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女子高生のオモチャ  作者: 三ノ月
第三章 裏側の片鱗
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第○一三話 『魔の手』

休み明け忙しくなり死んでいました。更新遅くなってすみません。


 存外人間味のある男だった。それが、聖が彼――ブラッド・バレット/伊達夜に下す結論だった。

 よって、さらなる疑問を抱くことになる。

「だから、なんで人殺せるんですかあの人」

「いい加減そこから離れましょうよヒジリさん……」

 だって、気になるではないか。

 あれだけ良識のある男が、どうして犯罪を犯した程度(ヽヽ)で人を殺すのか。

 日本という国はとかく犯罪に寛容だ。殺人は懲役云年などで、死刑になるケースが極めて少ない。だからだろうか。聖が、犯罪を犯した程度と考えてしまうのは。

「ヒーローは悪を裁く……けど、そっかぁ。そういえば、悪の怪人って、ヒーローに殺されちゃうんだよね。木端微塵に。そう考えると、バレットもやってることは同じなんだ」

 敵が、人間の姿をした悪だというだけで。

「それはそれで極論だと思いますけど……で? じゃあヒジリさんも、悪の怪人さんたちを殺すんです?」

「それはない。私はヒーローになりたいんであって、殺人鬼になりたいわけじゃないし」

 では、バレットは殺人鬼だろうか。

 こうして思考がループに陥る。自分は、バレットのことをどう思いたいのか。

 ――仲間。

「あー! わっかんねーっつのー!!」

 ふと思い出すのは先日のこと……。



 伊達と別れ間もなく。突如として地鳴りがし、直後に轟音が耳を貫いた。

 日常において聞くことの無い音。非日常がすぐそこに迫っているという事実。もしかしたらどこかのビルが崩落したのかもしれない。しかし、真っ先に考えられるのは、

「オモチャ……!?」

 もしやバレットが、などと一瞬考えたが、伊達はどれだけ強い相手だろうと、街を傷つけずに戦ってきた。そんな彼が、こうして自ら街を傷つけるようなことはすまい。

 であれば、別の誰かが。

 いつもならば、すぐにでも変身して向かうのだが、この日は違った。すぐそこに伊達がいるはずなのだ。さっきの今で、聖がイーターとして現れる。そこに伊達は、何か疑問を感じないだろうか。

 そうして生身のまま激震地へと向かう聖を、イヴが嗜める。

「ヒジリさん!? そのまま向かう気ですか!?」

 大丈夫。だって、バレットがすぐそこにいるんだから。

 バレットにとって、生身の聖は守るべき市民だ。多少の無茶を冒そうが、バレットが守ってくれるに違いない。

 ……なぜ、こんな考え方をしてしまうのだろうか?

 自らに問いながら、聖は先ほど伊達と別れたところまで戻ってくる。そこには野次馬が集まり、さらにその先には、

「バレット!」

 周囲に反響する声と何かを話しているようだが、聖にはよく聞こえない。

 しばらくすると声は聞こえなくなり、野次馬も散り始めた。そして、気づかれる。

「あれ、バレ――伊達さん」

 咄嗟に、今来たかのようなアピールを口にする。危ない、一瞬バレットと呼びかけた。

「宮城、さん……」

 なぜここにいる、とでも言いたげな顔だ。

 なぜと問われても、すごい音が鳴ったから、と言えばいい。

 聖は視線を破壊痕に向ける。

「……何ですか、これ」

「関わらない方がいい」

 すかさず伊達が返す。

 破壊痕は、何かに抉られたかのようなものだった。コンクリートの地面が、抉られている。いったいどれほどの力を加えられたらこのようになるのだろうか。

 ――ん?

 よく見れば、破壊痕の淵に、火花のようなものが飛び散っている。これは、……電気?

