願い
感じたのは、視線ではなく死線。ヒトが生み出した。死神に見られている気配。
すぐさま、倒れている金髪を引っ張りその場を離れた。
地面を抉る鉛弾。弾を打ち切り、弾倉を入れ替える音がする。
走る。死に怯え走る。逃げる。
逃げた先に夜のような色のスーツにアタッシュケースを持った白衣の男を見た。その組み合わせは、決して相いれず互が主張をする。目が痛くなる色。
男が口を開く。
「こんばんは」その響く低音が体を縛り付ける。
その声を合図に死神の手招きが消える。それに反比例するように心臓の動悸が加速する。
「そして、さようなら」白衣の中から拳銃を取り出し、引き金を引こうとする。
「待ちやがれ。おっさん」春のまだ冷たい風に、茶色の萎びたコートをはためかせた男が現れる。
「なんだ。君か。なんだい、私は仕事をしているだけなんだがね」拳銃をしまいながら白衣の男が問う。
「勝手に、部隊を派遣して試作品を持ち出して、何が仕事だ。お笑い草だぜ」男は言う。
「そうか。悲しいな。君も私の願いを汲んでくれないんだね」白衣の中から注射器取り出し首筋に指す。中の液体が男に染み渡る。
コートの男にスーツの人が襲いかかる。体術はほぼ互角。そして、白衣の男はアタッシュケースからひと振りの刀と血の入った試験管を取り出す。
刀の柄の試験管を入れた。すると、刀身が紅く染まる。死の気配。
「おい、さっさと逃げろ」僕は金髪を押して逃がす。影を束ね影虎を呼ぶ。
男はこちらを向いて振りかぶった。距離はあった。しかし、その距離は合ってないようなものに成り下がる。一瞬で距離が消える。右胸に一線が走る。迸る血液に男は顔をしかめる。白衣が紅く染まる。あんなもの人のしていい動きじゃない。
もう一度、やられたら死ぬ。その事実に背中が凍る。傷は塞がったなら行ける。このままなら行っても殺される。でも行かなきゃ自分で自分に殺される。自分に決めた誰かを守るという誓が己を死刑台に乗せる。
でも、光はあった。
しかし、使いたくはなかった。これは自分の「起源」「本性」「本能」だったから。自分の凶暴性を見せ付けられるから。
そんな自分が他人を助けると本気で言ったいるのかどこか誰かが詰るから。
その、本性を受け入れがたいと殻に閉じこもろうとする自分がいる。
受け入れなきゃいけないと叱る自分もいる。
ならば、使ってみようと試してみようと生き延びようとそれから考えようと言う楽観的な自分がいる。
だから、目をつぶる己の本性から目を逸らす。いけないことかもしれないけれど楽観的な自分に身をゆだねる。
影虎を鞘にしまう。白衣の男が切りかかる。見える。太刀筋が。血に塗れた男の目が。
鞘にしまった影虎で弾く。男は驚いた顔をする。男は蹈鞴を踏む。
叫ぶ。怒りを。誓を。望みを。行きたいと。行かなきゃと。生きたいと。生きなきゃと。想いをのせて。月夜に叫ぶ。
「影となり全てを喰らいつくせ。カゲトラァァァァ」影虎を引き抜く。刀身は全てを飲み込み体内に引きずり込む闇となった。




