきた案内には、校舎がどんなものか書いていなかった。

 これのためだったのか、手の込んだ事をしていると思う。


 それでも、やれと言われるならやる。

 忍びに必要なのはそれだけ、ただそれだけだ。

 言われた事を素直に達成する。


 放送終了と共に、生徒たちが一斉に動き出す。

 私はその様子を後ろで見つめている。

 焦る必要はない。むしろ、今の状況で飛び出す事はないと思う。


「きゃああああ!」

「うおおおお!」


 何人かの悲鳴に近い叫びが聞こえた。

 思っていた通りこれほどの森、罠が何もないとは考えられない。

 やはり、私たち新入生の力を試す意味があるのだろう。


「そろそろ……」


 最後尾でのスタート。

 軽く前へと体を倒すように移動。


 胸がたゆん、と揺れる。正直、重い。

 忍びにあるまじき胸の大きさ。

 ここに来る途中もちらちらと視線が突き刺さっていた。


 誰かは分からないけど、生徒たちの中にも凝視していた人がいたな。

 すごく気持ち悪かった。

 動くのに邪魔な肉の塊、これの何が嬉しいのか分からない。


 蔦のアーチを抜け、その自然に溶け込むように気配を消す。

 慎重に森の中を見渡すと、あちらこちらに木の枝に吊るされている生徒がいる。

 随分と初歩的な罠に引っ掛かっていると思った。

 自力で抜け出しているものもいるがけど、全員ではないな。


 森は思っていた以上に広大。細かく探していては、ダメな気がする。

 でも、罠に関してはあまり心配する必要はなさそうだ。

 見た感じだと、簡易的なものしか設置されていない。

 おそらく、即席で作ったのだろう。ただ、隠し方が巧妙だけど。


 それに……罠はスタート地点に多く設置されている。

 奥まで設置する時間はなかったって事かな。


 他に森を見ていて、気になるのは、木々や地面に傷や抉られた跡が見られる事。

 明らかにここで戦闘が行われた証。

 ただ、時間が経っているように見える。

 普段は鍛錬の場として、使われているのかもしれない。


 それからもよく観察しながら歩くけど、校舎の入口らしきものは見つからない。

 その代わりに、生い茂る草木を抜けた先に、開いた空間を見つける。

 何かあるかもしれない。


 広場に出て気が付く、その場に倒れている数名の生徒に。

 罠……という訳ではなさそうだ。

 おそらく、誰かにやられたと思う。


「次の獲物はお前か」


 気配は消していたはず。流石にこの何もない広場であれば、分かってしまうか。

 ゆっくりと後ろを見ると、流箭の里の制服である忍び装束を身に纏った男が立っていた。


「何してるの?」

「ああ? 見れば分かるだろう、俺の実力を知らしめているのさ。これは俺たちの実力を示すゲームだろうからな。それに妨害もありだろ?」

「なるほど」


 彼の言う事は正しいと思う。

 実力の示し方はそれぞれ、一早くゴールに辿り着く力も必要、相手を倒す強さも必要だと思う。

 おそらく、何かしらの方法で監視しているとは思う。視線らしいものは感じるから。


「それにしてもお前、背は小さいくせにすげえ胸だよな。始まる前もずっと見ていたぜ」

「そう」


 嫌な視線の正体は、この男か。

 視線と同じように下品な顔をしていると思う。

 話しているのも嫌になってくる。


「さて、話は終わりだ。さっさと終わらせて、その体を堪――」


 相手の目の前に踏み込む。

 反応できていないみたいだけど、自信がある割にはこの程度なんだ。


「さようなら」


 体を捻って練気を纏った蹴りを叩き込んだ。

 面白いように吹っ飛び、木の幹に激突。衝撃で、枝に付いていた木の葉を数枚散らした。


 念のため、動かないのを確認する。

 手応えがなさすぎる。


 さ、次にいかないと。


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