 聖は気づいていなかったが、この時、伊達の視線は聖に向けられていた。一心に破壊痕を観察する聖を見て、伊達が何を思ったのか。

 それを知らぬまま、再度二人は別れた。



「結局アレもなんだったのか。最近もやもやしっぱなしで辛い」

 唇を尖らせぶーたれる聖を見て、イヴは呆れてため息をつく。

 どうも嫌な予感がするのだ。バレットも、あの破壊痕のことも。

 これが正義のヒーロー特有の超直感であれば嬉しいものだ。

「……いや嬉しくないな、これ。ずっと胃が痛い思いしなくちゃいけないのは辛いって」

「ふむ。であれば、いっそのこと胃ごと取り去ってしまえばいい」

「あーなるほど。ってそんなことできるかッ! ……ってうわぁアンタ誰!?」

 脅威の二連ノリツッコミを決めて見せた聖に、その人物は獰猛な笑みを浮かべた。

「カカカ、その鳴きっぷり、随分と活きの良い魚である。ん? 魚は鳴かぬか」

 その人物が、羽衣(ヽヽ)を振り、挨拶とでも言いたげに歩み寄ってくる。

「まあ魚であろうと鳥であろうと構わぬ。はて、どうした? 豆鉄砲でも食らったか。とすると、主は鳩か!」

 聖が呆けていると、また豪快に一笑いし聖を置いてけぼりにする。なんだこの娘。

 見た目にして齢十三程度だろうか。セーラー服に身を包みながら、放たれる古風な雰囲気のせいで、むしろ聖より年上なのではないかと錯覚する。事実年上なのかもしれない。

 何より目を引くのは、まるで童話に出てくるままの天女の羽衣――のようなものだ。重力に逆らいふわふわと浮かぶそれは、普通であれば在り得ない。

 つまり、オモチャ――、

「おっと、待った。変身するでないぞ、イーター」

「な……っ」

 バレている。

 聖の正体を知っているオモチャ使い。これまでに正体がバレたのは大崎みぞれ、そして栗原晴之のみだ。なのになぜこうもボロボロと……!

