始まり
スーツの男は痛手を負い逃げる。普通の雇われボディガードなんかには負けられない。
冷たい風が吹く。短くなった煙草の煙が激しく靡く。
さっきのガキは眠っちまったから、心置きなく物申すことができる。
白河誠司。一人娘がいたはずのこの白衣を着たいけ好かない男の話は、吸血鬼は全て悪。ということだ。
口を開く。
「俺が言いてえのは、なんでもかんでも決めつけんなつーことだよ。そこの金髪の坊主だって悪かねえし」短くなった煙草を携帯灰皿に捨てて、コートの内ポケットから新しい萎びたタバコを取り出し、火をつける。
頭が空っぽになる感覚。集中するときのルーティーンだ。
「つまらないことを言いますね。本郷さん。私が吸血鬼に何をされたか知っているだろうに。この今、無害なうちに芽を摘み取ることの何がを悪いのです」
刀を振りかぶる男。俺は左手に影を束ねた。集めた影で迎撃する。
互いに距離をとる。
俺の左手には、今までのような曖昧な物ではなく明確に鮮明に確かな重みが生まれた。
銘は陰龍。あのガキの刀と同じ陰を銘に宿しながら、光り輝くひと振り。
薬が切れるまで、持ちこたえる。それさえ出来れば俺の勝ちだ。
そう
己にミッションを与える。明確なものが無ければ守れたかどうか分からないから。失ったか分からないから。
誠司が刀を振るう。それを陰龍で受け止める。
銘は徒花。自らの血液を吸う吸血刀。血を吸い力を発揮する。この男の作り上げた対吸血鬼兵装2号だ。吸血鬼にも多大なるダメージを人の身で与えることのできる。
出力調整のできない試作品を含めて全3本。
試作品の銘は桜花。人のみじゃ扱い消えねえ代物だが、吸血鬼なら扱える。
1号は伝承よろしく銀の弾丸だ。殺すには至れねえがまあ弱らせるくらいはできるかな
3号は誠司のつかったドーピング薬だが、これについては詳しくは知らない。ただし、時間制限はきっとある。
「じゃまをするなぁぁぁぁ」刀を振り回し叫ぶ誠司。今までの冷静沈着な彼と違う珍しい姿に面食らう。
そして、電池の切れた人形のように動かなくなった。
それを見てそこで寝ているガキどもに声をかける
「おい。起きろガキども。これから警察に来てもらうから、親御さんに連絡しろ」
そう言うと、ガキどもは目を丸くした。




