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女子高生のオモチャ  作者: 三ノ月
第四章 アナタの手を
23/45

第○二一話 『二年前の事件』

後半の小太郎視点のところを加筆修正いたしました。(1/17)


 足元に着弾するのはメンコだった。パァン、と乾いた音が路地に響き、突風が巻き起こる。

 足を取られながら、浮きそうになる足を必死で地に着け走る。

「こっちだ! 悪を、裁け――ッ!」

 逃げる伊達と白石を追う集団の名は《正義の体現者ジャスティス・メイデン》。かつて白石と大河原で結成し、しかし潰えてしまったはずの集団。

 それが今になって、創立メンバーである白石をも悪と呼び、間違った道を歩み現れた。

 これをどうにかするのは必然、白石小太郎――自分の責任である。

 逃げているうちに下町の隅まで来てしまっていた。眼前にある大型複合商業施設、川内ホールドアがあと数分で沈んでしまう夕日に照らされている。

 川内ホールドアは、その名の通り新都と下町とを繋ぐドアだ。各方面への路線が配備された駅もある。そこまで辿り着けば、伊達を逃がすことができ、バレットを裁くという敵の目論見は破綻する。

 伊達を逃がしたなら、あとは《正義の体現者(じぶんたち)》の問題だ。

「……巻き込んで悪かったな、バレット」

「は? 突然何を……、――ッ!」

 走る伊達がモデルガンを取り出し、跳んで来る数々の紙飛行機を撃ち落とす。メンコも紙飛行機も、敵が使っているオモチャの一つだ。

「そうか、脅迫文を載せた紙飛行機はコイツの仕業……!」

「次の角を曲がるぞ、遅れるな!」

 追いかけてくる足音は次第に増えてきている。十数人ほどのメンバーが集まり出しているのだろう。全員が追跡を始めれば、二人が追い詰められるのも時間の問題だ。

 その前に早く伊達をホールドアの駅へ送り届けねば。下町と言えど、ホールドアまで近づけば人がいる。市民を巻き込むだけの度量は、敵にはないはずだ。少なくとも、集会場で顔を合わせた時にはそう感じた。

「……いいか、バレット。このままホールドアに近づくぞ。そこにはお前も知っての通り、電車でもバスでも何でもいい、とにかく駅がある。お前はそこから新都に帰れ」

「――、お前、僕に逃げろっていうのか? 冗談じゃない、今逃げてるのでさえ不本意なんだ。これ以上僕を馬鹿にするなッ!」

 ああ、もう。なんで素直に言うことを聞いてくれない!

 悪態を付くのは後だ。今は何が何でも伊達を説得し、下町から遠ざけねばならない。

「やっとこの手で裁けるんだ。二年前に親父を……お父さんを死に追いやった奴を! そのチャンスを、みすみす逃して――」



「ワガママもいい加減にしやがれ頑固野郎――ッッッ!!!!」



 伊達の言い分もわかる。どうにかしてやりたいとも思う。できることなら、伊達にそのチャンスをやりたいとも思う。伊達の境遇は、大河原から聞いてある程度は知っている。

 しかし、大河原圭介と、おそらく大和とで練った計画は、その経歴をこそ利用している。伊達が父親の復讐をしようと考えることまで織り込んでいるはずだ。だからこそ、伊達をこれ以上関わらせてはいけない。

「これは俺たちの問題なんだ、巻き込んで悪いって言ったろ! 元々お前は一切関係ないッ! 歪んじまった正義を昔の形に、他の誰でもない、俺の手で直したいんだ!」

 ワガママなのはどっちなのだろう、と思いながら、白石は叫び続ける。

「そこにお前がいたら邪魔なんだよ! わかれよ! ――親友を、取り戻したいんだよ!!」

 わかっている。邪魔をしているのはきっと、自分の方だ。父を失って、その仇を討ちたい伊達の邪魔をしているのは白石なのだ。

 自分は伊達のようにはなりたくない。大切な者を失いたくない。そんな独り善がりな考えが慟哭を引き出している。本心を、偽りの無い願いを。

「……わかった」

 だから、伊達がそう呟いた瞬間、自らの胸が引き裂かれるような思いを抱いた。聞きたかった答えのはずなのに、伊達にそう答えさせたことが何よりも許せなくて、自分の正義もどこかへ行ってしまったのだと悟って。

