『白いラーメン』
食べ物の話ばかりだが、『黒』ときたら次は『白』だろう。
ラーメンの何が白いかと言えば、スープだ。そう、何のことはない豚骨ラーメンのことだ。
今でこそ、豚骨はご当地ラーメンブームもあって広く一般に知られ常識にまでなっているが、昔はそうではなかった。もちろん、少なくとも俺の周りでは、だが。
あるとき、実家の近所に一軒のラーメン屋ができた。そこは俺の友達の家だった。
当時、ウチは外食をする習慣がなかったが、その時ばかりは出前を取ってみよう、という話になった。
しばらくして届いたラーメンを見て驚いた。
「スープが白い!」
それまで、ラーメンと言えばしょうゆしか知らなかった我が家にとって、白いラーメンは衝撃だった。子供である俺だけでなく、大人も白いラーメンなど見た事がなかった。
そんな中、家族の誰かが言った。
「そういえば、九州のラーメンはスープが白いと聞いたことがある。これは九州ラーメンなんだろう」
今の人が聞けばビックリの内容だろうが、これは80年代の、日本の片隅でおこった会話だった。ラーメンの器に書いてある店名には、はっきりと九州の地名が書いてあったが、当時の俺にそんな事は分からない。
わくわくしながら食べたその味は、クリーミーで力強い味わいの、今まで食べたことのないラーメンだった。実に美味かった。それ以来、ちょくちょくその豚骨ラーメンを食べるようになったが、当時、豚骨ラーメンを供する店はその店しかなく、やはり俺のなかのラーメンの定番と言えば、どこに行っても食べられるしょうゆのままだった。
大人になった俺は、ある時ラーメン店めぐりをしようと思い立った。世はラーメンブームだった。
ガイドブックを片手に、色々と食べた結果、美味いと思うのはすべて豚骨ラーメンの店だった。気付けば、俺はすっかり豚骨ラーメンの虜になっていた。
「結局は子供の頃食べたラーメンの味が一番なのかも知れない」
九州出身の知り合いが言う言葉にも、どこか頷けるところがある。それだけ、子供の頃に受けた『白いラーメン』の衝撃は根強く、心の奥底に刻みつけられていたんだろう。
「先輩、ラーメンが食べたくなりました。美味しい店、教えてください」
「ここらへんのラーメンはクソ不味いから行くなよ」
「美味しい店を聞いてるのに……」