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本質

 引き抜いたはずの刀身は、実体のもたない影となって渦巻く。

 それは、己が本性を示す。その本性は、暴食で無食だ。

 影に切られ、殺された物は影と一体となり、喰われる。暴れるがままに、思うがままに。無意味に、無感動に。

 普段の食事において、何人の人が食べ物が生き物だったと、考えているだろうか。

 それほど多くはないだろう。

 考えないのは、無意味に死んだのと同義だ。死んだとしても、その死を与えた者がその物に感動しなければ、思いがなければ、問題提示をしなければ、その死には意味はなくなる。

 故に、影虎が与えるのは、死という称号ではなく、無意味という称号だ。

 自分の本性は目の前で悪を撒き散らす。 

 目を背けたくなる現状。惨状。

 背けないと誓ったのにも関わらず、そう思ってしまう自分の弱さに反吐が出る。

 刀を構える。目は背けずに、男を見据えて。

 最速で刀を振る。外さない距離。

 漆黒の影でできた刀身と対照的に紅く煌く実体のある刀身がせめぎ合う。

弾かれる。

互いの体が宙を舞う。

目は背けずにしっかりと相手を見る。

足が着くと同時に、駆け出す。

相手の方が格上なのだから、少しの隙でも突かなければいけない。

刀が踊る。草が飛ぶ。汗が飛び散る。

 ふと思った。なぜ、この男は僕を殺そうとしているのかと。面識はない。

 気が抜けた。必殺の剣が首筋に吸い込まれる。

 しかし、その剣先が少しそれて上着の肩口を掠める。

痛みが迸る。立っていられなくなる。

自分の弱さに命のありかを諦めたくなる。

どうせ一度死んだ身だと諦めたくなる。

そして僕は諦めた。

目の前に、煙草をふかした男が現れる。

また、他人に捨てた命を拾われた。

そして、軒並み僕を抜きにして話が始まる。

 「私の邪魔をするのかい。君はそれでも君は0課の人間かね」と言う。

 「おっさん。こいつは悪かねえ。悪いのはあんただよ」とタバコをふかしながら言う。

 「人聞きの悪い事を言うね。君は」と冗談でも聞かされたかのような口ぶりで答える。

 コートの男は、つまらなそうな口ぶりで顔で振り向いた。

 「おいガキ。逃げやがれ、こっから先は大人のお話だ」と言う。

 諦めた身だが、腹が立った。

 「うるさい。退け」と言おうとしたが、力が入らない。倒れる。

 あれ。近くに金髪の頭が見える。

 逃げきれなかったのか、すまないことをしたな。

 そうつぶやいて僕の意識は、影虎とともに霧散した。

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