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女子高生のオモチャ  作者: 三ノ月
第一章 ヒーローの誕生祭
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第○○一話 『聖の好きなモノ』

とある特撮番組の影響を受けています。ご注意ください。

 朝起きると、枕元にソレがあった。


 ◆


「お母さん、あの、お母さん?」

 寝癖もそのままに、少女は慌しく階段を駆け下りながら母を呼ぶ。

「……どうしたの、休みの日なのに」

 母の言葉には、「休みの日なのにこんな早起きして珍しい。どうしたの」という意味が込められていることには気づいたが、早起きして何が悪い、などと突っ込む気にもならず、少女は問いかけた。

「ねえ、お母さん、私の好きなもの知ってた……!?」

「んん? いきなりなんのこと?」

「えっと、……枕の横に、何か置いた?」

「んぁー、置いた置いた」

「!」

 ならばやはり、アレは母からのプレゼント――、

「目覚まし時計。アンタ休みってなるとすーぐダラダラするから、せめて早起きだけでもって。まさか本当に早起きするとは思わなかったけど。というか、目覚まし鳴ってすらいないんじゃないの?」

 ――違う?

「クリスマスプレゼントに目覚まし時計をチョイスする、そのセンスの無さ……」

 ああ、確かに。母はあのように気の利いたプレゼントを用意するような人間ではない。どちらかといえば、『わざわざクリスマスプレゼントとして渡す必要が無いもの』をあえて渡してくるような人間だ。目覚まし時計、なるほど、母らしい。

 では、誰が?

「……どうしたのヒジリ。なんかあった?」

 少女があまりにも困惑するものだから、母が思わず心配してしまう。

「うーん……なんでもない」

 少女――宮城ミヤシロ聖は、興奮冷めやらぬ様子で、階段を駆け上がり、自分の部屋へと戻った。



 日付で言えば十二月二十五日。世間ではクリスマスと呼ばれる、聖にとっては単なる冬休みのうちの一日である今日。

 聖が、いつに無く早くに目が覚め、「もったいない、二度寝しよう」と、再度寝転がった時。その視界にソレが移った。

「……、……? ――!?」

 そこにあったのは、聖が好きで好きでたまらない、特撮ヒーローの変身ベルト、のようなものだった。

「えっ、あれ、なんで!?」

 聖は、特撮番組の仮面ヒーローが好きであることを周囲には隠している。それは家族であっても例外ではない。特に理由はないのだが、なんというか、女の子がそういう趣味を持っているというのは、あまり褒められたものではない、という偏見が聖の中にはあった。

 ゆえに、一人でこっそり楽しんでいる。

 その過程で、「変身ベルト、買いたいなぁ……」なんて思うこともあったが、買ってしまえば簡単に家族にバレる。そうして諦めていた。

 のだが、

「変身ベルト……だ、これ。でもなんかおかしいな、見たことないや」

 自慢ではないが、聖は昭和から平成にかけて、すべての仮面ヒーローを見た。だが、その記憶と照らし合わせても、今聖が手にしているベルトは見覚えが無いのだ。

「なんのヒーローのだろ……カッコいいけど」

 ――ふと、疑問が湧いた。

 今日はクリスマスだ。となれば、これは当然クリスマスプレゼントの類だろう。

 ならば誰がこれを、聖のために買ってくれたのか。

 聖は高校一年生、十五歳だ。サンタさんがいるなどとは信じられる年齢ではない。そして、こういった場合真っ先に候補に挙がるのは両親だ。

 さらに、父は出張で家にいない。帰ってくるのは次の夏らしい。

「……お母さん?」



 誰なのだ。

「お母さんでもなければ……えっと、本当に誰?」

 改めてベルトを手にとって、観察する。

 やはり見たことの無いデザイン。赤を基調とし、黒いラインが入るバックル部分。一見、扉のようにも見えるが、開く様子はない。

「…………」

 腰に当ててみた。

「うぉおお!?」

 すると、テレビで見るようにバックルからベルト部分が延び、腰に巻きついた。しかもサイズはピッタリである。

 これではまるで、本物の――、


 ◆


 クリスマス、その夜。

 クリスマスというイベントも終わりが近づき、町が徐々に寂しさに包まれていく。気温は段々と下がっていき、道行く人たちは手を繋いだり、キスをしたりと、思い思いの方法で暖を取る。その中には当然、一人で寒さを耐えしのぐ者たちもいた。

