『脱脂粉乳』
本当に食べ物の話が多い、と我ながら呆れる。
アニメ『おもひでぽろぽろ』に、脱脂粉乳のミルクを飲むシーンがある。もう何十回も見ているが、そのたびに、
「ああ、あれは本当に不味かった」
と、顔をしかめてしまう。だが、それを言うと、多くの年長者から指摘を受ける。
「お前の子供時代に、そんなものを飲ませられたはずがない」
なるほど、俺の知識をもってしても、確かにそうだ。あれは、戦後すぐの食糧事情が悪い時期に飲まされはじめたもので、日本人が裕福になった80年代の子供は、学校で牛乳を飲んでいたはずだ。だが、誰がなんと言おうと俺はそれを飲まされていた。ただし、幼稚園でのことだ。
ひとりずつ、黄色いプラスチックの椀に粉を入れられ、ポットから生暖かいお湯がそそがれることで、その恐怖の飲み物はあっという間に完成してしまう。無駄な甘ったるさと妙な苦さ、そして鼻を突く臭み。それがじんわりと口全体に広がる。我慢して飲み干しても、しばらく臭みは残り、後口は最悪だ。
そんな苦い……いや、甘、苦、臭い記憶も、時が経てばすっかりと忘れ去られる。成長するにつれ、飲む機会なんてゼロに等しい脱脂粉乳なのだから、味はおろか、嫌いだということさえ忘れていた。だが、ある日、はるか彼方にあった記憶が鮮烈に思い起こされることがあった。
非常に短期間での出来事だから、だれも覚えてないと思うが、一時期、全国のスーパーの店頭から『スキムミルク』が消える、ということがあった。理由は、とある情報番組で、スキムミルクで作ったヨーグルトを食べると痩せる、と紹介されたからだ。当時、この情報番組は、健康などを取り扱い、非常に影響力があった。番組内で〇〇が身体にいい、と言えば、翌日には店頭で品切れする、といった具合だ。
だが、テレビの影響など、三日もすれば落ち着くものだ。やがて店頭に『スキムミルク』が揃えられるようになると、その番組の熱心な視聴者だった家族は、待ってましたとばかりに買い揃え、さっそくヨーグルトを作った。せっかくなので、俺も出来たヨーグルトを食べてみたのだが、一口で吐き出してしまった。同時に、すっかり忘れていた、あの幼稚園での記憶が蘇ったのだ。
俺は『スキムミルク』が脱脂粉乳のミルクのことなのだと知らなかった。
食べられない食べ物がないことが自慢だったが、ついに嫌いなものができた……というよりも、思い出させられた瞬間だった。
「先輩、実家からスイカが届いたんですが、おすそ分けしましょうか」
「いや、いい。俺スイカ嫌いだから」




