疑問
「明日で仕事が一段落するから、ゆっくりどこかへ行こう。」
そう言った翌日から、僚は早く帰ってくるようになった。とは言ってもどんなに早くても9時。しかし今までのように毎日午前様、というわけではない。だけど、夕食はしっかりと家で食べてくれるようになった。
詩織は嬉しくて仕方なかった。毎日張り切ってご飯作りにいそしむ。今日の夕飯のメニューはどうしようかな、と思いながらの仕事の帰り道は、億劫どころか、今までにないくらいウキウキしてる。
今日もずらりと食卓に料理が並ぶ。肉はいい具合に焼け、食欲をそそる。しゃりしゃりの大根サラダに、そら豆をフードプロセッサーにかけ、スフレ風にした。
「うんまい!」
その一言が嬉しくて、「明日も絶対美味しい料理を作ろう!」と思う。
夕食を終えて、寝るまでのほんの2、3時間。取り留めのない話をしたり、一緒にテレビを見たり。そんななんでもない普通の時が、詩織のなによりの幸せだった。
「明日の祝日、お前は仕事は休みか?」
「ええ、毎週月曜日は固定で休み。学生さんは試験で休みが続くし、皆風邪を引いたりして、代わりを頼まれてばかりで、結局6連勤務、オールは3回だったの。明日は家でゆっくり休むわ。」
きっと僚はどこかへ出かけるのだろう。もちろんこれは事実だったが、彼の負担にならないように、詩織はそう答えた。
僚は、「どこかへ行こうか」と言おうとしたが、この言葉をきいて、躊躇した。
独身時代から休みというと、ほとんどは出かけていた。刺激を求めて。家にいるなんてもったいない!外には色んな楽しいことがあるというのに。
だが、今は詩織とゆっくり家で過ごすのもいい、と思う。ハイセンスなファッションに楽しい会話。そんなものより、美味しい手料理や安らぎの方が、魅力的に思えた。
年をとったのかな、俺がこんな風に思うなんて。
違う、違う、ゆっくり休ませて上げたい、ただの親切心だ。
「じゃあ、明日は二人で朝寝坊だ。たまには二人でゆっくりしよう。」
突然、詩織の手をとって寝室に向かう。することといえば、甘い夫婦の夜の営み。
コトが終わり、あっというまに眠りについた夫の寝顔を見つめながら、彼は、頭でも打ったのだろうか?それとも何かあったのだろうか?とおもいあぐねる。
僚が一日家にいるなんて。…いいや、あまり期待しちゃいけない。明日になればいつものように誰かから呼び出しの電話があって、自分を置いてあっさり行ってしまうかもしれないんだから。
期待は、いつだって、裏切られるもの…。
散乱した服を拾い集め、詩織は自室に戻った。