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七恋パラレルワールド  作者: 堀塚 刀夜
『ひな祭り! リトルラブストーリー!』
11/34

雛壇争奪戦の傍観者

 三月二日。桜花白蘭学園ドーム内


「兄さん、どうしてこんな事になっているのでしょうか?」


 目の前の光景を見ての私の第一声はこれだった。前方では兄さんを巡って血で血を洗うかのような激闘が繰り広げられている。それもそのはず、ここにいるのは≪ホーリーフェスタ≫の上位を争う女性たちなのだから。


「俺に聞かないでくれよ。これを企画したのはちーねえなんだからさ」

「ふふん、皆楽しそうだからいいじゃない! っていうか、私も参加してくるね! いーやっほーい」


 ちーねえさんが刀を持ちながら喜び勇んで、スタンドを飛び越えフィールドに突撃していった。兄さんは隣で大きなため息を吐いているけど、私もその立場なら同じ事を思う。


 そもそもの発端はちーねえさんの企画――『リアル雛壇を作ろう!』というものだった。突然、兄さんの所にやってきたちーねえさんが持ち掛けたものだった。そして、集められたのは兄さんの事が好きな女性の方々――それも全員が全員、美少女。


 中には私の親友たちもいるんだけどね。でも、兄さんは誰に対してもしっかりとした意思を示していなかった。優柔不断と言われれば、それまでだけど、これは兄さんなりに考えているのだと思う。


 私も義理の妹であるから可能性はあると思う。でも、私は兄さんの側にいられればいいので、特にこういう場合は傍観者に徹している事が多い。


 ――閑話休題。


 『リアル雛壇を作ろう!』で、内裏雛の男役として選ばれたのが当然ながら兄さん。そして、女役を選ぶという段階になって全員が全員、その役を立候補した。


 そこからは女の戦いが始まった訳だけど、誰一人として一歩も譲る気配がなかった。兄さんもあまりの剣幕に割り入る事もできなかった。触らぬ神に祟りなしという感じで、何もしなかった可能性はあるけどね。


 そうして、誰が言ったか最後まで立っていた人を兄さんの相手役にしようという話になり、全力での死闘が展開されている訳。身の危険を感じた私と兄さんは、スタンドに移動して見守る事になった。


 そうして出てきた言葉がさっきの一言って訳。


「皆、戦うのが好きだよなー」

「兄さんのためにやっている事ですよ?」

「分かってるけどさ。よくやるよなって」

「それだけ兄さんの事が好きって事ですよ」

「だよなー」


 これだけを聞くと兄さんが皆さんの気持ちを蔑ろにしているように感じるかもしれない。でも、これは眼前に広がる光景に呆れているからに他ならない。


 兄さんは兄さんで苦悩している。結局、一人に決められないから。そう思うのであれば、全員まとめて愛すればいいのにと思ってしまう。でも、兄さんはそういうハーレム的なものには抵抗がある。


 だからこそ、悩んでいる。


「ちなみに兄さんは誰が残ると思いますか?」

「うーん、誰だろうな。皆強いからさ、一対一なら話は別なんだけどね。だから、誰が残ってもおかしくないというのが俺の見解」

「なるほど。一理ありますね」


 私は今兄さんの話し相手に徹している。私としては誰が兄さんの隣になっても問題ない。皆さん、とても魅力的な人たちであるし兄さんに対する想いは本物だから。


 それは同じく兄さんを想っている私が言うのだから間違いない。成り行きで龍先輩の事を兄と呼ぶようになった。でも、兄さんと過ごしていくうちにどんどんと惹かれていった自分がいる。


 本当なら私もあの場に参加するべきなのかもしれないけどね。私は私なりに自分の役割を果たそうと思っている。


「薫流、いつもありがとうな」

「え?」

「お前が皆の事を見てくれているから、上手く回っているんだと思う」

「お役に立てたのなら幸いです」


 兄さんが褒めてくれる。それだけで心は高鳴り嬉しくなる。こうして傍観者に徹する事で兄さんと二人きりの時間を作る事ができる。打算的に動いているつもりはないけど、結果的にこうなるのは当たり前じゃないかな。


