出会い
僕は、吸血鬼である。
これは、これから語られる僕の人生において最も重要な部分である。そして、最も普通とはかけ離れた部分であることには、間違いないだろう。
しかしながら、それにおいて、僕がそこらへんからとっ捕まえてきたごくごく普通の一般人と比べても、変わっているところなんて、肉(特にレバー)を年に常人のおよそ2倍程度消費したり、100m走が異様に速い、そして夜が好きなくらいの物で、大蒜が食べられなかったり、十字架や聖水などに弱かったり(これは見せられたら吐き気を催すくらいで死んだりはしない)、日光を浴びると体が灰になってしまったりはしない。
これらのことを頭に入れて、この物語を聞いて欲しい。
時刻は、午前6時。そして、曜日は月曜日だ。4月の上旬の少し肌寒い春である。健康な人間諸君は朝の支度をしていたり、まだ睡魔と格闘中の者もいるような時間である。そして、健康な吸血鬼である僕もまたそんな者達の仲間であった。吸血鬼は基本的に100%夜行性なのだ。ベッドから出たくない衝動とは裏腹に遮光カーテンの隙間から降り注ぐ日光は朝であること。そして休みは終わりを告げてくる。仕方がないここは、学生の本分を果たすためベッドからでなくてはならない。ベッドの中と外の気温差に凍えるようにして、僕は自分の部屋を出た。
廊下を経た先のリビングでは、父親が全身をシワ一つないスーツを纏い新聞を見ながらモーニングコーヒーをすすっていた。そして、僕に気が付くと新聞を閉じ、コーヒーカップをテーブルのソーサーの上に置いて
「レン、おはよう」と挨拶をする。この一挙一動が英国紳士のように様になっているのだからかっこいい。
「父さん、おはよう」と若者のみに許された爽やかな挨拶を返す。そこで、食器のカチャカチャした音が聞こえる。この数秒後に見える人を経験則を持って予想し、言葉を用意する。
「母さん、おはよう」ドアが開くのとのタイムラグを極力削ぎ落としたこの挨拶は母を驚かせた。
「ああ、レンおはよう」とすこし上擦った声で返される挨拶に笑いを家庭に呼ぶ。
ひとしきり笑い終えたら朝食である。メニューはご飯にベーコンとソーセージにわかめの味噌汁だった。
「今日から高校2学年だな。レン。クラスには仲が良い友達はいるのか」と父さんの問いに対して、僕は、
「2年生からクラス替えなんだよ。大学受験組と就職組に分かれるんだってさ、だから学校にはいるけどクラスメイトになるかまではわかんない」と返す
「そうか。まあ精進しなさい」と厳格な父さんらしい発破のかけ方である。
味噌汁でおかずとごはんを流しみ「ごちそうさま」の合図で部屋に戻った。
今日の準備である1年最後のSHRによると持ち物はバックと筆記用具だけで事足りるらしいので、バックにはスマホと筆記用具をツッコミ家を飛び出した。ここまでで分かっているとは思うが、吸血鬼は人間社会に溶け込んでいる。そして、人々を襲うのだとはならない。よく創作物で血の代わりとしてトマトジュースを飲んでいるが重要なのは鉄分とタンパク質であるためトマトジュースじゃ役不足だ。
学校につきクラス分け表を見る。知り合いは4人程度か1年のクラスメイトであまり親しくなかったやつも含めれば7人か。まわりを見れば一喜一憂とそんな感じだ。今日一日の学校生活では特筆するようなこともなかったので割愛させてもらう。
時間は飛んで午後9時良い子は寝ている時間帯である。しかしながら、良い吸血鬼の子はそうはいかない吸血鬼は夜の王と呼ばれている。なので夜の外の空気を吸い自分が吸血鬼であるというアイデンティティを証明しなければならない。そんな業を背負っているため母親に断りを入れた。
「ちょっとコンビニ行ってくる」母は「あまり早すぎないようにね」と言った。普通は遅すぎないようにねと言われるのだろうが、吸血鬼はちょっと違う夜の空気を吸うのが2日ぶりな僕はいつもよりちょっと多めに補給しなければならないからである。
久しぶりの夜だ。ワクワクする。例えるならクリスマスプレゼントを開けたときのそんな感覚。
最寄りのコンビニだ。雑誌の立ち読みをしてながら。飲み物を買って、周りを少し散歩するそんな夢たっぷりプランを立てていると。窓を隔てた向こう側でうちの制服を来た女子が雑滅危惧種並みにガラの悪いお兄さん方に絡まれている。これでこの娘が明日学校を休んだりしたら寝覚めが悪いので助けることにした。流石に何も買わないで立ち読みだけして出るわけにも行かずコーヒーだけ買ってさっさとコンビニを後にした。
嬢ちゃんイイことしようぜ。なんて下世話な話を吹っかけている不良に僕は声をかけた。
「おい。そこまでにしろよ」なんて正義の味方のように。もちろん、話の腰を折られた不良どもは、こっちにガンを飛ばす。「おい。おチビちゃんよお。家に帰っておとなしく寝てたらどうだ」なんて腹が立つ。こちらが睨み続けていると不良は腹が立ったのか殴りかかってきた。
体を低くして躱した。そして、ガラ空きの鳩尾に膝蹴りを一発入れた。そして、そんな赤子の手をひねるようなことを繰り返していると、コンビニから金髪の男が出てきた。
「何してんだ。お前ら」と疲れ果てている不良どもに声をかけた金髪は、倒れている不良の一人の首筋に顔を近づけて血を吸った。それを見た僕は、女の子に逃げているか確認してから全速力で、近くの公園まで走った。広い場所を目指して。
公園に着くと金髪が「お前さ。調子乗ってんの。血吸った吸血鬼に血吸ってない吸血鬼が勝てるとか」
「勝てなきゃ。困る」「おおーかっこいいねヒーローさん」「そんなんじゃない」「じゃあ。行くぞ」
「ああ。来い」こんな数少ない会話で伝わるのだから困る。そして彼は、両手に影を集めた。