ペトリコールと節分と目薬と
「節分にはなんで豆をまくの?」
私は下校をしている最中、同級生の美咲ちゃんにそう尋ねた。美咲ちゃんは成績優秀なだけでなくとっても物知りだ。この間も雨の降る前の匂いが実は雨の匂いではないということを教えてくれた。雨が降るとき発生する気泡が、地面の成分や天然の油の成分をとり込んでその匂いを発生させているらしい。ちなみに私は美咲ちゃんがこの時なにを言っているのかちっともわからなかった、でも物知りな美咲ちゃんの言うことだから合ってるんだろう。
「季節の変わり目には鬼が出るって言われていてね、昔鬼が出たとき豆で鬼の目を打ちつぶして退治したのよ。語呂合わせで魔の目、魔を滅するという意味も込められているわ」
美咲ちゃんは、その質問が来ることはわかっていたわとでもいうかのように私の質問にすらすら答える。まるで頭の中に教科書を入れているみたいだ。メッシくらいしか知らない私には魔を『めっする』という単語の意味がわからなかったけど美咲ちゃんが得意げにしてるからきっとすごい難しい単語なんだ。
「豆を投げられたときに、なんで鬼は目をつぶらなかったのかな」
私がそう尋ねると美咲ちゃんはちょっと困ったような顔をして―
「鬼はまぶたを下ろすことができないのよ」
と教えてくれた。そっか鬼はまぶたを下ろすことができないのか。あんなにおっかない顔をしてあんなに真っ赤な顔をしている癖にまぶたがおろせないのか。それはなんだかとってもおかしくてふふふと笑ってしまう。
「そっかー、まぶたが下ろせないんじゃ仕方ないね。でもそれだと目がすごく乾燥しちゃうね」
特に意図もなく、私は何の気なしにそう返す。すると美咲ちゃんはまたまた少し困ったような顔をして―
「そうね、だから鬼の間では目薬が大流行してるわ」
と衝撃の新事実を私に教えてくれた。私がごとうちのゆるきゃらにはまっているうちに鬼たちの中では目薬が流行していたらしい。怖い顔をした鬼が目薬をうまくさせないでいる状況を想像してしまい私はまたふふふと笑ってしまう。そんなかわいい鬼だったら仲良くなって一緒に豆を食べることもできるかもしれない。それはなんだかとっても素敵だなと思いながら、私は今日最後の疑問を美咲ちゃんにぶつけた。
「美咲ちゃん、じゃあ目薬ができる前の鬼たちはどうしてたの?」
「あなたどこまで本気なの?」
美咲ちゃんの言うことはやっぱり私には難しい。
節分ということで短編を一本、本当は恵方巻きもネタにしたかった。