閉じられた瞳
詩織は、夫・僚の帰りを今か今かと、待ちわびていた。
今日会った出来事を全部ぶちまけてしまいたいが、二人がまた連絡を取り合うきっかけになってしまうかもしれない。
かといって、自分一人の胸におさめておけるほど、強くない。
話すべきか、話さぬべきか、詩織は悩んだ。しかし結論はどうしてもでない。
…夫の顔がみたい、今すぐに。「大丈夫だ」と言って抱きしめて欲しい。
愛美や元妻に、誰に何を言われたって、あなたがただ一言、私に言葉をかけてさえくれれば、それを糧に、どんな暴言だって非難だって耐えてみせるから。
だからお願い…!今日は早く、早く帰って来て…!
そんな詩織の必死の祈りもむなしく、一時間、二時間と時間は経っていく。とうとう深夜0時を過ぎた。もちろん、メールも電話もない。
どうして、今日は帰って来てくれないの?
元妻と会ってるの?それとも、愛美と?
昨日まであんなに幸せな気分にしておいて、結局元通りの寂しい生活に戻れというの?
私に何をしたいの?
どうしてそんなひどいことができるの?
深夜2時をまわっても、僚は帰って来なかった。
ようやく重い腰をあげた。作った料理は、とっくに冷め切っていた。いつもはこうして残ってしまった料理は、ラップをして冷蔵庫に入れておくのだが、そのまま台所に向かい、全て三角コーナーに捨てた。…自分の想いと一緒に。
冷たいままでいてくれた方が、変な期待を持たないで、まだマシだった…。
いいえ、一瞬でも夢を見た、自分がバカだったんだわ。




