表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七恋パラレルワールド  作者: 堀塚 刀夜
『始まりの物語――決意の入学式!』
15/34

最速の四天王 【後編】

 勝負は入学式を行う広場でやる事になった。

 新入生たちは私と速水(はやみ)先輩を囲んでいる。


「さあ、始めようか、凛ちゃん」

「はい、お願いします」


 心を落ち着かせ、腰の刀を抜いて正眼に構える。

 これが一番、相手に対処しやすい形。

 先程の一撃からスピードを重視したインファイターだと思われる。


 速水先輩の雰囲気が変わり、拳に練気を纏った。

 それでも、私を見下したような顔は変わらない。


「オラッ」


 速水先輩が、両腕を脇に付け距離を詰めてくる。

 一瞬で間合いが潰され、懐に飛び込んできた。


 ――速い。体に向けてスピードに乗った拳が放たれる。

 拳が体に当たるか、当たらないかという所で避ける――拳圧で道着が少し揺れた。

 そんな事は気にせずに、避けた瞬間に刀を振り下ろす。

 しかし、読んでいたのか、右足を軸にしてくるりと膝を曲げながら回転し、私の右側面に移動する。

 振り下ろした刀は空を斬った。


 そこから速水先輩はバネのように足を使い、伸びあがった勢いで拳を放った。

 唸りを上げて迫る拳に向かって、振り下ろした刀を斬り上げた。

 拳を下から弾いた事で、バランスを崩した速水先輩。


 そこへ容赦なく上段からの斬撃を叩き込む。

 これで決まったかに見えたが、そう簡単にはいかない。

 速水先輩は、バランスを崩しながらも足を蹴り上げ刀を弾いた。

 それから、お互いに一度距離を取って対峙する。


「へえ、やるね。凛ちゃん」


 それには答えずに、その場で十字を斬って速水先輩に放つ。


 ――神藤流“十字波”。


 縦横の斬撃波に練気を注ぐ事で、遠距離攻撃を可能にする技。

 斬撃波自体は、放出系を必要としない技術。だからこそ、適性が低い私でも遠距離攻撃を可能性にする。


 “十字波”を打つと同時に、それを追いかけるように前へ走り出す。

 速水先輩は避ける気配はなく、練気を纏った拳で“十字波”を打ち砕く。

 また拳圧が頬を掠める。さっきより強烈な一撃だったみたい。

 でも、破られる事は想定済みだ。


 十字の練気の塊が消え、目の前に速水先輩が見えた。

 私の姿を視認し、驚きの表情を見せる。


「はあっ!」


 気合を発し、上段から刀を振り落とす。

 速水先輩は避けられないと判断し、腕をクロスしてガードを固める。

 腕に触れ、刀が軽く弾かれた。クロスした腕は練気を纏っている事もあり、強度がある。

 

 それでも腕には負担がかかっているはず。

 このまま一気に押し切る。

 すり足で、押し込みつつ刀を絶え間なく振り続ける。


「その程度のスピードじゃ、俺の守りは崩せねえよ」


 速水先輩が不敵に笑った。

 しかし、防戦一方なのは事実。何ができると――


「何!」

「はっ、捕まえたぜ!」


 振り下ろした刀を片手で掴まれ、声を上げる。

 押し込もうにも動かない。

 動揺した一瞬の隙――そこへ強烈な拳打が腹部に直撃する。


「かはっ」


 一瞬、視界が白くなった。

 体に纏っている練気を突き破る程の威力に、思わず膝を付いてしまう。

 すぐに体勢を立て直そうとするも、刀は掴まれたまま動かない。


「さて、お礼をさせてもらおうか!」


 喜々とした様子で叫ぶ速水先輩。

 彼は刀を手放せない私へ、片腕をジャブの要領で放ち続ける。

 こちらも片腕で防ごうとするが、そのガードをすり抜け的確に私の体へとヒットさせていく。


 スピード重視のため、先程の拳打のような重みはない。

 練気によってダメージも軽減されているが、確実に疲労は蓄積されていく。

 何とか突破口を見つけなければならない。

 刀さえ動かす事ができれば、何とかなるはずだ。


 ガードするのをやめ、だらりと片腕を垂らす。

 腕に意識を集中していては、相手を観察できない。

 もちろん、多めに練気を纏ったので防御は問題ない。


「ははは、もう終わりかあ? 凛ちゃん!」


 腕を下ろした事で、諦めたと思ったのだろう。

 口角をいやらしく上げ、ジャブの勢いが増す。

 今の速水先輩は、私をいたぶる事しか考えていないため、先程のような拳打は放ってこない。

 

