『まったり』論争
よく味を表現するときなんかに『まったり』という言葉を使ったりする。まろやかでコクがある感じを言うが、最近ではのんびりとした雰囲気や様子も『まったり』を使うようになった。
この『まったり』が俺は妙に気になる。というのも、この言葉が広まったとされるきっかけに異議があるからだ。
インターネットなどで調べると、もともと、『まったり』とは近畿を中心とする方言の一種だった。ここはいい。
問題は、80年代から連載がスタートした『美味しんぼ』が、味わいの表現にこの『まったり』を使うことで一般に広まった、とある所だ。
俺の認識としては、とあるマーガリンのコマーシャルで広まった、と思っている。
このコマーシャルは、街頭インタビューの形式で、マーガリンの感想を聞く、というものだった。そこである主婦がマーガリンを味わってこう言った。
「そうですねぇ、『まったり』してますねぇ」
これをはじめて見たとき、『まったり』って何だ!? と思った。この感覚は俺だけが持ったものじゃないはずだ。実際、あるギャグ漫画で、このコマーシャルをパロディにしている。普通、テレビコマーシャルというのは風化しやすいから、そのときの旬な題材をパロディにするものだ。パロディにするということは、それなりにインパクトがあったからに違いない。俺の周囲でも、当然、この『まったり』を揶揄するような風潮があった。
ただし、この『まったり』を広めるのに、『美味しんぼ』がまったく寄与しなかったかといえば、無論そうじゃない。マーガリンのコマーシャルを通じて『まったり』という言葉が人々の耳に残った。そして、その後それが定着したのは、やはり『美味しんぼ』のアニメが始まって、美食ブームが巻き起こったからだろう。それ以来、『まったり』はグルメには無くてはならない言葉になった。と、個人的には記憶している。
では、のんびりすることを『まったり』と言うようになったのはいつ頃からか? 残念ながら、こっちはさっぱり記憶にない。
「先輩、この話、本当なんですか?」
「いや、正直、自信ない。パロってた漫画のコミックスが手元にあれば、ある程度年代は特定できると思うんだけどなあ」
「じゃあ調べればいいじゃないですか」
「やだよ、めんどくさい」