思惑
まったく、いまいましい女…。
愛美はタバコを取り出し、火をつけた。
僚は、ずっと前から私が狙っていたのに。彼が振り向いてくれたなら、今の旦那なぞさっさと捨てて乗り換えたのに。
詩織と再婚した時、もう勝ち目はないとわかった。だから今の旦那と結婚した。
あの女は、とにかく僚の「特別」だった。
僚が主催するパーティや飲み会や打ち上げに、詩織が姿を見せたきは、本命の女をエスコートしてる時でさえ、いつも目で追っていた。少しでも1人になるとすっ飛んでいく。
明るく美人で、男女とわず誰に対しても上手に話をあわせる事が出来る詩織は、必ず誰かの目に留まり、「あの子は誰?」と話題にのぼる。それを「俺の女友達だ」を自慢げに話す僚が詩織に惚れているのは、誰の目にも一目瞭然。
二人が付き合ってない事の方が、不思議だ。
詩織が男を伴ってきた時など、僚は恐ろしく不機嫌だった。
相手の男に挨拶はすれども、それ以外は全く声をかけず、ひたすら酒をあおる。
レストルームに行こうとした詩織を追いかけ、せまい廊下で、話しかける僚。愛美はそんな二人の会話を盗み聞きした。
「お前、あの男はやめとけ」
「え?どうしたの僚?」
「確かに外見はイイ男だが、中身がないぞ、マジでやめとけ」
詩織はそれから間もなくその男を別れた。
さらにしばらくして、大学の後輩だという年下の男を連れてきたときは、電車がなくなる時間まで男を引きとめ、詩織を先に電車で帰らせた。
二人を一緒に帰らないように、僚がわざと画策したのは、明白だった。
友達の保や参加した男が詩織に目をつけ、なんとか連絡を取ろうとするのも、全て僚が握りつぶした。
あからさまに下心を持って近づいていく男には「あいつはそんな女じゃない、やめてくれ」
首をしめかねないほどの勢いは、普段の温和な僚が想像できないほどだった。
愛美はそんな風に大事に守られている詩織が、ねたましかった。
あの「来るのもこばまず、去るのを追わず」の僚が、何度も何度も誘うその意味がわかってない女。
差し出される惜しみない愛情を当然に受け止め、なんの努力もせずに、彼に愛されて。
いつのまに、結婚もして。…本当に、いまいましい。
だから、詩織に惚れこんでいた保と結託し、毎週毎週なんとか理由をつけ、連れ出してる。
簡単に幸せにしてなんか、やらないわ。せいぜいもんもんとするがいい。
でなきゃ、私は浮かばれない。
詩織さえいなければ、彼を奪い去れたのに…心底惚れる姿をしってるからこそ、私は告白できなかったのだ。くやしさに身をふるわせる。
「あれ、僚は?」
トイレから出てきた保が、愛美に声をかけてきた。
「奥さんが迎えに来て、帰ったわよ!!」
「えええ!詩織ちゃん、きたの?」
本当にトロい男ね!詩織をアンタに会わせない為に、トイレに入ってる隙に、さっさと帰ったのよ!
「そんなぁ~詩織ちゃぁん…」保はガックリとうなだれた。
どいつもこいつも、詩織、詩織って…!
あんな女、大嫌い…!!!