2:五人
僕は
恐る恐る
扉を
開けた。
我楽多ハウスに
風が吹き込み
舞った埃を
月明かりが照らす。
今日は特別
明るくて
照らされた埃は
きらきらと反射した。
一歩
踏み出すと
床が
ぎしっ
と音を立てた。
そこは
かつての僕の
記憶のままだった。
学校で捨てられた
教員用の大きな机。
5つの木製の椅子。
今となっては
ゴミでしかない
工作のペン立て。
貯金箱。よく広場で遊んでいた
サッカーのボール。
野球のバット。
どれも
確かに見覚えがあった。
ただ
手に取ると
何かが変わっていた。
それは
偽物であるかのように。
低い天井。
狭い床。
すぐに
変わったのは
自分だと気付いた。
大きいと感じていた机も
自分サイズのコップも
ミニチュアのように
小さく
僕の心には
あの頃の
無邪気さなんて
一粒も
残っていない。
ふと、見下ろすと
白い表紙の
分厚い本が
月明かりに
ぼうっと
光っていた。
まるで
何かに強いられるように
僕は本を開いた。
実際には
中身は
本ではなくノートで
裏表紙に
女の子の
丸っこい字で
『きまりごと』と
書かれていた。
〈きまりごと
1、このノート、
また
ひみつきちのことは
5人いがいに
はなさないこと。
2、きめられた
じゅんばんどおり
できるだけ早く
次の人にわたすこと。
3、じゅんばんの人は
このノートを
もちあるくこと。
学校において来ない!
4、5人は
ケンカをしないこと。
いつでもなかよし。
5、これらがまもれない人は
なかまとは
みとめません。〉
その下には
5人の名前が並んでいた。
〈二年一くみ
たかはし けんいち
さいとう みか
いのうえ とうま
えんどう ゆうな
まつい のぼる〉
確かに三番目の名前は
七歳の僕
井上冬真が
書いた字だけど
僕の記憶の中に
こんなノートは
残っていなかった。
四番目と五番目の
名前の間に
不自然な間隔があり
小さな白い紙が
貼ってある。
不思議に思い
白い紙をめくると
〈かたやま はると〉
と丁寧に名前が
書かれていた。
しかし、
その上から
字を塗りつぶすように
黒い線が引かれていた。
かたやま はると
小さく呟くと
その名前は
不吉な呪文のようだった。