「ふむ? 正体がバレているのが不思議で仕方が無いといった顔であるな。よい、特別に教えてやろう」

 唐突に現れ、唐突に突きつけ、唐突に笑い出す。

 そんな古風な少女が、言った。


「あのな、正体隠すならもっとマトモに隠せよ」


 そんな、先ほどまでの雰囲気はどこに行ったのかと突っ込みたくなるような口調で。

「……? ……!?」

「まず第一に、主は街中で幾度となく変身している。人々の目に留まらずとも、いざ正体を見ようと目を凝らせば簡単に捕まえられるものよ」

 そういえば、と。確かに聖は、変身する時は周囲に人がいないかどうかだけを確認して、遠くから見られている可能性を考慮していなかった。

「次に、だが。体格、声、口調。すべて主と一致する。今こうして顔を向き合わせ、それを確信した」

「……だ、だったらなんだっていうの」

 案外謎のヒーローというのも、呆気なく終わってしまうものだな、なんて場違いなことを考えつつ、聖は恥ずかしさから死にたくもなっていた。

 ああ、こんな小さい娘に。自分より小さな娘に正体がアッサリ見破られるとは。

「まあ、そんなことはどうでもよい。妾の用はイーターには無い」

「は? どういう――」

 ふわり、と。

 羽衣がその姿を変え、少女の右手に握られる。それは俗に『ピコピコハンマー』と呼ばれるものであり、

「言い忘れておった」

 なぜか、放電していた。


「――妾の名を、とくと聞け」


 一振りで、聖の視界が消滅した。


 ◆


「何が起こってんだよ、これ!!」

 バイトも放り出し、出せる全力を持って疾走するのは伊達夜だ。

 地鳴り、そして轟音。いずれも前回と同じである。だが、それによってもたらされた結果が以前とは異なった。

 まず、破壊の規模が違い、被害が違い、脅かされた市民の数が違う。それだけでも十分に怒り狂う事態だが、それ以上に、

「急に曇り始めやがった……!」

 今日の天気予報は一日中晴れである。しかし、見上げれば視界は暗雲で埋め尽くされる。

 もしかしたらこの曇り空は何の関係もないのかもしれない。だが、ビルが半壊し、瓦礫に埋もれる人々がいる現状を楽観視することなどできない。

 これもあの少女が引き起こしたのだろうか。名を宮城聖とする、あの一見無害そうな少女が。

 否、見た目などアテにならない。聖がオモチャ使いであることは確定だ。そして、この惨状を引き起こした可能性が高い。

 だとすれば、

「それで、裁く理由としては十分すぎる――」

 伊達夜からブラッド・バレットへ。その転身もすでに慣れたもので、作業には二秒とかからない。

 右手にずっしりとした重みを感じつつ、依然疾走を続ける。

 そして、爆心地に到達する。

「ここで、何かが起こったんだ」

「そのようですね。ダイナマイトがあちこちに仕掛けられていた……そう考えても不思議ではないほどの有様、許せません」

「ああ、許せるか。……それが、女の子だったとしても」

「……ヨル様、そのことなのですが、」

 イヴが何かを言いかけたが、その声は更なる声に阻まれた。

「おお、待っておったぞ、ヒーロー」

「その声……この前の!」

 古風な口調。しかし幼さを感じさせる声音がミスマッチな、破壊者の声。

 つまり、宮城聖がそこに――、

「……ふむ? はて、ヒーローというのはそのような顔を好むのか。二人揃って同じ顔をしよる。残念ながら鳩の枠は埋まっておってな、主は……そうだな、カラスにでもなっておれ。ちょうど黒ずくめだ」

 ――いなかった。

 代わりにいたのは、セーラー服を着ているが、パーカーは着ていない、聖よりも小さな少女であった。その右手にはピコピコハンマーが握られていて、それがバチバチィと放電している。

 まさか、コイツが。

「彼奴らはヒーロー二人の仲違いを愉しみたかったようであるが、妾としては味気ない。なに、要は目的を達しさえすれば文句もあるまい。そんなわけで、参じた所存だ。何か質問はあるだろうか」

「大有りだこの野郎ォ――ッ!!」

 コイツが、街を破壊した、張本人!!

 つい先ほどまで聖を疑っていたというのに、その怒りは瞬時に少女に向けられる。

『Entertainment 〝Bullet〟』

「チッ。変身する必要の無いヒーローは厄介であるな。変身させなければいいイーターと違い、先手を取らせねばなぬ」

 銃弾が放たれる。それは少女の右手を掠り、地面にめり込んだ。

「イーター……?」

「そうよ、主と並ぶこの川内市の二大ヒーロー、イーターよ。先ほど挨拶がてらぶっ放したのだが、瓦礫に埋もれてどこかへ行きよった。途方に暮れていたところに、主が現れた。ナイスタイミング、ブラッド・バレット」

 イーターが瓦礫に埋もれている。そんな信じられない話を聞かされ、待てよ、と考える。

 コイツは言った。「変身させなければいいイーターと違い」――もしや、変身前のイーターを?

 イーターの力の根源は変身ベルトにある。つまり、変身しなければイーターは一介の人間に過ぎないわけだ。逆に言えば、変身さえさせなければイーターは無力――、

「ふむ。頭の回転は存外遅いようだ。その結論には、少なくともカラスのくだりで辿り着くべきであろう?」

 ああ、そういえば言っていた。

 ヒーローというのは、二人揃って、鳩、カラス。

「こうして名乗るのも主で二度目だ。とくと聞け。そして地獄の淵でこの名を叫べ」

 少女の右腕が唸る。



「――色麻シカマワラベ。《大人達アンチルドレン》に使われる身ではあるが、神に等しき力を持つ者よ」



 視界が、白く染まる。





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