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女子高生のオモチャ  作者: 三ノ月
第四章 アナタの手を
20/45

第○一八話 『正義の体現者』

書きたかった話だから筆が乗るッ!

というわけであまり時間を空けずに投稿。



「ヨル様……落ち着かれましたか?」

「ああ……ごめん、心配かけた」

 しばらくして降り立った駅にて、伊達は呼吸を整え、どうにか平時の様子を取り戻す。否、取り戻せてはいない。未だ腸が煮え繰り返るかのような憤怒は収まらない。

 だが、冷静に状況を考えられるようにはなった。そう自分を信じて考える。

 電車の中で聞いたあの声。その内容はまず間違いなく、あの事件の時と同じものだ。

 ――お前を見ているぞ。

 おぞましく、忌々しく。どこまでも、それこそ地獄にまで響き渡る怨嗟の叫び。

 何か手がかりはないか、と先ほどの出来事を思い出そうとするが、咄嗟のことで憶えていることなどほとんどない。そうして悩んでいたところに、

「……ん?」

 どこかから、紙飛行機が飛んできた。嫌な予感がしてその紙を開いてみる――と、そこには新聞の切り抜きで、

 ――お前を見ているぞ。

 ぞわり。

「ひっ……!」

 なんだ今の声。僕が出したのか。

 こんなにも情けない声が出るなどとは信じられなくて、つい別の誰かのものではと思ってしまう。しかしこれは、紛れもなく伊達の声だ。

 あの事件の恐怖が体に染み付いてしまっている。このままでは伊達は、恐怖と憤怒に押し潰され「そんなわけがあるかァ!」

 叫び、再び荒れそうになる心を鎮める。

 一刻も早く犯人を見つけねばならない。見つけ、裁き、そして殺すのだ。この先これ以上の罪を許さぬためにも。

 この紙飛行機はどこから飛んできた? 狙った場所に紙飛行機を飛ばすには相応の技術が必要ではあるが……まず、実現可能か不可かを考えるのではなく、それが可能な場所を探す。そして、駅の改札を出たところに、怪しい人影を見つけた。

「待て!」

 改札を抜け走り出す。だが人影も走り出しており、彼我の差は開いてしまう。それも当然か。伊達は病み上がりで、ロクにリハビリもしていない。する必要がない程度とはいえ、体力が落ちているのは確かだ。

「待て、待て! チクショォ――ッ!」

「ヨル様! 落ち着いてください、ヨル様ッ!!」

 本物だろうと、偽者だろうと。相手が伊達を狙っているのは間違いがなくて。そして過去の事件を知っているのは確かで。ただそれだけで、伊達が犯人を追う理由としては十分だった。

 駅からどれくらい走っただろうか。影を見失い、電柱に手を付「ひっ!?」左手を付いた場所には、

 ――お前を見ているぞ。

 明朝文字でそう書かれたポスターが貼ってあった。

 相手は嘲笑っているのだ。伊達の無様な有様を見て愉しんでいる。それがどうしようもなく惨めで、許せなくて、様々な感情がない交ぜになって――壊れていく。

 ああ、あぁぁああああ……!

 周囲を歩く人々が何事かと伊達を横目に見ていく。しかし手を差し出す者はいない。

 膝から崩れ落ち、地面に手を付く。這い蹲る形となり、あごから滴り落ちる汗が地面を濡らす。呼吸が荒くなり、動悸も速まり、視界がぼやけ



 ――お前を見ているぞ。



 頭上から言葉を投げかけられ、滑るように落ちて来た紙が視界に入った。

 ――お前を見ているぞ。

 ――お前を見ているぞ。

 ――お前を見ているぞ。

 ――お前を見ているぞ。

 ――お前を見ているぞ。


 ◆






 お前を、見ているぞ。






 ◆


「失礼!!」

「うぉう!?」

 目的もなく散歩を続ける聖の前に、突然三人の少年が現れた。その代表と思しき少年がずい、と前に出て、

「貴女は、宮城聖さんですか? いいえ、そうですよね?」

「え、あ、はぁ? 聞いといてなぜ断言口調に……」

「答えてください」

 少年と称しはしたが、三人が三人とも聖よりも背が高い。街を守るために何度も戦ったことがある聖であっても、その壁のような威圧感にはたじろいでしまう。「お、おう」としか返せない自分が惨めだ。

「やはり、貴女が……。……もう一つお聞きしたいことがあります」

「な、なんでしょうか」

「貴女は、イーターなのですか?」

「――――」

 この時、聖の前に並ぶ三人は知る由もなかったが、聖は心の中で叫んでいた。

 ここでもバレたぁ――――ッ!?

 え、なんで、なんでこうポンポンとバレるの?

