僚の本音
「おい、僚」
声をかけてきたのは、陽気でもっとも気の合う、友人の保だ。
「既婚者が、こんな時間まで飲んでて大丈夫なのか~?」
時計見ると、もう夜の11時。
「あー…アイツは束縛する女じゃないから、全然大丈夫」
「ほんと理解ある奥サンでうらやましい~!!」
「あいつは俺の事わかってるから。休日でかけたくらいでわめく女なんか嫁にしてない」
「はいはい、ご馳走さん!チクショー!お前ばっかいい思いしやがって~」
思いっきり頭をはたかれて、僚は、お返しとばかりに「このやろう!」と肘鉄を食らわす。
それを見ていた同じ遊び仲間の慶介が「なによ、どうしたよ?」と寄ってくる。
「保がさ、やたらからんでくるんだ。全く…」
「わかってやれよ…僚の嫁さんって詩織ちゃんだろ?僚が連れてきたとき、保は詩織ちゃん一目で気に入ったのに、お前全然協力しないで。しかも、いつのまにお前の嫁さんになってる」
くくくっと慶介は笑う。
「保の奴、こないだ酔っ払って、言ってたぜ。あの時手をつけてれば、詩織ちゃん俺のものだったのにってさ。」
お前に言われなくても、わかってるよ慶介。
今から一年前、詩織を連れてパーティに参加した時、保は一瞬にして彼女に目をつけやがった。けど詩織は当然連絡先を教えなくて、保は俺に仲を取り持ってくれと頼んできた。だけど、俺は「彼女に言っておく」とだけ言って、そしらぬ顔したんだ。
保はしばらく「詩織、詩織」と言っていたけど、俺は「本人から連絡しなんじゃ仕方ないんじゃないか?」って流したんだ。詩織からお前に連絡くるわけないよ、教えてないし。
詩織は俺の大事な友達だ。保のようなチャラ男に渡せるわけないだろっての…
「俺、今日は帰るわ!いちお、新婚なんでね」
保のくやしそうな顔を横目に、タクシーに乗り込んだ。
詩織と保をそれから二度と合わせなかったのは、誓って詩織のためだったんだ…
あんなやつが詩織を幸せにできるわけがないから。
そんな自分の考えに違和感を覚えつつ、僚は帰途についた。