甘い生活②
一体夫はどうしたんだというのだろう…。
休日一日家にいたかと思うと、詩織の家事をしているところにアレコレ聞いてきいてきては、ニヤリと笑ったり、何か考え込んだり、むうっとしたりして。
僚をこっそり盗み見ると、ご機嫌でソファでゴロゴロして雑誌をめくっている。
チラチラとこちらを見てるあたり、興味は雑誌より私にあるようだ。
一瞬、「浮気」の二文字が頭をよぎる。
男は浮気をすると優しくなるという。だが、僚はそんなタイプではない。興味を失った女は、あっさり切り捨てるタイプだ。今までも、これからも変わることはないだろう。
それに優しいというより、不気味だ。あ、またこっちを見てる。夫の視線が気になって家計簿に集中できない。もたもたと計算機をうち直す。
「詩織、もう終わった?」とうとう話しかけてきた。
「ええ、買い物にいってくるわ」
「明日でもいいじゃないか?」
「今職場が人手不足で、勤務時間が伸びちゃって…。結局朝の9時から夜の8時40分まで仕事してるから、買い物できないの、休みの日に、しておかないと…」
「そんなに、働いてたのか。ちゃんと休憩してるのか?」
「ん…お弁当食べるのがやっと、かな。座れる時間は15分くらいね。」
「あんまり無理するなよ。」
「体力だけが、取り得だから。学生時代に比べれば、こんなのなんともないわ。」
詩織は苦学生だった。
高校を卒業し、お金なぞビタ一門も出さないからな、という父と継母の元を出て、進学した。1人暮らしをし、生活費と学費をバイトで稼いで、捻出した。それは並大抵の苦労ではなかった。
それに比べて今は、なんと幸せなことだろう。
住む家があって、好きな人の側にいることができる。小さなころから父に叩かれ、殴られ、継母には見えない場所を思いっきりつねられて、アザだらけだった幼少期。たとえ愛されていなくても、こうしてたまに優しい言葉をかけてくれる夫がいる。これで充分でないか。
これ以上を望むのは、贅沢というもの。上をみちゃダメ。今で満足するのよ。
シンと目の奥が熱くなる。過去はもう吹っ切れたと思ったのに、思い出すと泣けてしまう。
せっかく夫と二人で過ごしてるのに…。
そんな詩織をじっと見つめていた僚が、口を開いた。
「じゃ、今から買い物に行こう。」
「え?」
「二人の方が、少しは早くすむだろう?帰りに、食事をしよう。そうしたら夕飯作らなくていいじゃないか。」
「そ、そうね…。」
そうして買い物に出かけた。二人でスーパーに行くのは初めての事だった。
ポイポイと値段をみず買い物カゴに入れていく僚に、高いだの、新鮮じゃないだの、あーだこーだいちゃもんをつけながら、戻していく詩織。それは思いのほか、楽しい時間だった。
結局夕食は詩織が作ったが。夜は二人でワインを傾け、映画をみて、のんびりと過ごした。
心配してたとおり、保や愛美から電話がかかってきたが、僚は電話に出なかった。
「電話にでなくていいの?」
…答えるかわりに優しく押し倒した。