 色麻童は言っていた。隠すならもっと上手くやれ、と。しかしいくらなんでも、色麻に出会うまでの四ヶ月も謎のヒーローで通っていたはずのイーターの正体がアッサリバレるなど……。

 そこまで考えて、アッサリではないのでは、という答えに行き着く。

 彼らは偶然知ったのではなく、知ろうとして知った。正体を突き詰めようとして、全力でイーターを調べ上げたのではないか。

 もしそうなのだとしたら、彼らは、

「……貴方たち、何者……?」

 只者なはずがない。おそらくオモチャ使い。こうして聖の正体を調べて来たところを見ると、もしや、闇討ちか。

 代表格らしき少年が、その口角を上げる。

「その問いを待っていました、イーター。我らは、」

 両手を広げ、大仰に。興奮しているのか、前髪に隠れる両目は大きく見開かれている。

 その少年の後ろにいる二人も笑みを浮かべている。どうにも、見ていて気持ちの良いものではないのだが。

 次に少年が口にした言葉によって、そんなものはどうでも良くなってしまった。

「――我らは《正義の体現者ジャスティス・メイデン》。貴女のようなヒーローに憧れ、正義を信念に掲げる者の集まりです」

 自分以外の正義が、この街に生まれていたことに、聖は複雑な感情を抱いた。



「我々の目的は、今まで貴女が一人で成し遂げてきた都市の防衛、平和の維持。しかしまだ発足したばかりで……悪の抑止力となるには、知名度も、力も、何もかもが足りません」

「はぁ……」

 どうやら彼らは聖に敵意はないようだ。そう思ってからも、聖はなんとなく警戒を解くことができずにいた。

 ――だってぇ、あからさまに怪しくない? わざとやってんのか、この人たち。

 半眼で話を聞きながら、彼らの後についていく。見て欲しいものがあるとのことだが、一体聖に何を見せる気なのか。

「ねえ、いい加減教えてくれてもいいんじゃないですか? 私をどこに連れてく気よ。それとも、これって罠だったり?」

「ははは、冗談。この五ヶ月、一人で街を守り抜いたヒーローだ、発足したばかりの組織一個程度、貴女には造作もないことでしょう」

「それはどうだろ。私、言うほど強くありませんよ。力のある男の人を連れて来られたらきっと負けちゃいます」

「またまた、ご謙遜を」

 どれだけイーターという存在を偶像化しているのか。その実情は、ただ戦う覚悟を、この街を守りぬく覚悟を決めただけの女子高生だというのに。

「ヒジリさん、それはただの(ヽヽヽ)とは言いませんよ」

「うるさい」

 突っ込んでくるイヴをいなしている間も、彼らの話は続く。

「話を戻しますが……我ら《正義の体現者ジャスティス・メイデン》には決定的な力が欠けている。貴女のように街を守れるようになるまでは時間がかかります」

 少年は振り返り、実に良い笑顔で、

「そこで、貴女の手をお借りしたい」

「……えと、どういうことっすか」

「貴女はすでに一人のヒーローとして、この街で実力を知らしめている。抑止力の一つとして機能している。その貴女が我々に力を貸してさえくれれば、知名度も上がり、集団という数も意味を持ちます。だから、そう。我らが一個の抑止力として機能できるようになるまで、《正義の体現者ジャスティス・メイデン》の看板を背負って、悪に正義の鉄槌を下してはくれませんか?」

 右手を差し出される。

 その手を握るかどうか迷った。しかし、一つの違和感と、一つの疑問がそれを阻止する。

「その前に、聞きたいことがあるんだけど」

「はい、なんでしょう」

 聖は半眼をさらに細めつつ、

「この街は、私一人で守ってるんじゃない。もう一人いるでしょ、そっちはどうしたんですか? 声かけたりしたんですか?」

「――――。ああ、ブラッド・バレットのことですか……」

 先ほどからこの少年は、イーターのことを『一人で川内市を守ってきたヒーロー』といい続けている。しかし、今少年が口にした通り、バレットだってこの街を守るために戦っているのだ。その方法は少々過激ではあるが、それも彼なりの覚悟ゆえだと、今ではわかったつもりでいる。いや、人殺しを許したわけではないが。

 これが違和感。彼らは、まるでバレットがヒーローではないかのように扱っているのだ。

「それはどうして?」

「別に、失念していたわけではありません。ですが……最近、妙な話を聞くもので」

 少年は再度前を向き、歩き始め、

「彼、本当にヒーローなのですか?」

「――はぁ?」

 その問いに、思わず苛立ちを隠さぬまま発してしまう。

 聖にとってバレットは、相容れないながらもヒーローとして尊敬している存在だ。先輩とまで呼称し、共に戦った仲としてある程度の信頼も置いている。そんな彼が、ヒーローなのか、など、問うまでもない。

「当たり前、ヒーローに決まってる。少し間違ってるところもあるかもしれないけど、それでも、私よりよっぽどヒーローしてる」

「すみません、怒らせるつもりはなかったのですが……いえ、勘違いならばそれでいい。いや、それがいい。しかし、勘違いで済ませるにはあまりにも証言が多く」

 聖がだんまりを決め込むと、少年は勝手に先を続ける。

「ブラッド・バレットが、見境なく暴れている――我らのメンバーが何人も、口々にそう言うのです」

「なにそれ、アホくさ」

 バレットはどこか無鉄砲なところがある。街を守るためならば命すらも問わないと、本気でそう思っている節がある。それこそが彼の覚悟なのだと聖は考えている。

 そんな彼だからこそ、それは有り得ない。

「街を、市民を、そして、」

 誰のかは知らないけれど、彼の手の中にある『遺志』。

「それらを守るために人生懸けてるような人ですよ、あの人は。見境なく暴れるなんて、そんなオモチャに魅せられた子どもみたいな暴走――」

「我々は、貴女ほどに彼を知りません。そんな我々は、彼が危険だと判断している。きっと、貴女が言うような人間なのでしょう。川内市の二大ヒーローと呼ばれるくらいです。しかし、そうだと確信できるまでは、迂闊に近づけないのです」