 ならばせめて、必ず大河原圭介を取り戻す。伊達の想いを犠牲にした願いを、絶対に叶えてみせる。

「ありがとう……バレット」

「失いたくない何かを守りたい。失ってしまった僕には果たせない願い、それに手が届くのは、まだ失っていない奴だけだ」

 ――失ってたまるか。

「……もうすぐホールドアだ。ここから先は一人で行け。俺は奴らを引き付けて足止めする」

「大丈夫なのか? 勝てる気がしないんだろ?」

 勝てる気はしない。身も心も擦り減って、今にも無くなってしまいそうなほどに怖い。

 ――成し遂げる。それでも、絶対に成し遂げてみせる!

「だから行け! バレット!」

 立ち止まり、伊達に背中を向ける。足音が近づいてくる。駄目だ、震えるな、怯えていると思われるな。

「…………」

 伊達の足音が遠ざかっていく。ああ、ようやく行ってくれた。これでもう、強がる必要はない。

 ここから先は臆病に、だけど大胆に。

 ヒーローに憧れて正義を気取り、しかし現実を知り、燻っていた。かつての正義はすでに持ち合わせていない。

 それでも、

「いたぞ、裏切り者だ!」

「バレットの姿がない……? どこへ行った!」

 集会場で顔を合わせた《正義の体現者》のメンバー、総勢十三名。その全員がオモチャを持っていて、白石を狙っている。

 それでも、

「バレットはいないぜ? なぜなら――」

 それでも――!!



「俺がお前ら全員、ぶっ潰すからだッ!! その腐った正義こんじょう、叩きのめしてやるッ!!!!」



 一歩だって、退くわけには行かない。


 ◆


「なに……? 白石小太郎が、逃げるのをやめた? バレットが姿を消した?」

 舞い込んだ情報に翻弄されるのは《正義の体現者》のリーダー、大河原圭介。その後ろを走りながら聖は、聞こえた情報に首を傾げる。

「伊達先輩がいなくなった……って、どういうことだろう」

「シライシさんが逃げるのをやめた、というのも気になるところですよね。何か目的があるんでしょうか」

 聖とイヴがそうして疑問を口にし合っていると、前方でまた大河原が、

「……また逃げ出した?」

 そんなことを口にする。

 一体、何が起こっているのか。

「宮城さん、貴女にも教えておきましょう。どうやら裏切り者が逃げるのを止め、オモチャを持って反抗してきたが、劣勢と知るや否や再度逃げ出したそうです。それと、やはりバレットの姿が見えないと」

