日々の暮らし
僚を送り出してから、足早に職場に向かう。
詩織は結婚して直ぐに、車で五分の所にある雑貨屋で働き始めていた。
前の職業はエステサロン。月に500万を売り上げるトップエステティシャンだったが、結婚を気に引退した。家事をきちんとこなすために。愛する夫の側にいれるならば、築いてきたキャリアなど、惜しくもなんともなかった。
職場の雰囲気に合うよう、メガネをかけ、髪は後ろ一つにしばり、地味なTシャツ、ジーパン。僚や友人が見たらびっくりするだろう。
「おはようございます~」裏口から入ると同時に、女主任と目が合う。
優しくて、穏やかないい上司だ。
「おはよ、早速で悪いんだけど…学生が風邪だって連絡がきたの。今日もオール宜しく」
いつも嫌な顔せず引き受けるから、お願いされることもなくなって来た。
この雑貨屋はショッピングモール内のため、朝の9時から5時までの朝番、昼1時からのラストの9時までに2交代制。夜番はフリーターと学生でまわしているため、風邪だの、試験だの突然休みを取る。その穴埋めは、子供もいない、彼女に回ってくる。
「わかりました。」詩織は今日もあっさり了解する。どうせ、夫は何時に帰って来るかわからないのだ。もんもんとしてあの家にいるより、働いていた方がよほどマシだ。
僚の収入で十分にやっていけるため、始めは扶養内ではいってきたのだが、人手不足もあり、3ヶ月目にして扶養外に切りかえた。どれだけでも働ける。
とあるパートさんが声をかけてきた。
「ちょっと~先週もほとんどでずっぱりじゃない?たまには断りなさいよ?」
「仕方ないです、人足りないんだし」
実際には詩織にとって、この環境がありがたかった。できるだけ忙しくなればいいんだ。
少なくとも、この間だけは僚がどこで誰となにをしてるかなんてことを考えなくていい…。