「……私は大丈夫だって、確信できてるってわけ」

「ええ」

 なんだそれは、わけがわからない。

「彼に関する話は、実際に暴れているところを見たメンバーに聞いてみてください。着きましたよ。ここが貴女を連れてきたかった、我々《正義の体現者ジャスティス・メイデン》の集会場です」

 これが先ほど抱いた一つの疑問。その答え。

 彼らが聖をどこに連れて行こうとしているのかが気になっていたのだ。罠であればすぐさま変身できるようにと、右手は常にベルトを握っている。

 集会場と呼ばれる場所は、空き地にある大きな倉庫だった。人が二十人ほどは入りそうなスペースが存在し、そこに椅子や机が並べられ、何人かの子どもが座って話している。例えるならば、ファンタジーやゲームに登場しそうな、冒険者の酒場。

「うん? 何やら騒がしいな。何かあったのか?」

 少年が現れたことに気付くと、座っていた彼らは一斉に彼の元に集まり、こう告げる。

「大変です、リーダー……! アイツが、裏切りました!」

「アイツ、とは……まさか」

「はい、白石シライシ小太郎コタロウです……」

 どうやら何かトラブルがあったらしい。

 というか、裏切ったって……大丈夫なのか、この集団。

「すみません、イーター……いや、宮城さん。招いて早々、お恥ずかしいところを」

「いいえ、別に。というか、貴方たち恥ずかしくないところがないんですけど」

 見てて痛々しい。聖も人のことは言えないが、ここまで盲目的にはなれない。

「とにかく、早急にトラブルを解決します。皆さん、白石くんが何をしたんですか?」

 そうして開かれる緊急会議。聖の頭の中はバレットのことでいっぱいだった。

「バレットが――伊達先輩が、見境なく暴れる?」

 嘘だろう、デマだろう。そうは思うけれど、何か嫌な予感がする。

 彼がこの街を傷つけるような真似をするはずがない。しかし、そうせねばならなくなってしまったら。例えば、一ヶ月前の色麻との戦闘のような。

「いいや、アレは違う。あの時だって、暴れているのとは違う」

 きっと思い過ごしだ。バレットのことを何も知らない彼らが、憶測でモノを言っているに違いない。

「宮城さん」

 思考に耽っていると、唐突に少年に声をかけられた。

「身内の尻拭いをさせるようで申し訳ないのですが……早速、手を貸していただきたい。我ら《正義の体現者ジャスティス・メイデン》の名を背負い、懲悪してはくださいませんか」

「…………は?」


 ◆


「むぅ……退屈よな。トール、面白い小話などありゃせんか」

「あるわけなかろう。ずっとつまらぬ貴様の傍にいるのだぞ」

「そう言いつつ、離れて行かん辺り愛を感じよる」

「ほざけ」

 カカカ、と笑い、倒れる人影に歩み寄る。

「突然すまなんだ。このようなつまらぬ真似、妾とてしたくないのだがな」

「ひ、ぁ、何を……」

「そう怯えるな。まるで悪いことをしているかのような気分になるであろう」

 事実、悪いことをしているのだが。人のものを盗むのは悪いことである。

「とまあ、そんなわけで――主のオモチャ、貰い受ける」

「ああ、返せ、返せよぉ! それは俺の!!」

 ゆるりと。その視線を男に向け、

「黙れ、弱者が。奪われたくなければ敗北せねば良いだけのこと。妾は最初に言うたはず。妾が勝てば、そのオモチャを頂いていく、と。その申し出を受けたのは主、負けたのも主だ。文句は言わせぬ」

 では、と言い残し、少女――色麻童は泣き崩れる男を放り、その場を去る。

「はて、これで幾つだったか……とうに両手の指では足りなんだ」

「十八だ。貴様の記憶力は鶏並みか」

「ほう、鶏。それもいいな、かのヒーロー共と同じ鳥類だ」

 コイツ馬鹿だ、と言わんばかりにため息を一つつくのはトール。

 色麻が何をしているかと言うと、簡単に言えば頼まれごと、オモチャの回収である。

 先日、好き勝手暴れてしまった負い目を、少なからず感じていた。それを責め立てられる覚悟もあったのだが、あの男――多賀城はそれをしなかった。代わりに要求してきたのが、頼みごとを引き受けることだったのだが。

「なあ、トールよ。多賀城は、オモチャを集めて何をするつもりなのだろうな。あやつは大人。ロクに力も使えんはず」

「知ったことか。あの薄気味悪い男の考えることなど、知りたくもない」

「カカカ、トールにここまで言わせるとは……やはり、底の見えぬ男よ――」




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