「……被害は?」

「? 被害でしょうか? ……今のところないそうですが。こちらが順調に、彼を追い詰めているそうです」

 それを聞き、やはりこの構図では《正義の体現者》の方が悪のようだと感じる。少なくとも、この人たちが掲げているのは正義とは言えない。

 しばらく無言で走り続け、夕日もほとんど沈んでしまった頃、ようやく先に追いかけていたメンバーと合流する。

「ようやく追いつきましたか……!」

「あ、リーダー!」

 彼らは路地の入り口に固まっていた。その人数は五人。後方での支援に徹しているようだったが、その表情は青ざめている。

「な、何かありましたか?」

「逃げていた白石小太郎が、また立ち止まって歯向かってきて……今度は、仲間を、手にかけました……」

 その言葉を聞き、聖はまた混乱する。

 手にかけた? 一体、白石小太郎とはどういう人物なのだ。いい加減にしてほしい、これ以上、聖を惑わすのは。

 他人の言葉に踊らされるのはもうウンザリだ。意を決して、その集団を押しのける。

「私が自分の目で確かめる!」

 ――して、地獄を見た。

 振るわれる剣尖には血が、振り回される鉄球には血が、路地の壁には血が、――その顔には、血が。

 悪鬼羅刹。一心不乱に《正義の体現者》を傷つけていくその姿は、聖が想像していたようなものではなく、どうしても、受け入れられなかった。

「へ、変身ッ!」

『Entertainment 〝Eater〟』

 止めなくては。こんなのは、間違っている。

 振り向いた彼――白石小太郎の目は、昏く光っている。まるで自分というものを見失いかけているかのような。

「は、はは、ほら見ろ。宮城さん、これが真実です。我らの裏切り者は紛れも無い悪ッ! さあ、彼を裁いて――」

「うるさい、黙ってて……! ……そのオモチャを渡して」

 聖を見る彼は、どうして、なぜ。そんな疑問に苛まれているようで。しかし、聖はそれに気付かない。

「ヒーロー……」

どうして、なぜ。そう問いたいのは、聖だから。

「許せない……けど、そのオモチャを渡せば、貴方を傷つけたりはしないから」

 その言葉を聞いた白石の表情に、涙が浮かんでいるように見えたのは、気のせいだろうか。

 どうしようもなく悲しくて、どうしようもなく間違っている。そんな気持ちになるのは、なぜだろうか。

 そんな感情を押し退けるように、白石のオモチャを奪おうと聖が肉薄する――。

「いいぞ、イーター! その裏切り者を、裁いてしまえ――ッ!」

 そんな薄汚い声援を背中に浴びながら。

 聖と白石が、激突する。


 ◆


 白石と別れた後、伊達はホールドアへは向かわず別の路地を走っていた。

「……悪いけど、失っても、守りたいものは守りたいんだ。僕だって譲れない」

 白石の悲壮を蔑ろにするわけではない。彼は彼の、伊達は伊達の守りたいもののために戦うのだ。

 しかし、そんな伊達の邪魔をする者がいた。

「おっと、行かせないよ。……彼の言うとおり逃げれば良かったのに、馬鹿だよなぁ、ホント」

「大和……!」

 一度は逃げ出したはずの大和が、伊達の前に立ち塞がる。

「ちょうどよかった。僕はお前に聞きたいことがあったんだ」

「へえ、なんだろうなぁ。アレかな、コレかな? ははっ、そうだ、二年前の脅迫事件のことじゃね?」

 そのふざけた態度と内容に、視界が真っ赤に染まる。

「いぇーい大正解。だよな、白石小太郎が語ったのは五年前の事件の概要、それとアイツらが二年前の事件を掘り返してるってことだけだ。二年前の事件の真相(ヽヽ)はまだわかっていない」

「……話が早くて助かる。二年前、脅迫文を僕の家に送り、そしてあの日、親父を殺したのは……誰なんだ」

 怒りを必死に抑え、今にも撃ち殺したくて仕方が無い衝動を、理性で押さえ込む。両手に握るモデルガンの引き金にかかる手が震え、カチャカチャと音がなる。

「大体はお前の予想で間違ってないよ。脅迫文をお前の家に送っていたのは大河原圭介だ。でも、それを指示したのは――俺だ。そしてもう一つの答え、お前の父親を殺した犯人だけど……」

「――――」



「アイツ、自分で死んだんだぜ?」



 視界が、真っ白になった。

「ふざ、けんなァ――――ッ!」

『Entertainment 〝Bullet〟』

 その銃口から、炎を纏った銃弾が放たれる。

「おいおい、落ち着けよ。嘘は言ってないんだ」

「黙れ、このクズがッ!」

 撃ち出した弾丸のことごとくが、巨大化したサイコロによって防がれてしまう。

「はははッ! 信じないならそれでもいいさ。伊達旭日はあの日、連続強盗犯を狙っていた。何度も煮え湯を飲まされてきた相手で、さらには脅迫文による焦りもあった。だからな、アイツ、その犯人を殺しちまったんだ! あっはははは! 笑えるだろ? 市民を守る警察がぁ! 犯罪を犯した奴とはいえ、人間を一人殺したんだァ!」

