秘めた思い
11月の半ばの日曜日。やはり夫は朝も早くから出かけていった。
家で1人ですることもなく、かといって6日連続勤務した後の詩織は、どこかに出かける体力もなかった。
…そういえば、髪がのびてきたわ。直ぐになじみのヘアサロンへ予約を入れた。詩織は髪の毛さえ男性に触られることが余り好きではない。3つ年上の愛想も腕も良いかすみさんは、大のお気に入りの美容師さんで、もうずっと通っている。
「今日はどうされますか?」
「そうね…、ちょっとイメチェンしてみようかな…」と言うと、すかさず雑誌を持ってきてくれた。
「桜井さんはお顔が小さいし、形いいので、こういうボブなんかも似合いますよ~」
自分がずっとロングなのは、僚は長い髪が好きだからだ。「女の巻き髪は、いいよね」と聞いてから、絶対に肩より短くしたことがない。
いっそのこと、この髪をバッサリと切ってしまおうか。
なやんだ挙句、だした答え。
「…いつもどうりサイドはレイヤーをしっかり入れてください、後ろは痛んだところは切って欲しいんですけど、長さは…あまり短くならないようにお願いします。」
そう言って、笑えてきた。
いつだって、僚基準。この髪も、服も、仕事も、家事も、言葉さえも。
鏡の中の自分は、とても新婚半年とは思えないほど沈んでいる。
一体、自分はどこにいるの?何のために生きてる?
「さ、桜井さん?どうかされましたか???」
自分でも気付かないうちに大粒の涙があふれていた。
「コンタクトにゴミが…入っただけ。気にしないで…」
僚との結婚との引き換えに手にしたものは、意思も意見もない、ただ愛を請うだけの、こんなにも惨めな自分だった…