 刀を相手が気付かない程度動かすと、さっきより力が弱くなっていた。

 これはチャンスだ。それでもタイミングを見計らわないといけない。

 しばらく、防御に徹する。それでも、腕を動かす事はできない。

 下手に動かせば、私の思惑が露見する。


 練気をさらに纏った事で、速水先輩には私が最後の抵抗をしているように感じさせる。

 相手の油断を狙う作戦ではあるが、負ける訳にもいかない。


 これも駆け引きの一つ。

 相手の隙を狙うのは、戦いにおける基本。


 そして、決定的な隙が訪れる。

 止めと言わんばかりに、速水先輩がジャブを止め強烈な一撃を放とうと、腕を引いた。


「そこだああああ!」


 その瞬間を逃さない。相手が腕を引くと同時に、刀を両手で握りぐっと引っ張るように動かした。


 止めを打とうと、引いた腕に力を集中させていたのだろう。

 あっさりと刀の拘束が外れる。

 同時に速水先輩が後ろに倒れる。


「ちぃっ」

「はっ」


 解放された刀で、追撃するように剣閃を放った。


「これで終わりですね、速水先輩」

「くっ、俺の負けだ」


 私の刀の切っ先は、尻餅を付いた速水先輩の顔に向けられている。


「ふう、ありがとうございました」


 勝負は決した。

 刀を速水先輩の顔から外し、鞘に納める。

 

「くはは! 俺が負けを認める訳ねえだろ!」


 刀を鞘に納めたのを見計らったように、速水先輩が私に拳を放ってきた。

 避けられない。急いでガードを固め――


「――速水」

「がはっ」


 放たれたはずの拳は、私に到達する前に地面にめり込んだ。

 そして、速水先輩自身もめり込んでいる。

 まるで何かに押されるように、地面に顔を付けている。


 私は声が聞こえた方を向く。

 きっと、声の主が何かをしたに違いない。

 声がした方向には、新入生たちの人垣を抜けて二人の男女が立っていた。


 一人は巌のように体が大きな男子生徒。腕を組んで立っているその姿は、本当に巨岩のようだ。

 もう一人は目の細い女子生徒。その身に纏う風格は、一朝一夕で身に付くものではない。


「速水君、何をしているのですか?」

「し、しのざ、きせんぱい」


 目の細い女子生徒を見て、地面に押し付けられながら顔に恐怖を張り付ける速水先輩。

 確かに彼女が放つ威圧感は、普通ではない。


「言いましたよね? 女子生徒に手を出せば、もう次はないと。そうは言いましたが、四天王である貴方を無理に追放するのは、学校側としても体面が悪い。貴方もそれが分かっていたからこそ、手を出していたのだと思いますが……もう言うまでもありませんね」


 目の細い女子生徒が言葉を切ると、速水先輩が顔を歪めるのが分かる。

 言い渡された内容は、私には分からないが彼にとっては良い話ではなかったのだと思う。


 そして、目の細い女子生徒が私の方を見る。

 いきなり気を当てられて、背筋がぴん、と伸びてしまう。


「貴方、名前は?」

「神藤凛です」

「もしや、神藤流の?」

「はい、そうです」


 この人は神藤流を知っているようだ。

 少し親近感を持ってしまう。


「なるほど……では、神藤さん。貴方を四天王に任命します」

「分かりまし――は? 四天王とは剣武練成館・四天王の事ですか?」

「はい、その通りです。ここで押し潰されている生徒は、四天王の一人でした。四天王は実力主義です。四天王に勝てば、その人が新たなる四天王となります。それはいかなる状況であっても変わりません。ただ、入学式が始まる前に四天王になってしまう一年生は、初めてですけどね」


 優しい微笑み浮かべる目の細い女子生徒。

 私は彼女が言った言葉を思い返している。

 剣武練成館・四天王と言えば、≪ホーリーフェスタ≫に必ず出場できる人たちだ。

 その実力は剣武練成館内でトップクラス。


 それに私がなったという事か……

 何というか、拍子抜けする思いだ。

 しかし、このチャンスを無駄にする事はないし、拒否する必要もない。

 四天王になれば、必然的に強敵と戦う機会は巡ってくるだろう。

 強くなるためには、これ以上ない環境を得た事になる。


「分かりました。これからよろしくお願いします!」

「ふふ、良い返事ですね。それでは行きましょう」


 そう言われて、私はまだ名も知らない女子生徒の後ろをついていく。


 これから先、何が待ち受けているだろうか。

 私は自然と口角が上がるのを自覚するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同じ世界観の物語です!

立花龍が七つの高校を巡って多くの少女と恋をしていく物語

パラレルワールド周回で最強へ七つの学園で恋をしよう
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