世界の端で
目を覚ますと動けなかった
眼だけは動かせた
頭は重くて動かせない
体もいうことを聞いてくれない
冷静に混乱していた
まず状況を把握しようとして動けないのは恐怖だ
足音が聞こえてきた
遠くから近く
すぐ横にきた事を感じた俺はすぐに確認しようと眼を動かす
あまりうまくみえない・・・
視界の外で声が聞こえた
「泣く事をしない赤子だな長老よ」
「そうじゃな・・・赤子は泣く事が仕事のようなものなのじゃが」
「しかし眼はしっかりしている。まるで世界を理解しようとしているみたいだ」
「他の子とは少し違うのじゃ、不思議な事があっても受け入れてしまいそうになるの」
「竜人の力・・・我より強くなる事を願うのみ」
「うむ、それは確かにの。まるで大仕事を終わらせたような物言いじゃが子育てあるんじゃぞ?」
「ふむ・・・我の技少しでも伝えねばいかぬな」
「いや、じゃからの?ほら子育ての?」
「・・・???」
「侍女がおるじゃろ?何故我が率先して育てねばならぬのだそれにヤツと我の子だ何も心配いらぬだろう」
「我は乳をやり、技を教え、使命に背く事なきよう育てるのみこれが我の子育てだ仔細は侍女にまかすとしよう」
「う~む・・・」
「ヘレネス!おらぬのか!?ヘレネス!!!」
「ハッ!ここにおります」
「この子の面倒はお前にまかせるとしよう・・・それとそなたの子をこの子付侍女にするとしよう」
「ありがたき幸せにございます」
何か話勝手にすすんじゃってるけど・・・少し聞こえにくかったけど今の話の流れで俺赤ちゃんなわけ?鏡ないんですかー・・・
死後の世界か何かかな?転生しちゃった?それとも夢?もうわけがわからない・・・
再びグルグルまわる頭の中唐突な睡魔に抗うすべもなく眼をとじてしまったのだった
~数ヵ月後~
俺の名は日比谷志郎24歳製造職の会社員だ特に頭も良くはない
通勤はバスで通勤していた
していた・・・何?過去形だって?あぁ・・・今は床をはっているからさ
「侍女の仕事だとかぬかしておいて、結局つきっきりなんじゃな?」
「長老・・・生まれた赤子がいかにおそろしいものか・・・我は知らなかったようだ」
近くにいた長老と呼ばれた爺様は苦笑している
「奥様、子育ては命がけでございます」
「さようか・・・なれば身命として一人立ちするまでは我が我が・・・!」
この母親は何かスイッチ入ったら凄いんだよなぁ・・・
「おかあさま、おかあさま」
小さな子がヘレネスの裾をひっぱった
「何ですかカンナ」
「ケトスさまが・・・」
ケトス・・・そうケトスってのが俺の名前らしい・・・
正直喋れるようになったら改名したい気分だ・・・
今日やっと俺はハイハイできるようになった、長く険しい道のりだったぜ
「な・・・!?ケトスが動いただと!?座るのがやっとだったというに・・・」
「奥様!おめでとうございます」
その日を境に俺は行動範囲を少しずつ広げる事になった
まず俺が寝ている部屋机に椅子そして俺用のベッド
この部屋はあまり広くなくこざっぱりしている
おそらく俺がケガをしないように物を少なくしているのだろう
普通の赤子なら動けるようになったなら何をしでかすかわからないからな
隣の部屋にはいつも侍女のヘレネスがいる
特別な用事がなければ俺から離れないようだ
そしてヘレネスの子俺より3歳年上の女の子おそらく4歳くらいだろう
いつもヘレネスの傍を離れずいる。名はカンナというらしい
暇な時は俺の相手をしてくれている
まだ赤子の俺はこの部屋と隣の部屋を行き来するぐらいしかできない
というかまだ怖くて行動範囲をこれ以上広げれないでいる。
ある日カンナがこちらに来て、こう言った。
「ケトスさまはいつになったらしゃべるんですか~?」
じっとみつめられた
何か喋った方がいいのだろうか・・・しかし赤子だしな・・・
しばらく考えた後口を開いた
「あば・・・きゃ、きゃんな」うまく言葉にできなかった・・・
やはり言葉などはやかったのだろう
「ケトスさまがしゃべった~!!!」
大きな声だった
「な・・・何!?」
どこにいたのかすぐ母がかけつけてきた
「我・・・いや、ママだぞ~」
凄い笑顔だ
「ま、まんま」
「!?この子は言葉を理解できておるのか!?素晴らしい!何ということだ!」
「奥様、聡明な方になる事でしょう」
どこからともなく現れたヘレネスが静かに答えていた