「黙れ、黙れ黙れ黙れ!」

 感情のままに撃ちだされる銃弾の数々。ある弾丸は雷を纏い、ある弾丸は風を纏う。無意識のままに装填インストールする銃弾の属性を変え、様々な手段で大和を殺そうとする。

「それでさぁ、そんな自分が許せないとか言って、アイツは犯人を撃ち殺した歩道橋から飛び降りて死んだ。誰も彼もが犯人と揉み合った際に突き落とされたと思ってるらしい。そんで、落ちる間際に犯人を撃ったんだ、って。でさ、もう一つとっておきがあるんだ。俺がこの話を知っているのはなんででしょぉおおおおかッ?」

 銃弾を防いでいたサイコロが爆発し、粉塵を撒き散らす。先ほどと同じ手段に、逃がしてたまるかと粉塵の中を彷徨う。

「答えは簡単。その連続強盗犯は俺の親父で、俺がその手伝いをするために潜んでいた現場の近くで見ていたからでした」

 声は背後から聞こえ、衝撃が伊達を襲う。ずっと走り回っていたせいで疲労していた肉体は、あっさりと崩れ落ちた。

 ――夢を見る。


 ◆


 ああ、ついに人を殺してしまった。警察官失格だ。

 何が家族を、市民を守るだ。犯人であろうと市民は市民。逃がすまいとして殺すなどあってはならない。

 もう二度と、家族に顔向けができない。許してくれ、あらゆる問題を残して死ぬことを。俺はもう、こんな自分に耐えられない。

 何もかもが無意味で無価値で、生きている理由すらも忘れてしまいそうだ。もしかしたらもう俺は限界だったのかもしれない。今も誰かが、俺が犯人を撃った瞬間を見ているのではないかと不安で仕方が無い。

 死んでしまいたい。死んでしまいたい。何もかもを捨てて、死んでしまいたい。

 違う、駄目だ。俺は過ちを犯した。でも殺さなきゃ。違う。生きなきゃ。家族を殺すために、違う、守るために。

 何を殺して、何を守って、誰を殺して、誰を救って、悪を殺して、悪を裁いて、殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して――。

「ああ、チクショウ……もう、何もかも気持ち悪りぃ……ごめんな、夜……お前だけは、お前だけは父さんのようにはならないでくれ……」

 こんなことを言えた義理ではないのだろうが、どうしても息子の幸せだけは奪いたくない。こんな薄汚れた手で願っていいものでもないのだろうが、お前だけは、殺しちゃ駄目なんだってわかる。

 だから、夜。

 ごめん、父さん、先に逝く。

 もう誰も殺しちゃいけない。だから、最期に自分を殺す。

 駄目な父さんでごめん。ごめん。

 ――――ごめん。


 ◆


「伊達旭日が死んだから、俺は大河原圭介に脅迫文を出すのをやめるよう指示した。……これが、お前の知りたがっていた二年前の事件だよ」

 薄れかけた意識の中で、大和の声が聞こえる。

「五年前の恨みを晴らすための嫌がらせ。その結果が二年前の事件だ。そして今、父親のように犯罪者を殺すお前を裁いて、大河原圭介の復讐は完成する。俺はお前が死んで、親父の仇を討てる。ハッピーエンド、ってわけな」

 今見た夢はなんなのだろうか。どうしようもなくドロドロとしていて、薄汚くて、血で塗れていて、悲しくなる。

「……お父さんは、僕に、誰も殺して欲しくなくて……でも、僕は、僕は……」

「そう、お前はたくさんの犯罪者を殺した。オモチャを使って暴れる犯罪者を、同じくオモチャを使って殺した。正義? 違うだろ、お前は紛れも無く〝悪〟だ。父親の血を継いだ、立派な悪なんだ」