 そのうちの一人が呟いた。

「あー、つまんねえ」

 そして、鞄から何かを取り出し、それを地面に放った。

 瞬間、ゴウッッッ!!!! と風が巻き起こり、――二メートルほどの何かが現れた。

 それは玩具。それはプラモデル。それは、戦闘兵器。

 人間大となったプラスチックの玩具は、本来動くはずのない溶鉱炉を動かし、唸りを上げる。動力を得たプラモデルが跳躍する。

 着地点にはカップルがいた。何が起こったのか、と自覚する前に、そのカップル二人は押しつぶされてしまった。単なるプラスチックの塊に、だ。

 ――否、それはもはやプラスチックなどではない。存在するはずのない合金で作られた、確かな兵器だ。

 そんなものが、雪の降り始めた都会で暴れ始めた。


 ◆


 伊達ダテヨルは、クリスマスの夜もアルバイトに明け暮れていた。彼女が欲しいとか、思わないわけではない。しかしいないものはいないし、できないものはできないのだ。ならばせめて、クリスマスにバイトを入れることで『予定がない』という状況を脱したいという、せめてもの世間への反抗心だった。

 そんなバイトを終えて帰路に着き、寒い寒いと言いながら大通りを歩いていた。

 ふと、聞きなれない音を聞いた。地響き、とも取れる重々しい音。そしてそれは断続的に響いている。

 少し遠いか。しかし、その音は徐々に近づいてきている。

 なぜだろう、嫌な予感がする。

「……爆発音?」

 そうだ、日常に存在しないはずの音。感じていた違和が、爆発音に合致する。

 ふと、鞄の中にある重量感に意識を向ける。

「……よし」

 伊達は、その進行方向を爆発音源へと向けた。



「きゃぁああああ!」

 プラモデルは、背中にあるジェットによる推進力で、自由に空を飛んでいた。

 時に長刀を振るい、時にライフルを構えるそれは、大きさこそ違えどアニメに出てくる兵器そのものであった。

 そして、一見無差別に見えるプラモデルの攻撃対象だが、よく見てみればそれはカップルに限定されていることがわかる。被害自体はカップル以外にも及んでいるが、それは余波をモロに浴びたことが原因だ。

「なんだ、これ」

 雪が降る聖夜、人間大の玩具が暴れ、町を壊している。

 非現実的な事象に、伊達の思考が一瞬だけ止まる。再度、その意識が鞄の中の重量感に向く。

 眼前で暴れるプラモデルに比べれば、なんと頼りがいの無い、小さな存在。しかし、たった今、伊達が頼れるものといえばこれだけなのだ。

「あっはっはー……クリスマスぶち壊しぃ。別にイチャイチャすんのは構わないんだけどさ、目障りだったりマナー守らなかったりクソウザいだけだったりするのはさすがに消えてくんね?」