「全く良くできた妹だよな。お前がいると色々と安心できる。常に俺の事を考えてくれるからな、ほんと助かっているよ」

「好きでやっている事ですから、気にしないでください。それよりも兄さんは早く心を決めてくださいよ。言っておきますが、兄さんが誰を選んでも皆さん受け入れる覚悟はしているのですから。この戦いだって兄さんが起こしたものと言っても過言ではないのですからね」


 続けて褒められて、嬉しくて仕方がない。でも、はしゃぐのは、はしたない気がして、無理矢理話題を変える。


「分かってるけどさ。皆、素晴らしい女性なんだよね、お前も含めてさ」

「兄さん……」


 嬉しい! さっきから嬉しいの連続。ああ、すっごく叫びたい。兄さんが大好きだって叫びたい。でも、流石にここで叫んだら確殺されるよね? まだ激しい戦いを続けているからね、皆さん。一斉に私に襲い掛かってきたら怖い。


「なんて言ってられないよなー。明日は卒業式だしさ。このリアル雛壇も明日、記念に取るためのものだもんな」


 そう、明日は卒業式。兄さんも一つの答えは出さないといけないと私も思っている。


「兄さんが一番側にいて欲しい人でいいと思いますよ。この人だったらずっと側にいて欲しいって人」


 少しアドバイスをしてみる。私が思うに兄さんに必要なのは背中を押す事だと思う。


「一番側にいて欲しい人か。少し考えてみるよ」

「はい」





 兄さんは私の言葉を反芻するために、じっと戦いを見つめている。私は邪魔しないように戦いの趨勢を見ている。フィールドでは何人かが気絶しているのも確認できる。少しずつではあるけど、絞られてきているようだ。


「もう少しで勝敗が決まるかなー」


 兄さんが声を出す。そこには否定的なニュアンスは感じられない。つまり、誰か一人に決まったという事だろう。気になってしまうけど、今聞いてしまえば立ち直れないかもしれない。


「そうですね。着実に皆さんの数が減ってますからね」


 だから、その事には触れずに話を進める。


「皆、楽しそうだから良かったよ。ちーねえが企画を持ち込んで来た時は、どうなるかと思ったからさ」

「ちーねえさんは自由人ですよね」

「そうそう、昔から全く変わってないよな」


 こうやって話をしていると本当の兄妹のように感じる。やっぱり好きだなーと思う。側にいたいと思う。私の気持ちは兄さんに知られている。親友たちと勢いで告白してしまったからね。


「薫流、ラスト二人だぞ!」


 兄さんの大きな声に体がびくり、と反応してしまった。すぐにフィールドに視線を向けると、確かに立っているのは二人だった。ちーねえさんの姿はそこにはなく、どこかで成り行きを見守っているのだと思う。


 そして、激突した二人は同時に倒れた。まさかの展開に、私も驚きを隠せない。


「えっと、これどうなんだ?」



***



 三月三日。桜花白蘭学園ドーム内。


「なんだか緊張しますね」

「そうだなー、まさか衣装まで着せられるとは思わなかった」


 私は兄さんの横に座って、撮影の瞬間を待つ。


 あの後、ちーねえさんが皆の前で兄さんの相手役を発表した。あの戦いは最後まで立っていた人を相手役にするというルールで行われていた。つまり、最後の二人が相討ちとなって倒れた事により、最後に立っていた私が選ばれたという訳だ。


 呼ばれた時は唖然としてしまったけど、兄さんの隣を独占できるというのは嬉しかった。


「さ、撮るよー」


 いつの間にか、ちーねえさんがカメラをセットし終え、自分の位置へと移動する。


 数秒後、私は兄さんの隣に座れた喜びを表すように自分で思う最高の笑顔を浮かべた。


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