『ジャッキー』の思い出
はじめて観たジャッキーの映画は何だったか覚えていないが、物心がついたときには、すでにジャッキーはスーパースターだった。おそらく70年代のカンフー映画で知ったのだろうが、悪者をバッタバッタと倒すジャッキーの姿は幼心にも痛快だったに違いない。初期のジャッキーの映画で印象的だったのが、いきなり最強なのではなく、一度は敗れ、そこから師匠について修行をして、強敵を倒す、というところだった。
幼い頃の俺は、いわゆる、いじめられっ子だった。当時は両親が働いていたため、保育園に通うこととなったのだが、保育園にはそれぞれ保育期間が違う子供がいる。つまり入園するタイミングがそれぞれ違うのだ。3年保育だった俺は、彼らから見れば新参者だったのだろう。集団生活にまだ慣れていないこともあって、俺はいじめられる対象となったのだ。
そんなある日、俺はジャッキーの映画を観た。内容こそ忘れてしまったが、カンフーで敵を倒すという痛快にして単純明快なストーリーに大いに興奮したことは覚えている。すぐにカンフーの真似ごとをして、
「修行して強くなって、いじめるやつを倒す」
というようなことを母親に言ったと記憶している。母親は、いじめられているのか、と不思議そうな顔をしていた。保育園児がいじめにあう、ということに現実味がなかったのだろうか。それも時代と言えば時代といえる。
それから間もなく、理由は覚えていないが、保育園でよってたかって五~六人からいじめられる事態が発生した。俺はすかさず、
――いまだ!
と覚悟を決め、反撃に出た。特にカンフーっぽいことができたわけではなく、大声を上げて突進したにすぎなかったが、いじめていた連中は予想外の逆襲に驚いたらしく、蜘蛛の子を散らすように散り散りになって逃げ出した。俺は執念深く一人ひとりを追いかけ、捕まえては相手が泣くまでぶん殴る、ということを続けた。素直に謝った奴は許してやったが、それ以外の全員を泣かすことに成功した。保育園児のケンカなど、泣かせれば勝ちなのである。以来、もう俺がいじめられることはなかった。
あのとき勇気をくれたのは紛れもなくジャッキーだった。
生まれてはじめて映画館で観た映画もジャッキーだった。84年公開の『スパルタンX』がそれだ。
『スパルタンX』はファミコンでゲーム化されるのだが、そのゲーム内容と映画の内容は全然違う。なんでもゲーム制作時にはタイアップは決まっていたものの、内容が未決定だったため、各階のボスを倒しながら塔の最上階で捕われているシルビアを助けに行く、というゲームになったのだとか。
それは良いとして、まだ『プロジェクトA』を見てなかった俺としては、ジャッキー、サモハン、ユンピョウの三人がそろったところにとても興奮した。今みても、ギャグとアクションのバランスが絶妙で、俺はジャッキー映画ではこの『スパルタンX』が一番好きだといえる。
ところで、近ごろ感心したのは、とあるビールの企画で制作された映像だ。これが実にすばらしいものだった。
この企画は「あなたの夢をかなえます」というキャンペーンで、様々な人の夢を募集し、そのなかの面白いものを実現しよう、というものだったのだが、とある会社員の「カンフー映画の主役になりたい」という夢が選ばれた。そして、なんとジャッキーが出演する映像が撮影されたのである。
主演はとうぜんその会社員で、ジャッキーはその師匠という役どころ。しかし本当に感心したのは、その映像のなかに、さまざまな「こだわり」がちりばめられているところである。ひとつひとつのネタが、本当にひざを打ちたくなるくらいに気が利いているのだ。CMでは一部のみしか流れなかったと思うが、フルサイズのものがまだネット上にアップされたままだと思うので、知らなかった方は、ぜひ見てみることをお勧めしたい。ちゃんと吹き替えが石丸博也であることも嬉しい。
ところで、ジャッキーの声優は石丸博也が当たり前だとして、サモハンとユンピョウは、それぞれ水島裕と古谷徹でないと気が済まないのだが、他の人はどうなのだろう。
「ジャッキー・チェンといえば、いまやハリウッドスターですよね」
「俺はハリウッドより前のほうが好きだが、『ラッシュアワー』とか『ベストキッド』とかは面白かったな。『ベストキッド』はミヤギじゃないから少し違和感はあったけど」
「宮城?」
「ベストキッドと言えば空手の達人ミヤギだからな」
「空手?」
「……ジェネレーションギャップってやつか」