 声がした。それはやけに耳障りで、しかし内容には共感してしまう。

「何、してんだ、あんた」

 気づけば声をかけていた。

 口ぶりからして、あのプラモデルを操っている人物ではないだろうか。この火中の中、ただ一人だけ余裕綽々と笑っている。

「んぁ? んだ、テメエ」

 声の主が振り向くと同時、プラモデルも伊達の方を向いた。どうやら間違いないらしい。

「んー、いや、誰でもいいわ。――殺れ」

 男がそう言葉にした瞬間、プラモデルの標的が切り替わった……気がした。顔だけでなく、体ごと伊達の方に向き直したプラモデルが、そのライフルの銃口を伊達に向ける。

「え、あれ、マジ?」

 殺される。そう直感し、しかし体は動かない。

 咄嗟に右手が鞄の中に伸びる。間に合わない。

「死ぬ」

 頬から零れ落ちるのは汗。こんなにも寒いのに、全身は汗でまみれている。

 ついに、銃口から光が放たれ――、


「――――」


 何も起こらなかった。

 気づけば伊達の目の前には人影があり、その者が銃口から放たれた光を防いだ、ように見えた。

 光は跡形もなく消え、しばしの静寂が町を包む。


「――力に溺れ、人々に仇なす者よ」


 その声は、やけにたどたどしく、お世辞にもカッコいいとは言えない。むしろ、可愛いに分類されるものだった。

 その声で続ける。


「その野望ユメ、オレがぶち壊す!」


 声にミスマッチな一人称。よくよく見れば、可愛らしい声の主は、背丈も小さく、少女と言って差し支えの無い背格好であった。

 ただ、異常に露出度が高い。

 ばさり、と翻るマントの奥に見えたのは、黒を基調とした、赤いラインの走るタンクトップにホットパンツ。大部分の白い柔肌は曝け出されており、外でこんな格好をするなんて頭がおかしいのでは、と思わずにはいられない。

 その上今の口上だ。これは、そう、中二病。

 ……と、切って捨てるところだが、たった今、この少女はプラモデルが放った光を打ち消してしまったのだ。単なる中二病と言うのは違う。

 これは、力の伴った中二病。

 伊達は、鞄の中にある確かな感触を握り締め、呟く。

「――ヒーロー」

 その言葉に、少女は振り向き、ニヤリと笑った。目元は包帯のようなもので隠されていてよく見えなかったが、おそらく美少女に分類されるであろう容姿だ。

 少女が叫ぶ。


「さあ、喰らい尽くすぜ!」


 ◆


 本物の――変身ベルトのようではないか。

 そう思ったが最後、聖は試さずにはいられなかった。

「ふぅー……」

 足を肩幅に開き、左腕は右肩方向に伸ばし、右手は腰に添える。そして、

「――変身!」

 そこから先は、まるでベルトに導かれるように手が勝手に動いた。

 腰に添えていた右手がバックル部分へと伸び、そしてそのまま左へ抜けていく。左腕はそれに連なるように袈裟方向に振り下ろされた。その際、バックル部分の扉が開く。

『Entertainment 〝Eater〟』

 宙に浮かび上がった文字列が聖の体を包んでいく。

 そして、黒を基調とした衣装に身を包んだ聖が現れる。

「うわ、うわうわうわ」

 変身、してしまった。どういうことだろうか。これ。

 これ、本物の変身ベルトだったということだろうか。

「本当に、本物……!?」

 どうやって元に戻るのだろう、と思ったら、バックル部分の扉を閉じればいいだけだった。そうして元に戻った聖は、


「お母さん、出かけてくる!」

「待って、パジャマのままどこ行く気!」


 目覚まし時計のベルが、けたたましく鳴り響いた。




 私服などほとんど持ち合わせていない聖は、学校の制服であるセーラー服に、厚手のパーカーを上に着て外に出た。

 ベルトは、セーラー服の上に付け、パーカーで隠している。

 聖が向かう先は、人がほとんど訪れない寂れた公園だ。何をするか、と問われれば、それを探しにいくのだ。

「単に、いろいろ試したいだけなんだけど」

 実際に変身して、何が変わるのか。ただ見た目が変わるだけなら拍子抜けだ。せっかく変身できるのだから、何か凄い力が使えたりしないものか。

「ああ、わくわくする」

 それも当然だろう。だって、憧れのヒーローのように変身できたのだ。戦えるだけの力があることを確認したら、正義を為そうとさえ思う。

 しかし、そう簡単に悪は見つからないだろうけれど。

「まあ、平和だしなあ、世界」

 実際に平和なのは世界の一部であり、また一部では内紛などが相次いでいるのだが、聖にとってそんな遠い国のことなんか関係ない。あくまで、身近に悪が現れないかと考える。

 しょせん女子高生。正義に憧れても、その程度のものでしかない。

 さて、まずは必殺技を試してみよう。キックやパンチ、はたまた剣か。聖のベルトは、どのような必殺技を持つのだろう。

 そんなことを考えていると公園に着いた。そこには先客がいて、

「おっ?」

 ――その人物は、大きな本を手にしていた。










視点があっちゃこっちゃ行って読みづらいことに気づいた。もう少し構成を工夫します。

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