破局への扉
その日は、突然にやってきた。
詩織が、夕食の支度をちょうど作り終えた時のこと。
「これは、なんだ?」僚が手にもっているのは記入済みの離婚届。
二人の共有のクローゼットの中に入れて置いたのを、僚が見つけたのだ。
「どういうことだ、詩織。」
普段ほんわりとした暖かい僚の目は、今までにみた事もないくらい、鋭く冷たい光を放っていた。
頭の中で、繰り返し繰り返し想像したこの場面…。
ゴクリ…と詩織は息を飲む。
「見ての通りよ。」
「理由を…言え。」
「私から言わせるつもりなの?」…なんて残酷な男だろう。
「もったいぶった言い方をするな。」僚の声が一層低くなった。
詩織は、すうっと深く息をすいこんだ。今日で、私達の結婚生活が…終わる。
「私が気づかないとでも思ったの?」
「一体、何のことだ。」
「あなたに女がいるってことよ。」
「…言ってる意味がわからない」
浮気した男は、同じセリフをいうのね…。
「ソンさんという女性とどういう関係?」
「お前が言ってるのは、ソン・メイファンのことか?」
詩織はゆっくり頷いた。
「全く、くだらない…!彼女はただの通訳だ。変な誤解をするんじゃない!」
僚の迫力に、詩織は一瞬戸惑った。
ここまで言えば、僚はメイファンとの関係を話すチャンスだと暴露するに違いないと思っていたからだ。
彼は、しらを切るつもりだろうか?
いっそここで謝って、誤解という事にしてしまおうか…。
そしたら、もう少しだけでも僚の側にいれる。
いいえ、もうそんな愚かな真似はしない。今こそ、自分の手で決着をつけるのよ…!!
「じゃあ、教えてあげるわ。私は見たのよ?空港で、あなたが彼女とホテルに入る所を!」
僚の目がすっと曇った。