 地面に倒れ付しながら、悔しくて悔しくて、溢れ出る涙を止められない。

 父親の守ったこの街を、市民を守りたくて、しかし父親の願いは守れなかった悪者。それが伊達夜という人間の姿。

 ならば一体、自分は何のために今まで戦ってきたのだろう。どんな手を使ってでもこの街を守るという覚悟は、脆く砕け散ってしまう。

 ああ、ああ、


 ああああああああ――。


 ◆


「無理だ、無理だ無理だ無理だ!」

 途中までは善戦していたと思う。しかし、やはり数の暴力というのは圧倒的で、すぐに劣勢に陥ってしまった。逃げ惑い、今に至る。

 そもそもどうして自分は逃げなければいけないのか。いつの世も、正直者は馬鹿を見るというが、この状況はそれなのか。

「もう、なんなんだよ……!」

 複数の足音が追いかけてきている。

 ああ、なぜだ。なぜなのだ。なぜこうなってしまったのだ。

 ただ街を守るヒーローになりたいと、そう願って、なぜ悪人にされなければいけないのか。

 何かおかしいのだろうか。街を守るためだと謳うのがそれほどまでに悪なのだろうか。もしそうなのであれば、白石が尊敬して止まない、川内市の二大ヒーローは悪だというのか。

 そんなはずがない。彼らは紛うかたなき正義だ。

 例えばこんな時、自分を助けてくれる。そんな、正義を体現したかのようなヒーローこそが、イーターとバレットなのだ。だがバレットは自分が逃がし、イーターは都合よくは現れない。

「あ、」

 転んでしまった。マズい、もうそこまで迫っている。

「いたぞ、あそこだ!」

「悪に、正義の鉄槌を――!」

 何が悪だ、何が正義だ。お前たちなんかに、ヒーローになる資格はない。

 ――だが、そうだ。勝てば官軍、負ければ賊軍という言葉もある。白石の主張は、ここで勝つことでしか通らない。負ければ単なる負け犬の遠吠えなのである。

 だから、立ち向かわねば。

 いかに自分が非力で、敵がどれほどの数であろうとも。

 ここで覚悟を決め、自らが正義であると証明せねば、報われない――ッ!

「クソぉおおおお――ッ!!」

 立ち上がり、己の武器を構える。それは、大河原から譲り受けたオモチャ。こんなものに魅せられて、大河原は暴走し、白石は夢を見たのだろうか。

「うぉぁああ!」

『Entertainment 〝Lancer〟』

 手にしたけん玉――剣玉を振るい、なだれかかってくる敵を屠っていく。殺さず、致命傷を避けつつも、しかし確実に一人ひとり戦闘不能に追いやっていく。

 戦える。まだ拙いけれど、戦える。

 正義のヒーローになる。いつか子どもの頃に思い描いた夢。大人になって、力を得て、ようやく叶うと思った夢。

 この場で立ち塞がる敵を倒し切った時、白石を取り戻し、ようやくその夢を叶える為に戦えると思っていた。それを、

「あ、」

 振り返ったところで、完全に見失ってしまう。

 そこにいたのは、自分では到底敵いそうもない数の敵。そして、その中央に立つのは、

「……そのオモチャを渡して」

 ウワサに違わぬ露出度。痴女と揶揄されるほどに白い肌が晒されており、それが暗い路地にもよく映える。

 思ったよりも小さくて、しかし圧倒的な貫禄、存在感。全身を、黒を基調とし、紅いラインの入った衣装に包む少女。腰周りには例の変身ベルトが存在している。そして目元を多い黒い包帯に、その奥から覗く炎揺らめく二つの眼。

 これこそが、この川内市を守る――、

「ヒーロー……」

 なぜここにヒーローが……もしかして、白石に加勢しに来てくれたのだろうか。そう思うには、無理のある言葉。

 オモチャを渡せ。つまるところ、このヒーロー――イーターは、自分の敵としてここにいる。

 周囲には自分が切り裂き、負傷した敵が。自分の持つ剣玉は、その鉄球が、剣先が血を帯びている。

「許せない……けど、そのオモチャを渡せば、貴方を傷つけたりはしないから」

 なぜだ。お前がその正義を向けるのは自分ではない、その後ろに連なる外道共だ。だというのに、なぜ――、

 その正義が、自分に振るわれる。

 ああ、ああ、


 ああああああああ――。


 ◆



『E――― ―――――t 〝B―――t〟』


『E――― ―――――t 〝――a――〟』



 ◆


 逃走劇が、終幕を迎えようとしていた。




後半の小太郎視点のところを加筆修正いたしました。(1/17)

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